転生した悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!〜二つの王冠の子〜

「母上!」

形式上の礼を取りながらも、その視線は王妃であるわたくしにではなく、まっすぐ目の前の少女に。
その目が驚きと安堵で揺れることに、驚いてしまう。
普段は冷静沈着、王太子の仮面を決して外さない、そのように教育したし、実際そのように成長した我が子が公務を放ってやってくるなんて……。

「……やはりここに」
「あら、もうばれちゃったのね」

最初に見せた動揺を隠すようにまっすぐこちらへ歩み寄ってくる。

「アリエル、大丈夫か?」
「え……うん。別に心配されるようなことは」

心配そうに目の前に座る少女の肩に手を添える姿。
その視線は、わたくしなど眼中にないかのように真剣。

「もう、邪魔をして。告げ口したのはコンラートかしら?」
「……彼は優秀な側近ですからね」

この表情は、一刻も早くこの場からアリエル嬢を連れ出したいのかしら。

どんな令嬢を候補に挙げても見せなかった顔。
けれど、彼が追い求め続けた少女を前にすると、こんなにも余裕を失うなんて。

「それで?何かあったのかしら?」
「……そろそろ、アリエルをお返しいただけませんか」
「あら。アリエル嬢は、わたくしの娘でもあるのではなくて?」

からかうような響きに、我が子の表情がますます曇る。
母としてはつい茶化したくなるけれど、王太子としてでなく『一人の青年』としての顔を見せてくれたことが、少し嬉しくもあり、寂しくもあった。

「仕方ないわね……また、いらしてね、アリエル嬢」
「ありがとうございます」

立ち上がり、手を取り合う若い二人。
その微笑ましい姿は、母として今日一番見たかった光景だった。
二人の背を見送りながら、胸の奥がほんのり熱くなるのを感じた。