転生した悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!〜二つの王冠の子〜

嬉しすぎて声が弾む。
さっきまで空気読めないやつなんて思って、本当にごめん。

エドが用意してくれたコートのほか、編み上げブーツとチェックのマフラーを身につける。

「リエル、この髪飾りは?」
「ん?あぁ、さっきヴィクトルがくれたの」
「ガブランの子か。帽子をかぶるからね、外しても構わない?」

小さく頷くと、大きなエドの手が耳をかすめて髪の毛に触れ、髪飾りを外してくれる。
その代わりに被せられたのは、小ぶりで耳まで隠れる帽子。

「外は寒いからね。本当は邪魔だけれど、手袋も」

そう言って、指先まできっちりと手袋をはめてくれる。
ただそれだけなのに、婚約式で指輪をはめてもらった時の記憶が蘇り、胸がきゅっと高鳴る。
たかが手袋。されど手袋。
どうしてこんなに緊張するんだろう。

灯りと歌声で賑やかな通りを抜け、エドと初めて街に繰り出したときに立ち寄った本屋へと足を踏み入れる。

扉を押し開けた瞬間、目の前に広がった光景はまるで小さな大聖堂だった。
高くそびえる木の書棚が壁一面を埋め尽くし、天井近くのステンドグラスから差し込む光が床に七色の影を落とす。
紙とインクの独特の香りが漂い、ページを繰る音や囁くような会話がざわめきとなって混ざり合い、不思議と心地よいざわつきを生み出している。

棚には季節の装飾が施され、聖夜祭や冬の物語を描いた本が美しく並んでいた。
煌びやかな外の喧噪とは違い、この空間には厳かさと温もりが同居している。

何度訪れても、この景色には胸が高鳴る。
慣れるなんてことはなく、むしろ前より深く心を奪われてしまう。

絵本や詩集、寓話集。
タイトルは『聖夜の奇跡』『星降る夜の贈り物』『冬至の精霊』……サンタやキリストではなく、この世界ならではの幻想的な題名が並ぶ。

気づけば無意識に次々と手に取ってしまい、指先がページをめくるたびに時間を忘れる。
ふいに後ろから伸びた大きな手が本を取り上げ、視線を向けると、いつの間にか後ろに立っていたコンラートの腕には、すでに積み上がった本の山が。

「まさか……また全部買う気!?」
「もちろん」

ためらいもない即答に、思わず顔を覆う。
ドレスの件といい、この人の金銭感覚は絶対どこかおかしい。
こいつ、本当にちゃんと私を養えんだろうな?心配になってくるんだけど。

「あ、この表紙、可愛い……」

思わず手に取ったのは、赤ちゃん向けとしか思えないような柔らかな絵柄の布張りの絵本だった。

「それも買おうか」
「えっ、でも赤ちゃん向けっぽいよ?」
「構わないよ。いつか必要になるからね」

いつか必要……?赤ちゃんの絵本が?って……

「っ~~~!!バカだろお前!!!」

一気に顔が熱くなる。
私の反応を楽しむようにエドは微笑み、ためらいもなくその絵本をコンラートに渡してしまった。
もう、この人の言葉は冗談じゃ済まない気がする。

長居してしまった本屋を後にすると、外は冬の夜気に包まれつつも、聖夜市の灯りと人々の熱気でむせ返るほどに賑やかだった。
歩くたびに香ばしい匂いや甘い香りが風に乗って漂ってきて、ただ歩くだけでお腹が刺激される。

「少し寄ってみようか」

エドに手を引かれ、焼き栗の屋台に足を止める。

「リエル、手を」

言われるままに差し出した手のひらに、コロンとした栗が乗せられた。

「っ、熱っ!」

思わず飛び跳ねる私を見て、エドは堪えきれずに笑う。
大きな手で器用に殻を剥ぎ、ふっと息を吹きかけてから差し出してくるその仕草に、胸の奥が妙にくすぐったくなる。

「ほら、口を開けて」
「自分で食べられるから!」

差し出された栗を受け取ると、ほくほくの甘さが口いっぱいに広がり、自然と頬が緩む。

また歩き出すと、今度は蜂蜜菓子の甘い香り。
つい足を止めた瞬間、エドが即座に購入してしまう。

「だから多すぎるって!」
「残ったらお土産にすればいいよ」

本気なのか冗談なのか分からない言い方に吹き出しながら、一口かじれば、じゅわっと溢れる甘さが口いっぱいに広がって幸せになる。

「少し休もうか」

人通りの落ち着いた広場に置かれたベンチに、エドが自分のハンカチを敷いてくれる。

「寒くないかな?ちょっと待ってて」

そう言って屋台に向かい、戻ってきた彼の手には湯気を立てるホットワイン。
赤いカップを両手で受け取ると、じんわりと指先まで温かくなる。

「冷えただろう。少しは温まるはずだ」

唇をつけた瞬間、シナモンと柑橘の香りが広がり、身体の奥までじんわり熱が通っていく。

「……美味しい」

思わずこぼれた呟きに、エドの人差し指が頬をなぞった。

「顔、赤いな。酔った?」
「こんな弱い酒で酔うわけないだろ!」

慌てて否定する私に、彼は愉快そうに目を細め、耳元で囁く。

「酔った姿も見てみたいけどね」
「な……舐めてると、逆に酔い潰すぞ!?」

強がってはみたけれど……忘れてた。
未成年のアリエルの身体だから、普段はなんだかんだお酒を避けてたんだった。
どうせアルコール飛んでるだろうと思ったけど……それなりにアルコール残っているな。
体はぽかぽか、頭はふわふわしてくる。

「……エド」

気づけば自分から、彼の袖をきゅっと掴んでいた。

「ん?」
「……連れて来てくれて、ありがとう……」

エドは嬉しそうに口元を緩め、そっと肩を抱き寄せてくれる。
祭りの喧噪の中、二人だけが別世界にいるようで、灯りと音楽と甘い香りに包まれながら……まるで夢の中にいるみたい。

一番のプレゼントは部屋に籠って休む時間だと思っていたけれど。
……次の誕生日も、こんなふうに過ごせたら。
それこそが、何よりの幸せなのかもしれない。