王宮の奥、花婿控室。
重厚な軍装のような正礼装に身を包み、じっと扉の向こうを見つめる。
周囲では侍従が礼服の皺を丁寧に伸ばし、騎士たちが最終確認に余念がない。
だが俺の意識は、そこにいる誰でもない一点……彼女にだけ向かっていた。
……いよいよだ。
今日、あの人は俺の妻になる。
結婚式前日に新郎新婦が顔を合わせることは不吉とされるという古い慣習がある。
必死にそれに従ってはいるものの、昨晩から何度も会いに行ってしまおうかと心が揺れた自分を止めるのは難しかった。
セシルのためにと早めに整えたこの日。
彼女はその期待に応え、完璧にお妃教育をやり遂げてくれた。
胸の奥に湧くのは、誇りと安堵と、言葉にしがたい愛惜だ。
ずっと夢見て、数えきれないほど心の中で呼び続けたリエルを、ようやく隣に迎える日だ。
諦めかけた夜もあった。折れそうになった瞬間もあった。
それでも今日、ここに立てている自分のすべてが、いま報われる。
ふと、指先に触れた感覚で、無意識にあの日の契約書を思い出す。
王宮で血判を押した瞬間、クローバー家の側から光が走り、名前が重なった……あのときの冷たく光る刻印の感触まで思い出す。
……これでもう、どんなに運命が揺らごうと、彼女は俺のものだ。死んでも離さない。離すつもりもない。
侍従の低い声が現実へと引き戻す。
「殿下、まもなくご出立のお時間です」
俺はわずかに目を閉じ、深く息を吐いた。
彼女の姿を思い描く。
無防備な自室での素顔、気さくに街を歩くときの庶民めいた服装。
幾度も見たドレス姿。だが今日しか見られない、ために用意された特別な装い……きっと、この世のものとは思えないほど美しいだろう。
リエル……もうすぐ、君に会える。
重厚な軍装のような正礼装に身を包み、じっと扉の向こうを見つめる。
周囲では侍従が礼服の皺を丁寧に伸ばし、騎士たちが最終確認に余念がない。
だが俺の意識は、そこにいる誰でもない一点……彼女にだけ向かっていた。
……いよいよだ。
今日、あの人は俺の妻になる。
結婚式前日に新郎新婦が顔を合わせることは不吉とされるという古い慣習がある。
必死にそれに従ってはいるものの、昨晩から何度も会いに行ってしまおうかと心が揺れた自分を止めるのは難しかった。
セシルのためにと早めに整えたこの日。
彼女はその期待に応え、完璧にお妃教育をやり遂げてくれた。
胸の奥に湧くのは、誇りと安堵と、言葉にしがたい愛惜だ。
ずっと夢見て、数えきれないほど心の中で呼び続けたリエルを、ようやく隣に迎える日だ。
諦めかけた夜もあった。折れそうになった瞬間もあった。
それでも今日、ここに立てている自分のすべてが、いま報われる。
ふと、指先に触れた感覚で、無意識にあの日の契約書を思い出す。
王宮で血判を押した瞬間、クローバー家の側から光が走り、名前が重なった……あのときの冷たく光る刻印の感触まで思い出す。
……これでもう、どんなに運命が揺らごうと、彼女は俺のものだ。死んでも離さない。離すつもりもない。
侍従の低い声が現実へと引き戻す。
「殿下、まもなくご出立のお時間です」
俺はわずかに目を閉じ、深く息を吐いた。
彼女の姿を思い描く。
無防備な自室での素顔、気さくに街を歩くときの庶民めいた服装。
幾度も見たドレス姿。だが今日しか見られない、ために用意された特別な装い……きっと、この世のものとは思えないほど美しいだろう。
リエル……もうすぐ、君に会える。



