臆病な少女は生贄として溺愛される

 翌日だった。

「手を出せ」

 朝食が終わり壺の淹れてくれたお茶をふうふうと飲んでいると、水菓にそんなことを言われた。
 ほとんど毎日、三食分。
 水華は部屋に一緒にいる。
 あいかわらず食べるときもあればほんの少しつまむ程度のときもある。
 ただひとつだけ変わった。
 食事中の席では酒を飲まなくなった。
 凜が酒は駄目だと懇願して以来だ。
 いつも口にしていた酒の代わりに凛と同じお茶を飲んでいる。
 そのせいか、壺の淹れるお茶は香りや味が毎回違った。
 水華のために色んな種類の茶葉を用意しているらしい。
 凛にはいつものをと言われたけれど、可能なら同じものを共有したいとおこがましくも思ってしまった。
 そんなわけで水華が酒を飲むのは、夜もふけた濡れ縁でだけだ。
 なんだか楽しみを奪ったような気がして、謝罪と無視をしていいと伝えた。
 だったら酌をしろと言われ、恐れ多くも水華の隣に座らせてもらっている。
 話したりなんてしないけれど、凜にとっては大事な時間だった。
 そんなわけで今日も朝食の席にいた水華だ。

「手、です、か?」
「そうだ。出せ」

 不思議に思いながらも両手を出すと、水華がふところから小さな巾着を取り出した。
 淡い青に銀や白の花模様が美しいものだ。
 それをなんのためらいもなく、凜の手にのせてくる。
 その美しい巾着を見て、凜は固まってしまった。
 あきらかに高価そうだ。
 こんな美しい巾着なんて見たことがない。
 紐止めの玉石は薄い青。
 キラキラと光っていて、とても綺麗だった。
 手元を見て水華を見てと忙しなくしていたら、ほんの少しおかしそうに水華が口元を綻ばせた。
 そのいつもとはまったく違う表情に見惚れてしまう。

「開けて見ろ」
「は、はい」

触るのも怖くなる巾着をそっと開けると、そこには小さな星型の粒が沢山入っていた。
 白や青、黄色と華やかだ。

「こ、これは?」
「金平糖、砂糖菓子だ」
「こんぺいとう……」

 綺麗な響きだ。
 砂糖菓子なんて凜ははじめて見た。
 ここではかぼちゃや芋を甘く煮つけたものを食べさせて貰っていたので、かりんとうがはじめての菓子だったのだ。

「緑木がやるまで気づかなかったからな」

 口調が不服そうだ。
 気づかなかったとはどういうことだろうか。

「お前のものだ」
「え、で、でも、こんな、高価なもの」
「高価でもなんでもない。遠慮はいらぬ」

 絶対に嘘だ。
 絶対に高価だ。
 そう言って遠慮すべきなのはわかっている。
 水華には行灯も、今髪に挿しているかんざしも、たくさん貰っている。
 でも、水華が手づから渡してくれるものは恥知らずと言われても受け取りたかった。

「ありがとう、ございます。う、うれしい、です」

 はにかんで笑うと、水華がどこか満足そうに「ああ」と告げる。
 凛は巾着を両手ですっぽりと胸に抱くと、目尻をほのかに赤くしてそれを見下ろした。
朝食を終えたあと、凛は部屋へと戻るとそっと巾着を見下ろした。
触り心地も見栄えも一級品だ。
本当に貰っていいのかと慄いてしまう。

「水華様が私のために……」

 水華のところに来てから、与えられるということが恥ずかしいくらい胸を高鳴らせるのだと凛は知った。
 祠の声に魚をもらったときは、ただただ感謝しかなかった。
 水華には、申し訳なさなんかはもちろんあるけれど、それ以上に胸の奥が温かくなる。
 そしてそれは二回目三回目と重ねるごとに、落ち着かなくなった。
 それは後ろめたいものではなく、とくとくと心臓が不自然に高鳴るもので嫌なものではない。
 むしろ凜は何故か大事にしたいと思う気持ちだった。
 そっと中を覗くと可愛らしい色合いの小さな飴たち。
 一粒つまんで、おそるおそる食べると甘さが舌先に広がった。

「あまい……」

 緑木がくれたかりんとうとは食感も味もまるで違った。
 凜としてはこちらのほうが食べやすい。
 甘さは少しだけ余韻を残してなくなったけれど、何故かそれは水華に触れられたときを思い出させた。
 目尻に朱が走り、なんだか熱くなってしまう。