「あの……一番隊の隊士の方々は、どちらに?」
「ん?ああ……」
近くで重い薬箱を抱えていた後方支援の男性が、腕で額の汗を拭う。
「……番のところだよ」
「え……?」
「一番隊は最前線を受け持つ分、消耗も激しい。さっきみたいな大規模な掃討や乱戦の後は、ほとんどの者がこうなる。そうしなければ、立っていられないんだよ」
そう言われて、急いで朔夜の背中を探す。
少し離れた瓦礫のそばで、彼はまだ隊士たちに指示を出している。
返り血を浴びたまま、まるで何事もなかったかのように、悠然と立っていた。
誰よりも激しく戦ったはずなのに。
誰よりも血を浴び、誰よりも鬼力を使ったはずなのに。
その背中だけが、まだ誰にも支えられずに立っている。
「……朔夜」
「なんだ」
振り返りもしない、事務的な声。
けれど、私の気配だけは的確に捉えている。
「……一番隊の方々は、その……皆、番の方と一緒だと聞きました」
「それがどうした」
「朔夜は、いいんですか?その……」
私の言葉に、彼はようやくこちらを向いた。
燃えるような赤い瞳が、不快そうに、険しく細められる。
「……誰に聞いた」
「えっ、と……後方支援の方が、教えてくれました。皆さん、今そうしているのだと……」
「余計なことを」
忌々しげに吐き捨てて、朔夜は視線を外した。
「俺に吸血は不要だ。勝手な気を遣うな」
「でも、他の一番隊の方はみんな……」
「……あの程度の戦闘なら、血を求めるほどではない」
はっきりと言い切られてしまう。
あまりに迷いのない拒絶に、それ以上、言葉を継ぐことができない。
それはきっと、戦場に立つ者としての矜持なのだろう。
隊長として弱さを誰にも見せないこと。
そうして朔夜は、鬼狩りになってから七年もの間、一番隊の先頭に立ち続けてきた。
朔夜は一番隊の隊長で、誰よりも強く、誰よりも『半人半鬼』としての完成度が高いのだから。
独りで戦い、独りで立ち、独りで傷をなかったことにして。
今までも、これからもそうしていくのかもしれない。
「……わかりました。差し出がましいことを言いました」
「わかったなら、もう聞くな。自分の仕事に戻れ」
頷いたものの、胸の奥には小さな棘が刺さったまま抜けない。
ほんの少しでも、何か役に立てると思ったのに。
いざ彼を支えられるかもしれない場面で、私だけが必要とされていないような疎外感。
そんな情けない考えを振り払うように、朔夜の元から歩き出す。
せめて、今自分にできる精一杯のことをしよう。
そう決めて、土に汚れた手で重い鍬を受け取り、浅く掘られた穴のそばに膝をつく。
喧騒の中、慌ただしく人々が行き交う。
朔夜はもう二度とこちらを見ようとはしない。
その横顔はいつも通り鉄のように無愛想で、一片の迷いもないように見える。
けれど、彼は隠すのが上手いだけで、私が見えていないだけかもしれない。
ただ、差し出そうとした手を退けられた感覚だけが、いつまでも掌の奥に残っていた。
「ん?ああ……」
近くで重い薬箱を抱えていた後方支援の男性が、腕で額の汗を拭う。
「……番のところだよ」
「え……?」
「一番隊は最前線を受け持つ分、消耗も激しい。さっきみたいな大規模な掃討や乱戦の後は、ほとんどの者がこうなる。そうしなければ、立っていられないんだよ」
そう言われて、急いで朔夜の背中を探す。
少し離れた瓦礫のそばで、彼はまだ隊士たちに指示を出している。
返り血を浴びたまま、まるで何事もなかったかのように、悠然と立っていた。
誰よりも激しく戦ったはずなのに。
誰よりも血を浴び、誰よりも鬼力を使ったはずなのに。
その背中だけが、まだ誰にも支えられずに立っている。
「……朔夜」
「なんだ」
振り返りもしない、事務的な声。
けれど、私の気配だけは的確に捉えている。
「……一番隊の方々は、その……皆、番の方と一緒だと聞きました」
「それがどうした」
「朔夜は、いいんですか?その……」
私の言葉に、彼はようやくこちらを向いた。
燃えるような赤い瞳が、不快そうに、険しく細められる。
「……誰に聞いた」
「えっ、と……後方支援の方が、教えてくれました。皆さん、今そうしているのだと……」
「余計なことを」
忌々しげに吐き捨てて、朔夜は視線を外した。
「俺に吸血は不要だ。勝手な気を遣うな」
「でも、他の一番隊の方はみんな……」
「……あの程度の戦闘なら、血を求めるほどではない」
はっきりと言い切られてしまう。
あまりに迷いのない拒絶に、それ以上、言葉を継ぐことができない。
それはきっと、戦場に立つ者としての矜持なのだろう。
隊長として弱さを誰にも見せないこと。
そうして朔夜は、鬼狩りになってから七年もの間、一番隊の先頭に立ち続けてきた。
朔夜は一番隊の隊長で、誰よりも強く、誰よりも『半人半鬼』としての完成度が高いのだから。
独りで戦い、独りで立ち、独りで傷をなかったことにして。
今までも、これからもそうしていくのかもしれない。
「……わかりました。差し出がましいことを言いました」
「わかったなら、もう聞くな。自分の仕事に戻れ」
頷いたものの、胸の奥には小さな棘が刺さったまま抜けない。
ほんの少しでも、何か役に立てると思ったのに。
いざ彼を支えられるかもしれない場面で、私だけが必要とされていないような疎外感。
そんな情けない考えを振り払うように、朔夜の元から歩き出す。
せめて、今自分にできる精一杯のことをしよう。
そう決めて、土に汚れた手で重い鍬を受け取り、浅く掘られた穴のそばに膝をつく。
喧騒の中、慌ただしく人々が行き交う。
朔夜はもう二度とこちらを見ようとはしない。
その横顔はいつも通り鉄のように無愛想で、一片の迷いもないように見える。
けれど、彼は隠すのが上手いだけで、私が見えていないだけかもしれない。
ただ、差し出そうとした手を退けられた感覚だけが、いつまでも掌の奥に残っていた。



