***
「…よしっ」
放課後を告げるチャイムと同時に立ち上がって、真っ先に教室を出た。
昨日はあの後、調べに調べまくった。
お昼も軽めに済ませた。
準備万端だったはずーー
なのに。
「……人、多すぎだろ」
しかも、列に並んでいるのはほとんど女子。ある程度予想はしていたものの、その予想をはるかに上回っていた。
「…はあ」
小さくため息を吐いて、最後尾に並ぶ。
カラフルなドーナツの看板と甘い香り。
そして…女子の行列の最後尾に、俺。
完全に浮いているはずなのに、
諦めて帰る、という選択肢はなかった。
ーー先輩に会える。
その事実だけで、居心地の悪さすらどうでもよかった。
俺が列に並んでから十五分くらいたった頃、列全体のざわつきが増していく。
「慎也くんじゃない?」
「え、来た?」
そんな声が聞こえてきてから、さらにその数分後、列の先頭辺りから、「きゃー!」という歓声が聞こえてきた。
一瞬で空気が変わった気がする。
ーー先輩、来た!?
俺の視線も自然と声の方へ吸い寄せられたが、なんたって俺は列の後ろのほう。
前の様子はまだ見えないままだった。
少しずつ列が進み、キャッキャと嬉しそうにドーナツを持った女子達が店内から出てくる。
列が進むにつれ、焦りともドキドキともまた違う不思議な感覚が増していった。
列の長さがやっと半分を過ぎた頃ーー視界がぱっと開けた。
「…うわ…王子」
首元が少し開いた白いシャツに、
水色のエプロン。
緩くセットされた髪。
思わず声が漏れてしまうほど完璧で、吸い寄せられた俺の視線は、もう逸らすことを許されない。
ひとり、またひとりと、先輩の前に立っては嬉しそうに会話をして、ドーナツを受け取っていく。
そして、全員に笑顔を崩すことなく対応している。
ーーあんなこと、普通できない。
「お次のお客様、大変お待たせ致しました」
ふいに声をかけられ、思わずびくっと飛び上がる。
気づけば、俺の順番が来ていた。
深呼吸して一歩前に出ると、目の前には眩しいくらいに綺麗な先輩が、ドーナツのショーケース越しに笑顔で立っている。
ーー今、先輩の視界には、俺しかいない。
学校では目が合うどころか相手にすらされていない。
こんなふうに見つめ合うのは、あの夢のキス以来初めてだった。
「ご注文はお決まりですか」
そう言って俺にニコッと王子様スマイルで笑いかける。
ーーあれ?
俺の事、忘れたのか!?
"またお前かよ"とか言われて冷たく返されると思ってたけどーーいや、今は落ち着け、俺。
「あ、あの……おすすめってどれですか?」
普段の先輩とあまりにも違うせいか、声は上ずるし、心臓もバクバクだった。
「……今はキャラメルといちごが人気です。あとは、王道ならチョコとか」
「……じゃあ、それをください」
「かしこまりました」
俺を目の前にしても、最後まで変わらない笑顔の先輩に違和感を覚えながらも、会計を済ませた。
ドーナツの入った袋を受け取ろうと、手を伸ばした時ーー耳元に先輩の声が落ちる。
「…お前、ストーカーかよ」
「なんでいつも突然現れんだよ」
ーーやっぱ俺の事、覚えてる!
嬉しさのあまり何も言えないまま固まっていると、
「お前、まじ覚えとけよ」
王子様スマイルのまま、ありえない言葉が降ってきた。
ーー普通ならここで引くべきなんだろう。
俺にだけ、毒を吐く先輩。
それを嬉しく思う俺って、やっぱ頭おかしいのか?
「ありがとうございました」
笑顔の先輩に見送られて、店を出た。
「…よしっ」
放課後を告げるチャイムと同時に立ち上がって、真っ先に教室を出た。
昨日はあの後、調べに調べまくった。
お昼も軽めに済ませた。
準備万端だったはずーー
なのに。
「……人、多すぎだろ」
しかも、列に並んでいるのはほとんど女子。ある程度予想はしていたものの、その予想をはるかに上回っていた。
「…はあ」
小さくため息を吐いて、最後尾に並ぶ。
カラフルなドーナツの看板と甘い香り。
そして…女子の行列の最後尾に、俺。
完全に浮いているはずなのに、
諦めて帰る、という選択肢はなかった。
ーー先輩に会える。
その事実だけで、居心地の悪さすらどうでもよかった。
俺が列に並んでから十五分くらいたった頃、列全体のざわつきが増していく。
「慎也くんじゃない?」
「え、来た?」
そんな声が聞こえてきてから、さらにその数分後、列の先頭辺りから、「きゃー!」という歓声が聞こえてきた。
一瞬で空気が変わった気がする。
ーー先輩、来た!?
俺の視線も自然と声の方へ吸い寄せられたが、なんたって俺は列の後ろのほう。
前の様子はまだ見えないままだった。
少しずつ列が進み、キャッキャと嬉しそうにドーナツを持った女子達が店内から出てくる。
列が進むにつれ、焦りともドキドキともまた違う不思議な感覚が増していった。
列の長さがやっと半分を過ぎた頃ーー視界がぱっと開けた。
「…うわ…王子」
首元が少し開いた白いシャツに、
水色のエプロン。
緩くセットされた髪。
思わず声が漏れてしまうほど完璧で、吸い寄せられた俺の視線は、もう逸らすことを許されない。
ひとり、またひとりと、先輩の前に立っては嬉しそうに会話をして、ドーナツを受け取っていく。
そして、全員に笑顔を崩すことなく対応している。
ーーあんなこと、普通できない。
「お次のお客様、大変お待たせ致しました」
ふいに声をかけられ、思わずびくっと飛び上がる。
気づけば、俺の順番が来ていた。
深呼吸して一歩前に出ると、目の前には眩しいくらいに綺麗な先輩が、ドーナツのショーケース越しに笑顔で立っている。
ーー今、先輩の視界には、俺しかいない。
学校では目が合うどころか相手にすらされていない。
こんなふうに見つめ合うのは、あの夢のキス以来初めてだった。
「ご注文はお決まりですか」
そう言って俺にニコッと王子様スマイルで笑いかける。
ーーあれ?
俺の事、忘れたのか!?
"またお前かよ"とか言われて冷たく返されると思ってたけどーーいや、今は落ち着け、俺。
「あ、あの……おすすめってどれですか?」
普段の先輩とあまりにも違うせいか、声は上ずるし、心臓もバクバクだった。
「……今はキャラメルといちごが人気です。あとは、王道ならチョコとか」
「……じゃあ、それをください」
「かしこまりました」
俺を目の前にしても、最後まで変わらない笑顔の先輩に違和感を覚えながらも、会計を済ませた。
ドーナツの入った袋を受け取ろうと、手を伸ばした時ーー耳元に先輩の声が落ちる。
「…お前、ストーカーかよ」
「なんでいつも突然現れんだよ」
ーーやっぱ俺の事、覚えてる!
嬉しさのあまり何も言えないまま固まっていると、
「お前、まじ覚えとけよ」
王子様スマイルのまま、ありえない言葉が降ってきた。
ーー普通ならここで引くべきなんだろう。
俺にだけ、毒を吐く先輩。
それを嬉しく思う俺って、やっぱ頭おかしいのか?
「ありがとうございました」
笑顔の先輩に見送られて、店を出た。


