転生した悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!〜二つの王冠の子〜

コンコンコンッ

ノックの音にビクリと肩が跳ね、伸ばされた手が物寂しげに引っ込む。

「殿下……」
「コンラート。まだ一時間には早いだろ?」
「ユリオス殿が急な面会を求めています」
「……!すまない、少し出る……」

兄の名前が出た瞬間、エドの顔が険しく曇った。
外交官のユリオスが急な面会なんて、それだけで良くない知らせだと告げているようなもの。

年越しの祈りの時……兄がエドに耳打ちしていたことが脳裏によみがえる。

『 帝国の皇太子が病に臥せっていると情報が入った』

胸の奥で、嫌な予感が鈍く広がった。
扉を挟んで兄と話すエドの横顔が見えないのが、かえって不安を煽る。

やがて戻ってきた彼の瞳は、いつになく重かった。

「リエル……すまない。至急ユリオスと公爵閣下と共に王宮に戻らなければならない」
「あ……うん。私のことは気にしないで」
「コンラート、アリエルを頼む」

あまりに急な展開に、頭が追いつかない。
しかも残されたのはエドの側近コンラート。彼のことはエドの乳兄弟で忠実な臣下という情報しかなく、ほとんど言葉を交わしたこともない。
正直、不安しかないんだけど……!

「アリエル様、少しご説明させてもらってもよろしいでしょうか?」
「あ、はい!お願いします!」

深く一礼した彼の声は落ち着いていて、少しだけ胸が和らいだ。

「帝国と我がアストリア王国は、同盟国なのはご存じですよね?」
「はい……」
「緊張感を孕んだ同盟関係ではありましたが、王妃殿下と后妃殿下がアストリア国に降嫁されたことで、表向きは友好関係となったのが現状です」

王妃と后妃が、帝国の人……!?

「帝国には第一皇位継承権を持つ皇太子がいました。ですが……」

短く間を置いた後、コンラートの声は低く響く。

「昨年末から体調不良の噂があり……先ほど薨去されたと」
「薨去って……」

その言葉の重みが胸に落ちた瞬間、背筋を冷たいものが走った。
皇位継承者が亡くなったということは、帝国の玉座が揺らぐということ。
それがどれほど大きな波を生むのか、想像するだけで息が詰まりそうになる。

エド……大丈夫だろうか。
あの曇った横顔が、脳裏に焼き付いて離れなかった。

「それがアストリア国にどういった影響があるんでしょうか……?」
「今、そのことで王宮で緊急の対応を話し合われているかと存じます」

胸の奥で、正体の分からない不安がじわじわと広がる。

「コンラート様、ご説明ありがとうございます……」

礼を言いながらも、歯がゆさが募る。
私は報告を待つしかないのだ。立場も力もなく、ただ祈ることしかできない。

「私は大丈夫ですので、コンラート様も王宮にお戻りください」
「お心遣い、感謝いたします」

深く敬意を込めて頭を下げ、部屋を出ようとした彼を、思わず呼び止めた。

「あの!エド……殿下の力になっていただけますか?」
「……もちろんです」

改めて言う必要なんてないのかもしれない。
けれど、その言葉だけが、今の私にとって唯一の支えになった。