転生した悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!〜二つの王冠の子〜

「……っ、エド!」

思わず声を潜めて詰め寄る。

「確かに直前はちょっと体調悪かったけど!変に目立つこと、止めてほしいんだけど!?」
「リエルが気にする必要は無いよ」

エドは肩越しにこちらを見下ろし、平然とマントを直している。

「顔色が優れないように見えたのは本当だしね」
「……っ、それは、その……緊張してただけで……」

声が小さくなる。言い訳が見つからない。

「なら、俺のせいにしておけばいい」
「え?」
「『殿下が無理を言って助けてくれた』とでも思っておけばいいんだ」

悪びれもせず、当たり前のように言ってのける。
その笑顔がズルいんだよ!なんでそんな顔して当然みたいに言うの!?

再び会場へ。エドに導かれ、玉座の前へと進む。
膝を折ると、王の低い声が響いた。

「よく参ったな、アリエル」
「楽しんでいらっしゃる?」
「はい、王妃殿下。身に余る光栄にございます」

王の眼差しは厳格でありながら、どこか温かさを含んでいた。
王妃の柔らかな問いかけに、胸の緊張がふっと和らぐ。

その時、背後から久しぶりに聞く声がする。

「兄上、姉上」

振り返れば、エドによく似た面影を持つ少年……第二王子のセシル。
間近で見ると本当にエドに似ていて、やっぱり『ミニエド』みたい。
可愛い~!って、思わず心の中で叫んでしまった。
同じ王子様なのに、まだ幼さが残っていて、無意識に胸がくすぐったくなる。

ふと気づく。
本来なら隣に並ぶはずの后妃の姿が見えない。

「……あの、セシル殿下。后妃殿下は……?」

恐る恐る問いかけると、王妃がすぐに応じた。

「体調が優れなくて、今宵も控えていただいているの」

その穏やかな声に、場はすぐに落ち着いた。

后妃にはいつ挨拶できるんだろう。
そんなに私に会いたくない理由が、やっぱりまだあるのか……。

大広間の灯りが遠ざかり、冷たい夜気の中へ一歩踏み出す。
雪はまだ静かに舞い降り、吐く息は白く空へと溶けていった。
用意された馬車に乗り込むと、さっきまでの喧騒が嘘みたいに消える。
暖かなランプの光と、揺れる毛布の温もりだけが支配する、閉じられた小さな世界。

「……お疲れさま」

エドがそっと肩にマントを掛け直す。
その声を聞いた瞬間、張り詰めていた糸が一気にほどけるように、胸の奥が緩んでいった。

「ん。セシルにも会えたし、来て良かったよ」
「セシルか……」
「ふふっ、王太子のくせに弟にヤキモチ妬いてるの?」

軽口を叩いたつもりだった。けれど、氷青色の瞳がランプの灯りを映して揺れた次の瞬間……ドサッと押し倒される。

「当然だろう?俺の婚約者が、こんなに美しいんだから」

至近距離で響いた声に、心臓が跳ね上がる。吐息が重なり、唇が触れるのは必然だった。

「……そっか。なら、しょうがないな」

短く、甘く、安心を込めた口づけ。
一度きりじゃ終わらない。触れては離れ、また触れる。
そのたびに鼓動が重なり、世界が小さく閉じていく。

窓の外には雪。けれど、曇り始めたガラス越しではもうよく見えない。
残されたのは、互いの息遣いと、ぬくもりだけ。
雪の夜を走る馬車の中、まるで世界に二人きりになったような錯覚すら覚えた。

公爵邸に付くと、エドの手を取り馬車から降りる。
けれど、エドは再び馬車の方に戻る。

「え?上がらないの?」

公爵邸に着き、当然お茶でも飲んでいくと思っていたのに。

「その気持ちだけでもらっておこうかな。おやすみ」
「あ……おやすみ……」

あっさりと背を向けるその姿に、思わずぽかんとする。
ほんの数分前まで馬車の中で押し倒してきた人と、本当に同じ人物なんだろうか。
まったく、貴族のルールってやつは、最後まで理解できそうにない。