鬼狩りの番~置き去りにされた娘は、半人半鬼に血を捧げる~

混濁した意識が、ゆるやかに覚めていく。
ふと、自分の目尻を熱い滴が伝い、枕を濡らしていることに気づいた。
あまりにも悲しく、あまりにも切ない。
胸を締め付けるような痛みが、現実の体温を奪っていく。

重い体を起こすと、そこがこれまで見たこともないような、上質な絹の寝具の上であることに気が付く。
肌に触れる布は信じられないほど滑らかで、私の知る薄い布団とはまるで違う。
一瞬、自分がまだ夢の中にいるのかと思った。

「目が覚めたか」

低い声が部屋の奥から聞こえる。
部屋を仕切る御簾(みす)を、荒々しい手つきで跳ね除けて入ってきた影。
あの凄絶な夜、私を死の淵から救い上げた男が、どさりと音を立てて寝台の傍らに腰を下ろした。

「お前、名は。なんという」
「え……あ、梓。諏訪(すわ)(あずさ)です」

二人の間に、張り詰めたような沈黙が降りる。

聞きたいことは、山ほどあった。
ここはどこなのか、集落から逃げ出した人々は無事なのか。
そして何より、残してきた永太と琴のこと。
鬼の正体も、あの番という言葉の意味も。
何から口にすべきか迷い、私はまず、喉の奥に引っかかっていた言葉を絞り出した。

「あの、貴方の、お名前を——」
「お前な!!!何を考えている!!」

私の問いを、怒号が真っ向からねじ伏せた。
思わず肩が跳ねる。

「えっ?」
「いかに非常時であったとはいえ、向こう見ずにも程がある!鬼狩りの伴侶でもないのに。出会ったばかりの素性の知れぬ男に対し、よくも考えなしに……!」
「な……っ」
「まともな説明も聞かないまま、鬼狩りの番を引き受けるなど、正気の沙汰ではない!莫迦(ばか)なのか?莫迦なのだろう!!」

必死だった。
助けられた恩を返したい、その一心だったのに。

胸の奥が、かっと熱くなる。
叱られていることが悔しいのではない。
あの場で彼を見捨てる選択など、私にはどうしてもできなかっただけ。

「目の前に、今にも死にそうな人がいて……。助けたいと思うのが、当然です!」
「それでも、踏み越えてはならぬ一線というものがあるだろう!」
「でしたら、貴方も同じでしょう!見ず知らずの私を、貴方もあの時、助けてくださったじゃないですか!?」
「……!」