聴きたいのは、君のエール!

平穏な生活が送れればいいって思ってたのに大変なことになった。
マジでどうしてこうなった、全然意味がわからない。

「野球部の応援歌を制作するなら廃部は考え直してやらないこともないな」

なんだかすっごい上からの小暮先生の言葉に顔が引きつる。
別に小暮先生が持って来た話でもないし、俺の後ろで垣ノ内も創志も状況についていけてないし。

「毎年吹奏楽部が作るんだけどなぁ、今年は作れる生徒がいなくて困ってたんだよ」

も少し活動増やしたり実績を残したりすれば廃部は免れるかもって言っていた。でもまさかこんなことになるなんて想定外だ。

「吹奏楽部のために作ってやってくれ」

ふぅっと息を吐いた小暮先生はぽんっと俺の肩を叩いて…

「頼んだよ、瀬戸」

デジャブ…!
これは軽音部の活動だよな?俺個人じゃなくて軽音部としての…っ

「彩生!なんだよこれ!?」
「いや、それは…」
「野球部の応援歌って初めて聞いたんだけど!」
「俺も初めてだよ、応援歌なんてのあったんだな…」

吹奏楽部が試合のたびついてってるのは知ってたけど、どんな曲をやってんのかまでは知らなかった。学校オリジナルなんだ、あれって。

「でもまぁ彩生、曲作れるもんな」

…はぁ?
目をぱちくりしながら垣ノ内の方を見てしまった。
なぜそれを?言ったことなかったのになんでそれを…!?

「よく弾いてるもんな」

聞かれてたことを知らなかった、どーせ誰もいないだろって思ってたしギター弾いてる時は夢中で気付かなかった。
垣ノ内の隣でこくんっと創志が頷いてるから…

「彩生、あとは任せた!」
「お前らもやれよ!」
「じゃあ!」
「おい垣ノ内!創志も…っ」

わかってた、正直わかってた。
…こうなることは最初からわかってたけど。

「どーせ俺がやるんだろ」

ぐだっとイスにもたれてはぁーっと下を向きながら息を吐いた。
部活の活動日だっていうのに誰もいねぇし、結局誰も来ねぇんだよ。任せた!って言うだけ言って部室を出たまま戻ってくることなんかないんだから。
そりゃこんな部活、廃部だよな。俺が顧問でも廃部にしてるわ。

「…はぁ」

少しだけ天井を見てすぅっと息を吸った。
吐いた時には前を見て、目の前にあったギターを持った。

今はギターが弾きたい、いっそのこと何もかも忘れるみたいに。
思うがままに指を動かしてそのまま自由に掻き鳴らすんだ、誰もいない部室で好き勝手弾けるの嫌いじゃないから。

ギターを奏でてる時間は、何より好きなー…

―ガラッ

「!?」

突然開いた窓にビクッと手が止まった。
勢いよく開けられた窓からぶわっと風が入り込んで髪の毛が揺れる、バクバクする心臓のまま窓の外を見たらニカッと大きな口を開けて笑うあいつがいた。

「…何してんだよ」
「聞こえたから!ギター!!」

野球部のユニフォームを着てキャップをかぶって、今から部活だからな大抵の人は。

「応援歌、引き受けてくれてさんきゅ~!」

窓の外は眩しくて、入り込む風は涼しくて気持ちがいい。窓の縁に頬杖をついて微笑む姿はなぜか誰より嬉しそうで。

「マージでやってくれるとは思わなかったわ!」

いや、まだ俺も思ってないんだけど。
引き受けるとか思ってない、思ってないんだけど…

「…あのさ、本当に俺でよかったわけ?」
「なんで?」
「なんでって…自分で言うのもあれだけど今にも廃部しそうな軽音部が作ったとこで引き弱くない?」

なんていうか、縁起が悪くないか?
やる前から負けそうな感じしてんじゃん、だからきっと俺じゃない方がー…

「いい曲だと思った!」

スカッと眩しい瞳が俺を見てる。
素直な奴だから、たぶんこれに嘘はない。

「だってキュンとしたもんっ」

だから余計に俺でいいのかって迷うんだ、本当に俺なんかがって。応援歌だぞ、あんなの軽音部(俺ら)がやっていいのか?よくないだろ。

「これは恋かー!?とか思っちゃったし」
「……。」
「あ、別に彩生のこと好きとか言ってんじゃねぇよ?」
「わかってるよ」

よくないと思うけど、全然よくはないと思うんだけど…

「よく言うじゃん?歌のチカラってやつ!」

屈託のない顔で見てくるから。

「感じちゃった、それ!」

少しだけ、胸がざわいつてた。
誰かのために曲なんか作ったことなかったから、いつも自分だけのもので。
どうしてか、ドキドキしてた。

「じゃあ部活行くわ!」

ダッとグラウンドまで駆けて行く、その後ろ姿も騒がしくてつい最後まで見てしまった。

「…あいつマジで元気だな」


****


昼休み、部室の床でごろごろしながら天井を見てた。応援歌ってどうゆうのなんだろうな、なんてまだその気もないのに考えながら。
応援するんだから明るいテンション上がる系のだよな?てゆーか、それは歌詞はいるのか?やっぱ歌詞があった方が気持ち入りやすいよなぁ…

「……。」

悩む、マジで悩む。
引き受けていいのか、引き受けるべきなのか。
荷が重すぎるだろ、だから断った方が…いいとは思うんだ。俺には無理だって、ハッキリそう言ってなかったことにしようって、思ってるはずなのに。
だけどやっぱり断るって言ったら、あいつはなんて言うかな…

「はぁー…」

てゆーか眠くなってきたし、昨日あんまり眠れなかったから。
考えれば考えるほどわかんなくなって朝まで考え込んで、何曲出来たかわからない。どんどん浮かんできて止まらなくなる。
…考えたくなんかないのに。

「…どーすんだよ、これ」

静かに息を吐いて目を閉じた。
眠るフリをして、たぶん眠れないから。

だって目を閉じたら勝手に浮かんでくるんだ、頭の中に。
そしたら指を動かして思うがままに奏でてみせる、そうすると流れ始めるから自由きままなメロディーが。
鳴ってないのに聞こえて、脳を刺激するみたい頭の中を駆け巡る。

ギターの音が溢れ出していく…

あっ!!

―ガンッ

「んぎゃっ!!」
「痛っ」

頭が割れるかと思った、おでこにくらった衝撃波のせいで。
体を起こそうと思ったのに、ガンガン響く痛みに倒れ込んだらこいつも倒れ込んでた。

「何すんだよ!」
「んぎゃ~~~!急に起きんなって!!」
「お前が邪魔してきたんだろーが!」

目を閉じたままだったから気付かなかった、こいつがのぞき込んでたことに。体を起こすと同時目を開けたけど時すでに遅し思いっきり頭をぶつけることになった、こいつの頭と。

「寝てんのかなって思うじゃん!起きてんなら言えよ!」
「言えよじゃねぇよ!ここ軽音部の部室なんだよ勝手に入ってくんな!」
「だって開いてたし、今日はちゃんとドアから入って来たし!」
「そうゆう問題じゃねぇ!!」

ダメだ、頭に響く。ただでさえ痛い頭がもっとガンガン襲ってくる、大きな声出すんじゃなかった。
うーっと頭を押さえながら動けない体のまま寝そべるしかなかった。

「倒れてんのかと思ったわ、こんなとこで寝てるから」

うつ伏せになって起こした頭をさすさすとなでて、さすがにこいつもダメージでかかったらしい。
でもこっちはそれだけじゃないんだよ、痛みもあるけどそれだけじゃなくて。

「お前のせいで曲飛んだじゃねぇか!」

思い付いた曲吹っ飛んだ、せっかくいいメロディー浮かんだと思ったのに。

「え?曲飛んだって…何が?」
「…。」

あまりの衝撃に1ミリも思い出せないし、これはもう思い出せる気がしなくて今んところ痛みしか残ってない。
すぐに起き上がって思い付いた曲をギターで弾こうと思ったのに。

「…寝ながら考えるのが1番なんだよ」

仕方ないのでごろんっと天井を見るように仰向けになった。なんだかんだ見慣れた天井は落ち着くから。

「目を閉じて、こうしてると曲が浮かんでくるんだよ」

この瞬間が、1番頭が働く時間で好きな時間でもある。目をつぶると自分だけの世界みたいで集中出来て、何でも自由に奏でられて。
自分が出来ないことでも出来る気がするから。

「天才かよ」
「…お前に言われたくねぇーよ」
「それは言わせろよ」
「……。」

でも全然思い出せないが、目閉じてみても無理だ。
なんかいい曲が出来そうだったのになー、弾いてみたいメロディーが浮かんだ気がしたのに…

「いいのできそうだったか!?」
「……。」
「いい感じの応援歌!」
「…別に応援歌作ろうとしてたわけじゃねぇから」

どっちかと言えば現実逃避で。
だけど何度でも浮かんできて止まらない、頭から離れない。
俺はどうしたらいいんだろう?

途方に暮れる俺の隣に加々谷もごろんっと寝転がった、もうおでこはいいのかさするのをやめてと触れるか触れないかの距離に転がった。
…なんか近くないか?やたら近くないか?別にいいけど。

「曲作んのめんどくさいと思ってる?」

じっと天井を見てた、俺の方が加々谷のことを見てた。

「オレ余計なこと言った?」
「…いや、別に」

かと思えばこっちを見たからふいに視線を逸らしてしまって。
めんどくさいと言えばめんどくさい、事の大きさにビビってるし俺がどうにか出来ることなのかって考えれば考えるほど落ち着かない。さっさと断った方がいいんじゃないかって思ってるけど、なぜか踏み切れない自分もいて。

「なぁ、聞いていい?」
「おう!なんでも聞こう!」

あれだけ平穏な生活が送れればいいって思ってたはずなのに、こんなこと思うなんて自分でも予想外だった。
心の何処かで思ってたのかな、俺もグラウンドで活躍するこいつみたいになりたいとか…思ってたのかな?

「…たぶん絶対違うと思うんだけどさ、期待されるってこんな感じ?」

もう一度、加々谷の方を見たら目が合った。
ちょっとだけドキドキしてたんだ、思い出しては胸が騒がしくなる。
そわそわと掻き立てられるあの感覚が、初めてだったから…褒められたのは初めてだったから。
嬉しかったんだ、加々谷に言われたことが。

“初めてだ、曲聞いてこんなこと思ったの!”

期待に応える曲が作りたいって思っちゃった。柄にもなく、そんなこと。

「オレ、超期待してる!」

ニカッと笑う顔の隣でピースをして、ほんと元気なやつだなって俺まで笑ってしまった。ついつられて、笑って…緊張がどうのって言ってる奴にはやっぱ思えねぇな。


****


「瀬戸、やってくれるか!」
「…はい」

ばしばしと小暮先生に背中を叩かれてちょっと嫌な気分になったけど、一応決めたことを報告しに来た。
まだ断ってもなかったけど、ちゃんとやるとも言ってなかったから。

「じゃあ頼むな、いい曲期待してるぞ!」

…期待してるぞって言われてもな、小暮先生じゃなんか気は入らないけど。軽音部がなくなろうがなくならまいが小暮先生はどう思ってんのかわかんねぇし。
でも、やるって決めた。

「来週までには出来そうか?」
「それは無理です!」

せめて2週間、いや3週間、出来たらもう少し…と交渉をして職員室を出た。
いつまでって聞いたら急に焦る、まだ始まったばかりなのに時間ないみたいに思えて。

「あ」

職員室を出た廊下からはちょうどグラウンドがよく見える。今は部活の時間、野球部が練習してた。
…冷静に考えてあそこから軽音部(うち)までボール飛んでくるってえぐいな。しかも取りに来てたのはあいつってことは打ったのはあいつじゃない、エースって呼ばれてるあいつ以外もすごいメンツが揃ってるってことか。

「…強豪やべぇ」

そんな野球部の応援歌…
やっぱ早まったか?まだ撤回出来る?もう一度よく考えて…

ーカキーンッ

と甲高い音がグラウンドに響く。何の反響もないグラウンドではとにかくクリアで、山なりに飛んで行ったボールは遥か遠くに消えていくように飛んで行った。

「マジであいつすげーじゃん」

ぱちくりしちゃったし、あいつが打ったボールに。
気付けば足を止めてグラウンドから目を離せなかった。
期待されるってすごいなって思ってた、部活の極みだなって…でもそんなの簡単なわけなくて、運だとか偶然だとかそんなわけないから。みんな毎日部活と向き合って結果出すことに必死で、全力で走ってるから…

「絶対こんな感じなわけねぇよな」

俺の期待とは大違いだろ。
今なら加々谷が言ってたこともわかる、緊張しないわけない。それだけ本気でやってるんだよ。
すぅっと息を吸って大きく息を吐いた、ドキドキした心臓を押さえながら。
俺もちゃんとやんなきゃ、ちゃんと自分に出来ることをしなきゃ。


****


さて、どうゆう曲を作ろう?
ん~っと唸りながら部室の床でごろごりしてた。サボってるみたいに見えるけど、これが1番閃くから仕方ない。

「あ~やっ!寝てた?」
「寝てねぇよ」

今日は声をかけられた、たぶん前回の反省を生かして。
すぐさま目を開けたけど起きる気はなくて、寝ころんだまま足を組んだ。

「考えてた」

あれからずーっと、昼休みは毎回部室に来て考えてる。
目を閉じては思い出す、こいつのホームランが目に焼き付いて離れなくて。
あれは胸にズドンッと来ちゃった。マジでカッコよかったよ、言わねぇーけど。

「マジでそうやってできんの?」
「…趣味だから、寝る前に考えるのが」
「すげぇな~!」

だから別にすごくはねぇけど、どう考えてもそっちのがすごいし。寝る前に考えるのが楽しいだけで、そしたら1日の嫌だったこととか、しんどかったこととか忘れられるってだけだし。

「じゃあ今は俺のこと考えてた?」
「はぁ!?」

よっと隣に座った加々谷のことを目を見開いて見てしまった。ちょっとだけ図星だったから見透かされたのかと思って、異様に反応してしまった。

「だって俺の応援歌じゃん!」
「野球部のだよ!!」

お前のじゃない、野球部の…!
これは野球部のであってお前のじゃない、別にこいつのために作ってるわけじゃ…っ

「でもさ、その中に俺もいるわけじゃん?」

あぐらをかいて、後ろに手をついた。ふふっと楽しそうに笑ってた。

「なんかうれしいな~~~!」

そんな姿を寝転がったまま見てた、この角度から見たことないからなんか不思議だ。
近いような遠いような距離は目が合わない。

「漫画の中に入りたいって思ったことない?」
「それは…ある」
「だろ!?それと一緒!」

振り返ったから今度は目が合った、斜め上から見下ろされるように。ふっと声を漏らして笑った。

「オレを彩の音楽の中に入れてくれ!」

いつからそう呼び出したのかわからない、するりと入り込むのが上手いのはお前の方だろって思ったりして。

「好きだから、彩の曲」

そんな真っ直ぐ言われたら照れくさくて恥ずかしい、意味なく心臓がドキドキし始める。
こんなこと言われるのは初めてだから、初めてだったから落ち着かなくてしょうがないんだ。

「ギター弾いて、聞きたい!」

こいつの素直な瞳は、落ち着かない。


****


あれから毎日朝も昼も夕方も暇があれば部室に向かって、ギターを手にしては置いて目を閉じては考えてた。
寝る前も風呂の時も授業中もとにかく暇さえあれば、暇がなくともずーっと考えてひたすらにギターを弾いて…こんなに部活動をしてるって感じるのは高校入って初めての経験だった。

「…なんか物足りない」

だけど全然完成が見えなくて、あと少しな気がするのにその少しが見えないっていうか…絶妙に何かが足りない、あとちょっとなのにそれが浮かんでこない。

「はぁ…」

ギターを置いてごろんっと床に寝転がった。もうどんだけ目を閉じても出てこないけど。
何だろ?何が違うんだろ?
何度も弾いてたらどんどんわかんなくなってきて、これでいいのかも悩む。
1人だとどうしても不安がよぎるっつーか、いいのか悪いのかもう全然…

「……。」

やべぇ、真っ暗だ!なんか急にやばい…!
冷静に考えて、俺の作った曲が大会で演奏されるってやっぱやばくない?なるべく考えないようにしてたけど、どう考えてもやばくないか??
あれ、なんでこんなことになったんだろ?何がどうして、今俺はこんなことしてんだっけ…めちゃくちゃわからなくなってきた!

「彩生!」

ガラッとドアが開いた。天井見ながら寝そべってたから慌てて起き上がった。

「垣ノ内…、創志も」

今日は活動日じゃない、てゆーか活動日なんて決まってない。気分が乗ればギターを弾いて歌ったりしてるだけで、部活動らしいことなんてしてないのが軽音部なんだから。

「え、何?どした…?」

だからまさか2人が来るとは思わなくて、床に散らばったメモ書きにハッとした。
しまった、思い浮かんだメロディーを書いてはその辺に投げてたせいで部室中ぐちゃぐちゃだった。

「悪い!今片付ける!」

散らばったルーズリーフを早く片付けなきゃと慌てて手を伸ばした。

「ごめん」

だけどハタッと手が止まる、突然垣ノ内に謝られて頭がフリーズして。
ごめんって何が?何の話?どうして謝られたのか全然…

「これ彩生が作ったやつ?」
「え、あぁ…そう!まだ途中なんだけどっ」

何度も書いては消して、浮かべては弾いて。
でも思うようなメロディーが作れなくて中途半端のままの五線譜の書かれたルーズリーフが散らばってた。
しゃがみ込んだ垣ノ内が拾い上げて、ちょこんっと隣に創志もしゃがみ込んでのぞき込む。
じーっと見つめて、僅かな無言の時間が流れる。あまりに2人が声を出さないから俺も何も言えなくて。
え、何?なんだ?何かこれが…

「これいいですね」

スッと垣ノ内の手からルーズリーフを取ると微かにフッと笑った…あ、笑うんだ。創志って笑えるんだ、初めて見た。

「ここからはまだ考え中ですか?」
「あ、うん…ちょっと悩んでて、浮かんでるんだけどこれでいいのかなーって思うとこあって」
「ちょっと弾いてみてもいいですか?」
「え?」

創志がギターを手にした、おもむろに俺の作ったメロディーを奏で始める。
創志の弾き方は普段喋らない姿とは逆で意外にもシャンッとしたメロディーを奏でる。
だからか…自分では何度も弾いてきたのに、何度もギターの弦を鳴らしてきたのに、どんな曲かだってわかってたはずなのに…

「あ、待って創志!今んとこも1回弾いて!!」
「はい、ここですか?」

ここの音はこっちのがいいかも、耳馴染みのよさを考えたけどこっちのがグッと踏み込んだ音になる。てことはここはもうワンオクターブ上げて…、この先の展開はこっちの方が…っ!

転がっていたシャーペンを取ってルーズリーフに書き殴る、浮かんで来たメロディーを早く音にしたくて、止まらない音楽を早く奏でたくて、とにかく必死にガンガンと手を動かした。
脳が活性したみたいに浮かんでくる、止まらなくて心地いいほどに音が鳴ってー…

「出来た!」

思わず高ぶった気持ちにルーズリーフを掲げてしまった。自分の声が部室に響いてびっくりしたし、それでハッとして思い出したし。
しまった、自分の世界入ってた!曲作るのに必死で2人がいたのに…っ

「あのっ」
「ごめん」

え?
また垣ノ内が頭を下げた。

「えっと、何が…?」
「全部彩生に押し付けてた!」
「……。」

そんなこと、気にしてなかったわけじゃないけど。

「でも彩生が1人で必死にやってんの見てさ、これでいいのかって思って…」

これもあたり前だったし、活動らしいことはしてなかったから。

「俺も軽音部なのに」

それに俺も思ってた。俺がどうにかしなきゃって、1人でどうにかしようって思ってた。
いつからかそんな癖がついてた。
ずっと1人でひっそり弾いて来ただけだったから。

「やってい?」

だけどいつだって誰かと分かち合いたかった。

「俺もやりたい」
「僕もです、瀬戸先輩」

さっきまでの落ちてた気持ちがふわっと軽くなる、やっぱこれが部活動ってやつなのかなって謎に野球部に感化されちゃったからさ。だってバンドは1人じゃ出来ねぇしな。

「来るの遅せぇーよ!」

まぁうちはバンドとも言えないけど、所詮廃部寸前の軽音部だし。でもなんかいい曲が作れそうだったんだ。


****


少しドキドキしながら教室をのぞき込んだ。
7組になんて来ることないから見慣れなくて、早く見つけて呼び出したいんだけど…あいつはいないのか?

「彩?」
「わっ!」

不意打ちに後ろから声をかけられたから思いっきり声が出た。教室に向かって叫んじゃったし。

「加々谷…っ」
「どったの?」
「…~っ」
「?」

ちょっとちょっと、と手招きをして廊下の窓際へ呼んだ。自分でも眉間にしわが寄ってるのがわかったけど、でもこれは煩わしいとかそんなんじゃなくてどんな顔をしたらいいかわかんなくて。

「…これ」

そろーっとBluetoothでスマホと繋がったヘッドホンを差し出した。

「私物で悪いんだけど、聞いてくんない?」

完成したから、一応。採用されるかどうかはまだわかんないけど。
だからこそ、その前に聞いてほしくて。

「オレが!?」
「あぁ」
「オレ、曲の良し悪しわっかんねぇよ!?」
「だからいいんだよ!」

グッとヘッドホンを押し付けた、なんだか力が入っちゃって。

「素直な意見を聞きたいから」

ただただ思ったことを聞きたくて、加々谷ならなんて言うかなって知りたかった。それが俺にとって力になるように思えて。

「聞いてほしい、…お前に」

手からヘッドホンが離れていく、そのまますぽっと耳にはめられた。
あ、なんかドキドキする。なんだコレ、ドキドキする…!
スマホをタップする手が震えるんだけど、これを押したら始まるからギターの音が流れ始めるから…

「……。」
「…。」
「……。」
「…」

聞こえてる?無反応だけど、聞こえてんのか?
でも再生中にはなってるからたぶん聞こえてるよな。ヘッドホンしてるからこっちのことなんか気にならないだろうけど、俺は気になるしどうなのかすげぇ気になるし…

「すげぇ…っ!」

カッと目を開いた加々谷がこっちを見たからまたわっと声が出そうになった。

「超いいじゃん!!!」
「あ、そう?それはよかっ」
「ギターすげぇって思ったけど歌もやべぇ!上手過ぎ!!」
「あぁ、うちのボーカル上手いんだ…」

って答えたはいいけど聞こえてんのか?てゆーかヘッドホンしてるからいつになく声でかいな。

「これが応援歌!?」
「いや、まだ決定ってわけじゃ…」
「え?なんて??」
「ヘッドホン外せよ!聞こえてねぇーだろ!!」

ぐいっと腕を引っ張ってヘッドホンをずらした、耳との間に隙間を作るために。これなら俺の声も聞こえるかと思って。

「まだ決定じゃない、それは明日…」
「明日?」

自分なりに、軽音部的にも、いい曲になったとは思う。何度も繰り返し演奏してやっと出来たんだ、だから早く聞いてほしいって気持ちもあるんだけど。

「明日、部活の前って…ちょっと時間ない?」
「何?なんかあんの?」

トンッとヘッドホンを指さした、震えそうになる指先で。

「聞いてもらうんだ、これ」

一瞬加々谷と目を合わせたけど、すぐに下を向いてしまった。明日のことを思ったらじっとしれられなくて落ち着かなくて、手が震える。

「吹奏楽部に聞いてもらうんだ、軽音部もみんな集まって、先生たちも…それで決まるんだ、この曲でいいか」

もう緊張してる、緊張することなんてないって思ってたのに。
今なら少しだけ加々谷の気持ちもわかって、俺とは比べ物にならないこともわかってるけど…

「加々谷も来てくれないか?」

来てほしかった、一緒に聞いてほしかった。
なんでかわからないけど、加々谷が来てくれたらって思った。

「あ、あのっ、野球部代表として!」

顔を上げた、急に恥ずかしくなって誤魔化すみたいになって。しかも無理やりっぽいし、無理ないいわけっぽくて余計に恥ずかしい。

「でも部活忙しかったら別にっ」
「行く」

顔を上げたから視線が重なって、ドキッと心臓が揺れた。
真っ直ぐ俺の方を見てたから、真剣な表情でじっと見てたから。

「絶対行く」

なんでそんな顔…いつもそんな顔しなくない?
なんか、なんなんだ…かと思えばニカッと大きな口を開けた。

「早くみんなに聞いてほしいな!」

今度はあの顔だ、よく見るあの顔で。

「彩の曲、絶対みんな好きになる!」

心強く思ってた、加々谷がいたら。
いてくれたら、いいなって…
だからなんだ、この気持ちは?なんで落ち着かない気持ちになるんだ?よくわかんねぇよ。


****


放課後音楽室に集まった。吹奏楽部の人たちが体操座りをする前に軽音部が立たされる、小暮先生がとりあえずは顧問として挨拶を始めた。
えっぐ、心臓の音えっぐ…これこのまま聞けるのか!?立ってられるのか!?
胸の辺りをなだめながらふぅーっと息を吐いて、チラッと音楽室の後ろを見たら加々谷がニッと笑ってた。

「……。」

いや、ピースはしなくていいピースは。他の奴らもいるんだから。
でもちょっと、気が楽になったかも。

「じゃあ、聞いてもらおうか」

小暮先生の合図で創志がスマホをタップした。あらかじめ繋いでおいたスピーカーからギターの音が流れて、垣ノ内の声が乗っていく。
え、やっぱ緊張えぐ!心臓ドコドコして曲どころじゃねぇ…っ

「…っ」

だけど隣を見たら堂々と前を向いて、自分の歌声が音楽室中に聞こえてんのにすげぇ肝座ってんなって思った。
創志も一切表情を崩さず立って…創志は元からこんな感じか。
お、落ち着かねぇ…っ
マジで全く落ち着かねぇ~~~!!

「瀬戸」

隣に立ってた小暮先生が話しかけてきた。

「瀬戸はずっと1人でがんばってたからなぁ」

…は?急に何を?まだ曲終わってないんだけど。

「よく他の奴らをまとめて立て直したよ」
「……。」

マジでどんなタイミングだよ、それ今言うことじゃねぇだろ。
何テキトーなこと言ってんだよ、本当にそんなこと思ってんのか…って眉間にしわが寄りそうになったけど、いつだって肩を叩いてたのは小暮先生で。
めんどくさいこと押し付けられてたんだろって思うけど、もしかしてそれは…俺に期待してた?って今なら都合よく考えてやらなくもない。上からな、これは上から。

「いい曲だな」 

嬉しかったから、シンプルに。
ドラムやってたなら少しくらいはわかるだろ?曲作りも簡単じゃねぇんだよ。

約5分の曲が終わる、今までで1番長い5分間だと思った。

「吹奏楽部のみなさんよろしくお願いします…!」

最後は部長としてぺこりと頭を下げた。とんでもなく緊張した曲披露が終わった、曲の終わりには拍手で締められ無事OKサインが出た。
垣ノ内と創志とハイタッチとかしちゃって、小暮先生にほっこりした目で見られたし。

そこからは気付けば吹奏楽部との交流会的なものが始まった。曲のコンセプトを話したり、歌詞のイメージを話したりして、8割が女子の吹奏楽部に囲まれて垣ノ内が嬉しそうだった。
こうゆうの苦手だし、ニヤニヤする垣ノ内に任せて音楽室の後ろへ向かおう…

「瀬戸くん!」

としたら女子に話しかけられた、同じクラスの宮瀬(みやせ)だ。今まで話したことなかったからちょっと戸惑った。

「すごくいい曲だったよ!」
「そう?ありがとう、吹奏楽部に言ってもらえると肩の荷が下りるよ」
「演奏するの楽しみだよ!」

よかった、それは。
これでやっと眠れる、実は全然眠れてなかった。目を閉じたらギターの音ばっか浮かんできてうなされてたし。
今はまでなら嫌なことが忘れられる時間のはずだったのに。

「うちの応援歌は学校オリジナルが伝統だから私たちの代でなくなったらどうしようって思ってて…、何度もやってみたけど上手くいかなくて野球部にも相談したりしてたの」

廃部になったらどうしようって思ってた。
さすがにそれは避けたいなって、何か出来ないかなって悩んでた。廃部で悩んでるのなんて軽音部(うち)くらいだろうなって思いながら。

「だから瀬戸くんが引き受けてくれてよかった」

でもどこの部活だって悩むことはあって、それは部活に向き合ってたらあたり前のことで。俺もやっと向き合えた気がした。

「ありがとう、瀬戸くん」

だからきっと、お礼を言うのは俺の方だ。初めはこんなこと出来るわけないって、めんどくさいことに巻き込まれたって、そんなことしか思ってなかったけど今は清々しくて勝手に頬が緩むんだ。

こんな風に思うことないって思ってた、平穏な生活が送れればいいって思てただけじゃー…

「加々谷!」

音楽室から出て行った加々谷を追いかけた。宮瀬と話してるうちに出て行ったから、後を追うように廊下に出た。

「加々谷…!」

廊下を曲がって階段を下りていく加々谷になるべく早く追いつけるように足を動かして、タタタッと急いで背中を追いかけた。

「おいってば!」

でも呼んでも呼んでも振り返ってくれないし、足を止めてもくれない。

「加々谷…っ!」

最後は背中のシャツを掴んで引き留めた。
まだ階段の途中のそっと振り返った、鬱陶しそうな瞳で。
は?

「なんだよその顔…!」

なぜか不服そうで、俺までしかめてしまった。正直期待してたから、ニカッて笑う顔を期待してたから。

「なんでそんな…っ」

音楽室で曲を聞く前の表情とは全然違ってた。

「あっ、あれ気に入らなかったか!?まだ直せるけど!気に入らないとこあるならまだ…っ」
「彩ってすげぇよな」
「え?」

視線を落とす、足元を見るみたいに。でもどうしてそんな顔をしてるのか、ちっともわからなくて。

「いや、どう考えてもお前のがすごいから」
「すげぇーよっ!!」

カーンッと声が響く、吹き抜けの階段は声が抜けるから音楽室まで届いてんじゃねぇかと思った。

「すげぇよかった…っ、感動したし」
「それは…、ありがとう」

じゃあなんでそんな顔してんだ?なんで泣きそうな顔してんだよ?
そんなのなんて声をかけたらいいかわかんねぇよ。

「あの、加々谷…?」

俺はお前に言いたいことがあって、だから…っ

「吹奏楽部もうれしそうだったじゃん、女子たちキャッキャしてさ」
「キャッキャ…してたかはわかんねーけど、まぁよかったよ喜んでもらえて」
「吹奏楽部の救世主って感じじゃん」
「そんな大それたことしてねぇし、てゆーかこれはお前が…」

作れって言ったからだろ?
だから作ったんだろ、俺はお前に言われて…

「なんであんないい曲作ってくんだよ!?」
「はぁ!?」
「作ってくるなよ!」
「なんでそんなこと言われなきゃいけないんだよ!」
「言いたいんだよ!!」

マジで意味わかんねぇ、やっとスッキリしたと思ったのになんでこいつとわけわかんねぇ言い合いしなきゃいけないんだ。

「何がそんなに気に入らないんだよ」

褒められてるのに褒められてる気がしない。もっとやったじゃん、って笑ってくれると思ってたのに。

「……。」
「…加々谷?」

なんでこうなったのか、なんでそんなイラついてんのか。
突然、加々谷が俯いた。グッと手を握りしめて力が入ったのが分かった、微かに震えていたから。

「オレ、彩の曲好きだ」
「…うん、それはありがとう」
「だからみんなに聞いてほしいって思ってた」
「あ、そう?じゃあ叶いそうだなよかったな」

じゃあ何をそんなに?
とんっと一段階段を下りて加々谷と並んだ。顔をのぞき込もうかなって、思ったんだけど。

「でもいざッそうなったらすげーやだった」
「なんでだよ、俺の人生最大の苦労の結果だぞ!」

ゆっくり顔を上げてこっちを見たから、必然と目がった。口に手を当てて、眉をひそめて不安げな顔をする加々谷と。
それは思ったより距離が近くて、ドキッと心臓が声を出した。

「…オレってさ、彩のこと好きなのかな?」
「…っ!」

はぁ???