夢でキスした先輩は、俺にだけ毒を吐く王子様。

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「俺、今日昼飯パス!」

昼休みのチャイムが鳴った直後、
秋人にそれだけ伝えて教室を出た。

「あっおい、春斗どこ行くんだよ!」

ーーごめん、秋人!

背中に聞こえる秋人の声に足を止めることなく、先輩の教室に向かった。

取り巻きの女子達に、笑顔で答える先輩の姿が見えた。

「すげえ、人気…」

ーーでも。

きっと先輩をお昼に誘っているであろう取り巻き達の輪をあっさり抜けて、教室の外へ歩き出す先輩。
目が合いそうになって、反射的に身を隠した。

ーーえ?どこいくんだ?
少し遠くから、できるだけ気配を消して後を追う。

階段を上がって、人が少ない廊下の一番奥の教室に入っていった。

「…理科準備室?」

深呼吸をしてそっと扉に手をかける。
おそるおそる中を覗こうとした瞬間ーー

「っ!?」

手首を強く掴まれて、そのまま中に引き込まれた。

「え、ちょーー」

背中が勢いよく壁にぶつかり、目の前には先輩。いつもの王子様スマイルの雰囲気はどこにもないまま、口を開いた。

「お前さ、ほんと、俺のストーカー?」

「朝からずっとなんなんだよ」

ーー終わった。

どのタイミングで気づかれた?
どうする?なんて言えばいい?

脳内がパニックで、言い訳すら浮かばない。

ーーもう、ここは素直に。

「……ご、ごめんなさい。先輩のこと、知りたくて、観察させていただこうと…」

露骨に顔をしかめた先輩を見て言葉に詰まった。

「お前、俺を知ってどうすんの?」

「……っ、それはーー」

「早く言えよ」

「……キス、したい」

「は?キスなんかしねえって言っただろ」

ーー完全に、嫌われた。
怖くて先輩の表情を見ることができない。

「……無理なのはわかってます。嫌われてることも…」

なのに、諦めるという選択肢を選べない俺を、俺自身も理解できない。

「なら、もう関わってくんなよ」

「それは、無理なんです」

ーー先輩と関わらないなんて、そんなのありえない。

「…だから、俺と仲良くしてください」

「無理」

あまりに即答すぎる先輩の答えに、グサッと音が聞こえるんじゃないかと思うくらい凹む。でもーー

「そこをなんとか。先輩のこと、知りたいんです俺」

「…はあ」

ため息をつく先輩に、これ以上言葉が出てこない。数秒の沈黙のあと、先輩の口から出たのは予想外な言葉だった。

「じゃあ条件」

「…え?」

「二度とキスしたいとか言ってくんな」

「あと、コソコソついてくんのやめろ。普通にキモい」

ーーそれって。
関わっていいってこと?
でもーー

「……キスは、したいです」

思わず口から出てしまった本音。

せっかくもらったチャンスを逃したーー後悔した瞬間。

先輩が、ふっと笑った。

「お前、ほんとバカだな」

ーー完全には嫌われて、ない?
浮かれてる俺を見る先輩の目は、少し意地悪に光っている。

「…雑用係やれ」

「え?」

「俺のバイト先」

それって先輩のバイト先で俺も働くってこと?
しかも雑用係!?

「調理サポート足りてねえし」

調理サポート…?

ってことは、

ーー先輩、売ってるだけじゃなくて作ってるのか?

ーーどっちにしろ先輩と関われるなら

「やります!やらせてください」

「即答かよ」

そう言ってふっと笑う声は、どこか楽しそうに見えた。

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〚先輩の好きなもの→ドーナツ?(※作ってる?)〛
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