「……こんな任務にまで同行するなんて。どこまで厚顔無恥なの」
「っ、……西園寺さん」
朱色の番装束を翻し、影の中から現れた彼女。
番候補も時として実戦の空気を知るために任務に同行すると聞いてはいたけれど。
先日の、あの服を汚された件が脳裏を掠め、反射的に一定の距離を取る。
西園寺さんは、そのわずかな動きを見逃さなかったのだろう。
口元に、冷ややかな笑みが浮かんだ。
番候補には名家の子女が多い。
それは、鬼狩りの隊長格の番になれれば、一族にとって至上の名誉となるからだという。
ましてや朔夜は、名家の出。
けれど、彼女が抱く感情は、単なる名誉欲だけじゃない。
もっと深く、暗く、崇拝にも近い執着のように感じられた。
「ごめんなさい。あれからずっと考えてみました。……けれど、やっぱりあなたの望みを叶えることは、私にはできません」
「っ……!その分をわきまえぬ態度が、烏滸がましいと言っているのよ!!」
「それでも、です。私が彼の番です」
声は震えなかった。
自分でも少し驚くほど、静かに言えた。
私は彼女を刺激しないよう、けれど視線だけは逸らさずにすれ違う。
背中を見せるのは怖い。
けれど、ここで立ち止まって言葉を重ねれば、また互いに傷つけ合うだけ。
「何も知りもしない、成し遂げてもいないくせに……っ!」
何も知らない。
彼女の言う通り。
私が知っていることなんて、鬼狩りは番が死ぬまで新たな番を持てないこと。
そして番にとっては、鬼狩りが死んでも、その呪縛にも似た重い血の契約は永遠に終わらないこと。
たったそれだけ。
私はまだ、この場所で朔夜のために何もできていない。
彼の隣に立つ覚悟も、知識も、きっと足りていない。
勢いではあったけれど、私は朔夜の番になることを選び、自分の意志で彼の苦しみを受け取ると決めた。
だから、逃げない。
背後から、彼女が悔しげに歯を食いしばる音が聞こえた気がした。
周りの木々を揺らす夜風が、急に冷たさを増したように感じて、私は自分の肩を抱く。
「っ、……西園寺さん」
朱色の番装束を翻し、影の中から現れた彼女。
番候補も時として実戦の空気を知るために任務に同行すると聞いてはいたけれど。
先日の、あの服を汚された件が脳裏を掠め、反射的に一定の距離を取る。
西園寺さんは、そのわずかな動きを見逃さなかったのだろう。
口元に、冷ややかな笑みが浮かんだ。
番候補には名家の子女が多い。
それは、鬼狩りの隊長格の番になれれば、一族にとって至上の名誉となるからだという。
ましてや朔夜は、名家の出。
けれど、彼女が抱く感情は、単なる名誉欲だけじゃない。
もっと深く、暗く、崇拝にも近い執着のように感じられた。
「ごめんなさい。あれからずっと考えてみました。……けれど、やっぱりあなたの望みを叶えることは、私にはできません」
「っ……!その分をわきまえぬ態度が、烏滸がましいと言っているのよ!!」
「それでも、です。私が彼の番です」
声は震えなかった。
自分でも少し驚くほど、静かに言えた。
私は彼女を刺激しないよう、けれど視線だけは逸らさずにすれ違う。
背中を見せるのは怖い。
けれど、ここで立ち止まって言葉を重ねれば、また互いに傷つけ合うだけ。
「何も知りもしない、成し遂げてもいないくせに……っ!」
何も知らない。
彼女の言う通り。
私が知っていることなんて、鬼狩りは番が死ぬまで新たな番を持てないこと。
そして番にとっては、鬼狩りが死んでも、その呪縛にも似た重い血の契約は永遠に終わらないこと。
たったそれだけ。
私はまだ、この場所で朔夜のために何もできていない。
彼の隣に立つ覚悟も、知識も、きっと足りていない。
勢いではあったけれど、私は朔夜の番になることを選び、自分の意志で彼の苦しみを受け取ると決めた。
だから、逃げない。
背後から、彼女が悔しげに歯を食いしばる音が聞こえた気がした。
周りの木々を揺らす夜風が、急に冷たさを増したように感じて、私は自分の肩を抱く。



