「私も水華様になにかできないかしら」
凜が水華に与えられるものなんてない。
生贄となるにも、まだ早いと言われたので時期早々だろう。
「掃除、くらいしか……それも壺さんと一緒だし」
そこで壺と峰が頭に浮かんだことで、あ、と思った。
二人が普段やっていることを手伝わせてもらうのはどうだろうか。
それはいい考えのように思えた。
「何がいいかしら……壺さんに掃除は教わってるけれどほかに何をしているのか、わからないし」
訊きに行くかと思う。
どのみち協力をお願いしないと凛一人では何もできない。
よしと気合いを入れると、凜は手のなかをもう一度見下ろした。
美しい生地の柄を指先で撫でると、水華の顔を思い出す。
手放しがたくて金平糖の巾着を袂へそっと入れる。
何だか特別なお守りのようにさえ思えて、口元がゆるんでしまった。
ぎゅっと手を握って力をいれると、ぱたぱたと壺たちのもとへ行く。
どこにいるだろうと思い、うろうろしたあとでようやく台所ではと思い至った。
朝食の片付けをしているのではないかと思って、到着した台所をそっと覗く。
すると、二匹は入口の段差に腰かけてお茶を飲んでいた。
ひと仕事終えて、一服中らしい。
「これは凛様!」
峰が凜に気づくと、あたふたと二匹は立ち上がった。
ゆっくりしているところ申し訳ないと思ってしまうけれど、見つかってしまった以上仕方ない。
「ご、ごめんなさい、休憩、してたのに」
「大丈夫ですよ、どうしました?」
「あ、あの、その」
ここまできて、どう切り出せばいいかわからない。
何度もつっかえる凜に、峰がぽんと凜の足を小さく叩いた。
「ゆっくりでかまいません」
その言葉にこくりと頷く。
ここには凛が喋ったら怒鳴る人間なんていない。
みんな、ゆっくり真摯に聞いてくれる。
それに勇気づけられて、凛はおずおずと口を開いた。
「す、水菓様に、お礼をしたくて、何かできないかと」
「まあまあ」
「それは喜びますよ!」
凜の言葉に二匹ははしゃいだ声を上げた。
その声音にほっと安心する。
不相応だとか、馬鹿にされたりとかしなかったからだ。
けれど思いなおす。
(壷さんも峰さんもそんなことする方たちじゃないわ)
まだ少しだけれど、二匹のひととなりはわかっている。
水華を敬い誠実に仕えて、凛にも優しく柔らかに接してくれる。
村で見た仲睦まじい親子を思い出し、おこがましいけれど少しだけ家族になれたような錯覚をしてしまう。
けれどそこで我に返る。
(私は生贄の身なんだから、いつまでもここにいるわけじゃないのよ)
夢を見るな、現実を見ろと浮かれていた気持ちが急降下した。
けれど二匹が何がいいかと真剣に考えてくれる姿を見て、今だけはと思う。
二匹と仲良くすることも、水華の傍にいることも凛にとってはこれ以上ない幸せだ。
だから思い残すことがないようにしようと心に決めた。
「手ぬぐいに刺し子なんかはいかがです?」
「手ぬぐい……」
刺したら使ってくれるだろうかと思ったけれど、すぐに思いなおした。
(生贄にした人間の作った物が残ったら迷惑よね)
きっと水華は無下にはしないと思う。
それくらい優しく誠実だと凛は思っている。
けれど、だからこそ食べた相手の作った物を遺品に残されても困らせるだけだと思った。
それにいつ生贄になるかはわからない。
できればすぐにでもお礼をしたい。
なのでふるりと首を振る。
「で、できれば、すぐ、渡したいです」
「なるほど……ではお料理はどうでしょう?」
「お、お料理?」
「水華様がお酒を召し上がるときは、必ずおつまみを出すんです」
峰の言葉に思い起こしてみれば、たしかに小鉢を一、二品食べている。
自分の作ったものを水華に食べてもらう。
それは何だかとてもやる気の出る考えだった。
こんなふうに何かをしたいなんて思ったことがない。
今までの自分との違いに驚きながらも、凛はぎこちなく頷いた。
「私、でも、できますか?」
「大丈夫ですよ。私がしっかりお手伝いします」
ぽむと峰が気合を入れるように胸を叩く。
その頼りがいのある姿に、凛も重々しく頷いた。
「簡単なものにしましょう。そうですね、水華様が食べる物で簡単なもの……」
「あなた、ナスと味噌のやつはどうかしら?」
「ああ、それなら簡単だ」
壺の助言に峰がうんうんと頷いた。
「ナス、ですか?」
「ナスを炒めて味噌をからめたものですよ。よく作りますし箸が進んでおられます」
「そ、それで、お願いします!」
水華がよく食べているのなら、それしかない。
凛は勢い込んで頷いた。
「ではそれにしましょう」
そうして前掛けをつけて調理は開始された。
おっかなびっくりとナスを洗っていて不思議に思う。
村では井戸だったのに、ここでは竹で出来た筒から紐を引っ張れば綺麗な水が出てくるのだ。
風呂も同じらしい。
こちらはお湯が出るそうだ。
凜には信じられない。
これは水華が水を司っているからかと不思議に思った。
「ではナスを切っていきましょう」
まずはナスを縦に半分と言われて峰が切るのをじっと見る。
包丁はしっかり握って手元を見るように言われた。
「では切りましょう」
峰の言葉に深々と頷くと、凛は神妙な面持ちで包丁を手に取った。
ゆっくりゆっくりとナスに包丁を近付けて、いざ切るとなったときだ。
「何をしている」
「きゃあ!痛っ」
いきなり背後から水華の低音の声が聞こえて、凛は飛び上がった。
そのさいに包丁を持つ手が跳ねて左指にわずかに傷をつける。
「凛様!」
「だ、大丈夫、です」
慌てる壺に、指を押さえながら凛はまくしたてた。
「何をやっている」
少し不機嫌な声でぐいと手を掴まれた。
低い体温に顔を上げれば、美しい顔がある。
その刺青のある顔は、不機嫌に眉根をよせていた。
「す、水華様」
「あちこちうろうろしていると思ったら、何故怪我を負っているんだ」
凛が二匹を探していたのを気づいていたらしい。
不機嫌そうな顔に、余計なことをしてしまっただろうかと思ったら、水華がそっと指先に唇を落とした。
「っ!」
なんとか悲鳴は飲み込んだ。
けれど指先に触れた柔らかな感触に、一気に顔が赤くなる。
そのことで接吻をされたことまで思い出してしまい、凜は頭がゆだるかと思った。
「怪我はするな」
憮然とした声に指先を見ると、傷が無くなっている。
怪我を治してくれたのだ。
けれどもっとやりようがあったのではないかと、凛はぎゅっと目をつむった。
せっかく考えないようにしていたのに、はじめて触れたときも唇の体温が低かったと今の行動で思い出してしまった。
顔を見れる気がしない。
「それで、何をしていた」
「凜様が水華様にお礼をしたいとおっしゃりましたので、料理を作っていたのですよ」
「礼?」
壺の説明に、水華がいぶかし気な声を出した。
それは迷惑そうだとかそんな声音ではない。
なので、凛はおずおずと目を開けた。
開けた先では水華が不思議そうな顔をしている。
「あ、あの」
「何の礼だ?」
きょとんとした顔。
普段が硬質な表情なせいか、少しだけ可愛らしく凛には見えた。
「い、色々、行灯や、かんざしに、金平糖も、ほかにもいっぱい、です」
「それは当然のことだろう?」
水華が不思議なことを言う。
(どうして当然なのかしら)
わけがわからない。
疑問を口にしようとしたけれど。
「まあいい、作るなら作れ」
言いながら水華は台所の入り口にある箱にどかりと片足を立てて座った。
そのせいで訊きそびれてしまった。
それに何故、とその一連の動きを目で追う。
座った水華は動く気配がない。
(どうしてそこにいらっしゃるの!?)
監視だろうか。
よくない物なんて入れないのにと思ったけれど、水華がそんなことを思うなんてないだろう。
そもそも神様に何が効くというのだ。
「どうした? 続けろ」
そのままそこにいるらしい。
緊張どころの話ではない。
「さあ凜様」
峰にうながされてしまうと逃げ場がない。
凛は腹を括ると、もう一度しっかりと包丁を握りしめた。
視線がとても緊張するけれど、考えない気にしないと自分に言い聞かせてナスを切った。
なんかもう達成感でいっぱいだ。
ナスを焦がしそうになりながらも何とか炒めて、峰のザックリとしたこれくらいの量、という説明に困惑しつつもようやく味噌を入れるまでたどり着いた。
あとはナスがしんなりするまでまた炒めるだけだ。
「そうやって作るのか」
水華が感心したように一言こぼした。
興味深そうな口ぶりに、峰も壺も嬉しそうだ。
「水華様に美味しいものを食べてもらいたいので、精進しています」
「確かに、お前たちの作るものは美味い」
その言葉に壺と峰が心底嬉しそうな顔をする。
ありがとうございますと口を揃えた二匹のように凛も喜んでもらいたい。
だから出来上がるまで精一杯丁寧に作った。
おそるおそる皿に盛って完成だ。
ちゃんと峰にも味見してもらったから、大丈夫のはずである。
「で、できました。食べて、いただけますか?」
出来上がった料理の皿を手に水華へと顔を向けると、じっと見つめられた。
その理由がわからない。
やはり迷惑だったかと眉を下げたら。
「酒の準備を。行くぞ」
水華が立ちあがった。
行くぞとは、どこに? と思っていると水華が台所の入り口へ向かう。
そして肩越しに振り返った。
「まだ夜ではないが酒は許せ」
その一言で食べてくれるのだとわかった。
ぎゅっと胸が締め付けられる感覚がする。
動かない凛にもう一度「行くぞ」と言われて慌ててついていけば、いつもの濡れ縁だった。
すぐ後ろをついて来ていた壺が、腰を下ろした水華の手元に酒の置いてある盆を置いた
そのまましずしずといなくなってしまう。
凜が水華に与えられるものなんてない。
生贄となるにも、まだ早いと言われたので時期早々だろう。
「掃除、くらいしか……それも壺さんと一緒だし」
そこで壺と峰が頭に浮かんだことで、あ、と思った。
二人が普段やっていることを手伝わせてもらうのはどうだろうか。
それはいい考えのように思えた。
「何がいいかしら……壺さんに掃除は教わってるけれどほかに何をしているのか、わからないし」
訊きに行くかと思う。
どのみち協力をお願いしないと凛一人では何もできない。
よしと気合いを入れると、凜は手のなかをもう一度見下ろした。
美しい生地の柄を指先で撫でると、水華の顔を思い出す。
手放しがたくて金平糖の巾着を袂へそっと入れる。
何だか特別なお守りのようにさえ思えて、口元がゆるんでしまった。
ぎゅっと手を握って力をいれると、ぱたぱたと壺たちのもとへ行く。
どこにいるだろうと思い、うろうろしたあとでようやく台所ではと思い至った。
朝食の片付けをしているのではないかと思って、到着した台所をそっと覗く。
すると、二匹は入口の段差に腰かけてお茶を飲んでいた。
ひと仕事終えて、一服中らしい。
「これは凛様!」
峰が凜に気づくと、あたふたと二匹は立ち上がった。
ゆっくりしているところ申し訳ないと思ってしまうけれど、見つかってしまった以上仕方ない。
「ご、ごめんなさい、休憩、してたのに」
「大丈夫ですよ、どうしました?」
「あ、あの、その」
ここまできて、どう切り出せばいいかわからない。
何度もつっかえる凜に、峰がぽんと凜の足を小さく叩いた。
「ゆっくりでかまいません」
その言葉にこくりと頷く。
ここには凛が喋ったら怒鳴る人間なんていない。
みんな、ゆっくり真摯に聞いてくれる。
それに勇気づけられて、凛はおずおずと口を開いた。
「す、水菓様に、お礼をしたくて、何かできないかと」
「まあまあ」
「それは喜びますよ!」
凜の言葉に二匹ははしゃいだ声を上げた。
その声音にほっと安心する。
不相応だとか、馬鹿にされたりとかしなかったからだ。
けれど思いなおす。
(壷さんも峰さんもそんなことする方たちじゃないわ)
まだ少しだけれど、二匹のひととなりはわかっている。
水華を敬い誠実に仕えて、凛にも優しく柔らかに接してくれる。
村で見た仲睦まじい親子を思い出し、おこがましいけれど少しだけ家族になれたような錯覚をしてしまう。
けれどそこで我に返る。
(私は生贄の身なんだから、いつまでもここにいるわけじゃないのよ)
夢を見るな、現実を見ろと浮かれていた気持ちが急降下した。
けれど二匹が何がいいかと真剣に考えてくれる姿を見て、今だけはと思う。
二匹と仲良くすることも、水華の傍にいることも凛にとってはこれ以上ない幸せだ。
だから思い残すことがないようにしようと心に決めた。
「手ぬぐいに刺し子なんかはいかがです?」
「手ぬぐい……」
刺したら使ってくれるだろうかと思ったけれど、すぐに思いなおした。
(生贄にした人間の作った物が残ったら迷惑よね)
きっと水華は無下にはしないと思う。
それくらい優しく誠実だと凛は思っている。
けれど、だからこそ食べた相手の作った物を遺品に残されても困らせるだけだと思った。
それにいつ生贄になるかはわからない。
できればすぐにでもお礼をしたい。
なのでふるりと首を振る。
「で、できれば、すぐ、渡したいです」
「なるほど……ではお料理はどうでしょう?」
「お、お料理?」
「水華様がお酒を召し上がるときは、必ずおつまみを出すんです」
峰の言葉に思い起こしてみれば、たしかに小鉢を一、二品食べている。
自分の作ったものを水華に食べてもらう。
それは何だかとてもやる気の出る考えだった。
こんなふうに何かをしたいなんて思ったことがない。
今までの自分との違いに驚きながらも、凛はぎこちなく頷いた。
「私、でも、できますか?」
「大丈夫ですよ。私がしっかりお手伝いします」
ぽむと峰が気合を入れるように胸を叩く。
その頼りがいのある姿に、凛も重々しく頷いた。
「簡単なものにしましょう。そうですね、水華様が食べる物で簡単なもの……」
「あなた、ナスと味噌のやつはどうかしら?」
「ああ、それなら簡単だ」
壺の助言に峰がうんうんと頷いた。
「ナス、ですか?」
「ナスを炒めて味噌をからめたものですよ。よく作りますし箸が進んでおられます」
「そ、それで、お願いします!」
水華がよく食べているのなら、それしかない。
凛は勢い込んで頷いた。
「ではそれにしましょう」
そうして前掛けをつけて調理は開始された。
おっかなびっくりとナスを洗っていて不思議に思う。
村では井戸だったのに、ここでは竹で出来た筒から紐を引っ張れば綺麗な水が出てくるのだ。
風呂も同じらしい。
こちらはお湯が出るそうだ。
凜には信じられない。
これは水華が水を司っているからかと不思議に思った。
「ではナスを切っていきましょう」
まずはナスを縦に半分と言われて峰が切るのをじっと見る。
包丁はしっかり握って手元を見るように言われた。
「では切りましょう」
峰の言葉に深々と頷くと、凛は神妙な面持ちで包丁を手に取った。
ゆっくりゆっくりとナスに包丁を近付けて、いざ切るとなったときだ。
「何をしている」
「きゃあ!痛っ」
いきなり背後から水華の低音の声が聞こえて、凛は飛び上がった。
そのさいに包丁を持つ手が跳ねて左指にわずかに傷をつける。
「凛様!」
「だ、大丈夫、です」
慌てる壺に、指を押さえながら凛はまくしたてた。
「何をやっている」
少し不機嫌な声でぐいと手を掴まれた。
低い体温に顔を上げれば、美しい顔がある。
その刺青のある顔は、不機嫌に眉根をよせていた。
「す、水華様」
「あちこちうろうろしていると思ったら、何故怪我を負っているんだ」
凛が二匹を探していたのを気づいていたらしい。
不機嫌そうな顔に、余計なことをしてしまっただろうかと思ったら、水華がそっと指先に唇を落とした。
「っ!」
なんとか悲鳴は飲み込んだ。
けれど指先に触れた柔らかな感触に、一気に顔が赤くなる。
そのことで接吻をされたことまで思い出してしまい、凜は頭がゆだるかと思った。
「怪我はするな」
憮然とした声に指先を見ると、傷が無くなっている。
怪我を治してくれたのだ。
けれどもっとやりようがあったのではないかと、凛はぎゅっと目をつむった。
せっかく考えないようにしていたのに、はじめて触れたときも唇の体温が低かったと今の行動で思い出してしまった。
顔を見れる気がしない。
「それで、何をしていた」
「凜様が水華様にお礼をしたいとおっしゃりましたので、料理を作っていたのですよ」
「礼?」
壺の説明に、水華がいぶかし気な声を出した。
それは迷惑そうだとかそんな声音ではない。
なので、凛はおずおずと目を開けた。
開けた先では水華が不思議そうな顔をしている。
「あ、あの」
「何の礼だ?」
きょとんとした顔。
普段が硬質な表情なせいか、少しだけ可愛らしく凛には見えた。
「い、色々、行灯や、かんざしに、金平糖も、ほかにもいっぱい、です」
「それは当然のことだろう?」
水華が不思議なことを言う。
(どうして当然なのかしら)
わけがわからない。
疑問を口にしようとしたけれど。
「まあいい、作るなら作れ」
言いながら水華は台所の入り口にある箱にどかりと片足を立てて座った。
そのせいで訊きそびれてしまった。
それに何故、とその一連の動きを目で追う。
座った水華は動く気配がない。
(どうしてそこにいらっしゃるの!?)
監視だろうか。
よくない物なんて入れないのにと思ったけれど、水華がそんなことを思うなんてないだろう。
そもそも神様に何が効くというのだ。
「どうした? 続けろ」
そのままそこにいるらしい。
緊張どころの話ではない。
「さあ凜様」
峰にうながされてしまうと逃げ場がない。
凛は腹を括ると、もう一度しっかりと包丁を握りしめた。
視線がとても緊張するけれど、考えない気にしないと自分に言い聞かせてナスを切った。
なんかもう達成感でいっぱいだ。
ナスを焦がしそうになりながらも何とか炒めて、峰のザックリとしたこれくらいの量、という説明に困惑しつつもようやく味噌を入れるまでたどり着いた。
あとはナスがしんなりするまでまた炒めるだけだ。
「そうやって作るのか」
水華が感心したように一言こぼした。
興味深そうな口ぶりに、峰も壺も嬉しそうだ。
「水華様に美味しいものを食べてもらいたいので、精進しています」
「確かに、お前たちの作るものは美味い」
その言葉に壺と峰が心底嬉しそうな顔をする。
ありがとうございますと口を揃えた二匹のように凛も喜んでもらいたい。
だから出来上がるまで精一杯丁寧に作った。
おそるおそる皿に盛って完成だ。
ちゃんと峰にも味見してもらったから、大丈夫のはずである。
「で、できました。食べて、いただけますか?」
出来上がった料理の皿を手に水華へと顔を向けると、じっと見つめられた。
その理由がわからない。
やはり迷惑だったかと眉を下げたら。
「酒の準備を。行くぞ」
水華が立ちあがった。
行くぞとは、どこに? と思っていると水華が台所の入り口へ向かう。
そして肩越しに振り返った。
「まだ夜ではないが酒は許せ」
その一言で食べてくれるのだとわかった。
ぎゅっと胸が締め付けられる感覚がする。
動かない凛にもう一度「行くぞ」と言われて慌ててついていけば、いつもの濡れ縁だった。
すぐ後ろをついて来ていた壺が、腰を下ろした水華の手元に酒の置いてある盆を置いた
そのまましずしずといなくなってしまう。
