転生した悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!〜二つの王冠の子〜

「ユリオス……お前は今後の展開をどう読む?」

馬車の中で問いかけると、ユリオスの顔が一瞬曇った。

「近く発表されますが、皇女が第一皇位継承権を得ることになります」
「それだけか?」

考えを手繰るようにユリオスは目を伏せ、低く言葉を落とす。

「我が国との、同君連合(パーソナルユニオン)が狙いである可能性があります」
「……何だと?」

その言葉が出た瞬間、車内の空気が変わる。
同君連合(パーソナルユニオン)。一人の君主が複数の国の王位を同時に継承すること。
史書で読む冷たい語句が、今、眼前に現実味を帯びる。

いや。可能な人物が、この国に一人だけいる。

「セシルか……!」
「もし、帝国の皇女とセシル殿下の婚姻が成立すれば、お二人の御子は我が国の王位継承権と、帝国の皇位継承権……つまり、両国の継承権を持つことになります。
形式上は共有された王冠ですが、実態は帝国がアストリアを取り込む口実になりかねません」

ユリオスの声には冷静さがあるが、その瞳は引き締まっていた。

「両国の国民が納得するだろうか」

アストリアと帝国は言語や文化が近しくとも、法も習慣も国益も違う。ユリオスの言葉が胸に刺さる。

「形式上は同君連合(パーソナルユニオン)ですが、実質は帝国に飲み込まれる危険性が高いでしょう」
「……他国の前例と照らし合わせてもか?」
「恒久的に同君連合(パーソナルユニオン)が成功した国家は、歴史上二国のみです」
「たった二国……」
「二国共に、新たな国を建国するという形で」

セシルを媒介にして帝国はアストリアを従属させられる。

両国の王冠が同時に彼の頭上に置かれる。その意味は、希望か、それとも戦乱の火種か。
アストリア王国だけでなく帝国まで巻き込み、セシルの頭上に二つの王冠を乗せることを望むとは。
なんということを考えるんだ……

背筋が冷たくなるのを感じた。
后妃の狙いを思えば……答えは後者に傾く。

元々血の気の多い帝国だ。アストリア王国が巻き込まれる可能性の方が高い。
隣国はもちろん、その他の諸外国も納得するとは到底思えん。
下手をしたら一触即発、そのまま戦争にすら……。

「殿下……唯一、同君連合(パーソナルユニオン)を防ぐ手段があります」
「……何だ。言ってみろ」

声に、多少の苛立ちと期待が混じる。ユリオスは目を伏せ、短く息を吐いた。

「殿下ご自身の婚姻を前倒しにする。
公的な立場を先に固めてしまえば、セシル殿下を未来の架け橋として祭り上げる余地を減らせます」

ユリオスの瞳に一瞬、迷いと悲しみの色が見えたが、やがて覚悟を固めた声で言った。

「ただし、もう一つ条件があります」
「なんだ?」