鬼狩りの番~置き去りにされた娘は、半人半鬼に血を捧げる~

食事を終えると、朔夜は迷いのない動作で刀を取った。
鞘を帯に差し、鯉口を確かめる一連の動き。
静かで、研ぎ澄まされていて——それだけで天幕の中の空気が、ピンと張り詰めたように変わる。
一挙手一投足が無駄なく研ぎ澄まされていく様は、刃が鞘の内で静かに澄んでいくようで、思わず息を呑んだ。

「……行ってくる」
「はい。……いってらっしゃい。気をつけて」
「気をつけるのはお前の方だ。番となったお前に、俺が最初に言った言葉は覚えているか?」

最初に言われた言葉。

『お前の命は俺のものだ。俺の知らぬところで、傷つくことも、死ぬことも断じて許さん』

もちろん、忘れたことはない。
あの時は乱暴で傲慢な言葉だと思った。
けれど今は、私を必ず守るという、彼なりの誓いだったのだと分かる。

「それだけ覚えていればいい」

短くそう言い捨てて、朔夜は天幕の外へと消えていく。
入口の布の揺れが収まり、静寂が戻る。

空間に残されたのは、お味噌汁の湯気と、彼が纏っていたお香のかすかな残り香だけだった。
そして、胸の奥に残る、重くて温かな言葉。

その場に立ち尽くし、彼が消えた幕の向こうを見つめ続ける。
待つ。
それが今の私にできる、たった一つの役目なら。

ちゃんと待っていよう。
彼が帰ってくる、その時まで。