一筋の鋭い閃光が、夜を薙ぎ払う。
刃が抜けた、その一瞬の後。
絶命した鬼の巨躯が、土煙を上げて崩れ落ちた。
低級に分類される鬼の群れ。
数日前、初めて彼女と邂逅した、あの集落に巣食っていた鬼。
あの場では一旦引き退いたかに見えたが、やはり後続の群れに蹂躙されていた。
無惨に散乱した人や家畜の残骸。
踏みにじられた畑。
炭化して崩れ落ちた民家。
もはや、人が平穏に暮らせる名残などどこにもない。
そこにあるのは、鬼が通った後に残る、ただの地獄。
番という存在を得たからだろうか。
その番を育んだ景色が、これほどまでに無惨に荒らされた。
そう思うだけで、胸を抉られるような痛みと共に、かつてないほど苛烈な憎悪が腹の底から湧き上がってくる。
俺のものだと告げた命。
その命が、帰る場所として胸に抱いていたはずの景色。
それを、鬼どもは踏みにじった。
「ひゃ~……。今回はまた、いつにも増して壮観ですねぇ」
死屍累々と横たわる鬼の残骸を眺め、副隊長が呆れたように声をかけてきた。
「余計な口を叩くな。鬼はすべて焼却し、犠牲者の記録と埋葬の手配を九番隊に回せ」
「はっ」
「俺は、奥へ向かう」
「お一人で、ですか?」
「問題ない。……いつもより調子がいい」
不可思議な感覚。
身体が羽のように軽い。
刀を握る手に余計な力を込めずとも、吸い込まれるように刃が鬼を断つ。
踏み込みは深く、呼吸は乱れず、斬り終えた後の反動もない。
体力も、内なる鬼力の消耗も、驚くほどに少ない。
「これも、番を得たことによる効果なのか?」
今のこの研ぎ澄まされた感覚ならば、抜刀一つで低級どころか、中級の鬼ですら敵ではない。
鬼力を大きく消費する『異能』を使う必要すらないだろう。
ぐっと握りしめた拳に力を込め、暗い集落の深淵を見据える。
まだ、この先に淀んだ気配が渦巻いている。
今はまだ不毛の地だろうが、ここは彼女の故郷だ。
いつか、再び彼女をここへ連れて帰ってやりたい。
たとえ、元通りにはならずとも。
せめて、あの娘が膝をついて泣かずに済む場所へ。
その願いを密かに胸に秘め、俺は刀を握り直し、闇の奥へと歩を進めた。
「えっ?隊長、番にそんな強化効果なんてありませんよ?」
「……何?」
「お前、聞いたことあるか?」
「いや、俺も初耳だ。せいぜい傷の治療と、鬼力の即時回復、あとは鬼化の鎮静作用くらいだろう」
「誰に訊いても、答えは同じだと思いますが……」
顎に手を添え、思考を巡らせた。
部下たちの話を総合すれば、番による吸血の恩恵は、肉体の修復とエネルギーの補填。
そして暴走を抑える鎮静作用に限定される。
長年、番という存在を遠ざけてきたがゆえに、隊長でありながら基礎的な知識が欠落しているのは事実だ。
しかし、身体の芯から絶え間なく湧き上がるこの力は、到底気のせいでは片付けられない。
今まで一度として経験したことのない現象だ。
偶然という言葉で片付けるには、あまりに劇的すぎる。
思い当たるのはやはり、彼女という番を得たこと以外にない。
彼女に再び会えば、この謎は解けるのだろうか。
「隊長、もしや番様のことを考えておられるのですか?」
「あ?……なぜわかった。なぜだ、どういうことだ。これも番を得たからか?」
困惑のあまり、無意識に隊員の襟元を掴んで締め上げる。
「わーっ!!隊長、落ち着いてくださいっ!」
「げほっ、ごほっ……!」
「睦月隊長!それは番の力ではなく、隊長の顔に出ているんです!」
周囲の隊員に必死に宥められ、慌てて手を離す。
解せないことばかりだ。
たかが番。
欠落を補うための道具に過ぎないと思っていたはずなのに。
「いやぁ、しかし無理もないですよ。隊長の番、めちゃくちゃ綺麗ですもんね」
「な。出発前に日の下で見た時、どこの令嬢かと思った」
「しかも、『行ってらっしゃい』なんて。そりゃあ、早く帰りたくもなるよな」
ぴたり、と空気が止まった。
「……お前ら」
自分でも驚くほど低い声が出た。
部下たちの笑みが、一瞬で引きつる。
「俺の番を、そんな目で見ていたのか?」
刃が抜けた、その一瞬の後。
絶命した鬼の巨躯が、土煙を上げて崩れ落ちた。
低級に分類される鬼の群れ。
数日前、初めて彼女と邂逅した、あの集落に巣食っていた鬼。
あの場では一旦引き退いたかに見えたが、やはり後続の群れに蹂躙されていた。
無惨に散乱した人や家畜の残骸。
踏みにじられた畑。
炭化して崩れ落ちた民家。
もはや、人が平穏に暮らせる名残などどこにもない。
そこにあるのは、鬼が通った後に残る、ただの地獄。
番という存在を得たからだろうか。
その番を育んだ景色が、これほどまでに無惨に荒らされた。
そう思うだけで、胸を抉られるような痛みと共に、かつてないほど苛烈な憎悪が腹の底から湧き上がってくる。
俺のものだと告げた命。
その命が、帰る場所として胸に抱いていたはずの景色。
それを、鬼どもは踏みにじった。
「ひゃ~……。今回はまた、いつにも増して壮観ですねぇ」
死屍累々と横たわる鬼の残骸を眺め、副隊長が呆れたように声をかけてきた。
「余計な口を叩くな。鬼はすべて焼却し、犠牲者の記録と埋葬の手配を九番隊に回せ」
「はっ」
「俺は、奥へ向かう」
「お一人で、ですか?」
「問題ない。……いつもより調子がいい」
不可思議な感覚。
身体が羽のように軽い。
刀を握る手に余計な力を込めずとも、吸い込まれるように刃が鬼を断つ。
踏み込みは深く、呼吸は乱れず、斬り終えた後の反動もない。
体力も、内なる鬼力の消耗も、驚くほどに少ない。
「これも、番を得たことによる効果なのか?」
今のこの研ぎ澄まされた感覚ならば、抜刀一つで低級どころか、中級の鬼ですら敵ではない。
鬼力を大きく消費する『異能』を使う必要すらないだろう。
ぐっと握りしめた拳に力を込め、暗い集落の深淵を見据える。
まだ、この先に淀んだ気配が渦巻いている。
今はまだ不毛の地だろうが、ここは彼女の故郷だ。
いつか、再び彼女をここへ連れて帰ってやりたい。
たとえ、元通りにはならずとも。
せめて、あの娘が膝をついて泣かずに済む場所へ。
その願いを密かに胸に秘め、俺は刀を握り直し、闇の奥へと歩を進めた。
「えっ?隊長、番にそんな強化効果なんてありませんよ?」
「……何?」
「お前、聞いたことあるか?」
「いや、俺も初耳だ。せいぜい傷の治療と、鬼力の即時回復、あとは鬼化の鎮静作用くらいだろう」
「誰に訊いても、答えは同じだと思いますが……」
顎に手を添え、思考を巡らせた。
部下たちの話を総合すれば、番による吸血の恩恵は、肉体の修復とエネルギーの補填。
そして暴走を抑える鎮静作用に限定される。
長年、番という存在を遠ざけてきたがゆえに、隊長でありながら基礎的な知識が欠落しているのは事実だ。
しかし、身体の芯から絶え間なく湧き上がるこの力は、到底気のせいでは片付けられない。
今まで一度として経験したことのない現象だ。
偶然という言葉で片付けるには、あまりに劇的すぎる。
思い当たるのはやはり、彼女という番を得たこと以外にない。
彼女に再び会えば、この謎は解けるのだろうか。
「隊長、もしや番様のことを考えておられるのですか?」
「あ?……なぜわかった。なぜだ、どういうことだ。これも番を得たからか?」
困惑のあまり、無意識に隊員の襟元を掴んで締め上げる。
「わーっ!!隊長、落ち着いてくださいっ!」
「げほっ、ごほっ……!」
「睦月隊長!それは番の力ではなく、隊長の顔に出ているんです!」
周囲の隊員に必死に宥められ、慌てて手を離す。
解せないことばかりだ。
たかが番。
欠落を補うための道具に過ぎないと思っていたはずなのに。
「いやぁ、しかし無理もないですよ。隊長の番、めちゃくちゃ綺麗ですもんね」
「な。出発前に日の下で見た時、どこの令嬢かと思った」
「しかも、『行ってらっしゃい』なんて。そりゃあ、早く帰りたくもなるよな」
ぴたり、と空気が止まった。
「……お前ら」
自分でも驚くほど低い声が出た。
部下たちの笑みが、一瞬で引きつる。
「俺の番を、そんな目で見ていたのか?」



