鬼狩りの番~置き去りにされた娘は、半人半鬼に血を捧げる~

永太と琴のもとへ駆け戻ると、私の必死な声が届いたのだろう。
二人は不安げな表情を浮かべ、既に身を起こしていた。
布団を握る小さな指が、暗がりの中で白く強張っている。

「おねえちゃん……?」
「大丈夫よ、二人とも。まだ夜だけれど、少しお外へ行こうね」
「おねえちゃんも、いっしょ?」
「もちろんよ。ずっと一緒だから」

そう答えると、琴の瞳に溜まっていた涙が、落ちる寸前で止まった。
永太は何かを察したのか、泣き出すのを堪えるように唇を噛んでいる。

暦の上では春とはいえ、夜の空気はまだ肌を刺すように冷たい。
二人が凍えぬよう、手早く半纏(はんてん)を着せ、震える指先を隠すように紐を固く結んでいく。
私の手も震えていた。
それでも、結び目だけはほどけないよう、何度も指で確かめる。

「永太は父さんに、琴はお姉ちゃんが背負うからね」

そう言い聞かせ、二人の手を引く。
ようやく事の重大さに気づいた父と継母が、土気色の顔で慌てて荷造りを始めていた。
箪笥を開け、風呂敷を広げ、何を持つべきかもわからぬまま手を動かしている。

「待って……!二人とも、荷物は後にして……!とにかく一刻も早く逃げないと!」
「あ、ああ……わかった……」
「父さん!永太を背負って!」

隣の集落が襲われたと、新八さんは言っていた。
男の足でも、ここからは数時間はかかる道のり。
けれど、鬼の足はどれほどのものなのだろう。
見たこともない鬼の速さなど、想像の範疇を超えている。
山を越え、田畑を抜け、炎の匂いよりも早くこちらへ来るものだとしたら。

琴を背負おうと背負い紐を手に取ったとき、遅れて部屋に入ってきた鈴が、私の肩を叩いた。

「姉さん!琴は母さんが連れて行くわ」
「え……?でも」

いつもなら、琴の世話を煩わしそうに私へ丸投げする鈴。
継母にしても、乳離れが済んでからは、この子を抱き上げたことなど、どれほどあったか思い出せないほど。
こんな時だからこそ、急に母親らしさを思い出したのだろうか。
そう思いたかった。
思いたかったのに、胸の奥が妙にざわつく。

「姉さんは、位牌(いはい)を持ってこないと。そうでしょ?」
「あ……」

母の……お母さんの、位牌。

「大丈夫よ。姉さんが戻ってくるまで、私がここで待っているわ。だって、私たち家族じゃない」