夢でキスした先輩は、俺にだけ毒を吐く王子様。

***

昼休み。今日は朝から放課後が待ち遠しくて仕方ない。

俺は教室から外を眺めていた。
その視線の先では、友達とサッカーをしている先輩が、まさに今ボールを蹴り上げている。

太陽に照らされて茶色がかった髪。
頬にうっすら汗を浮かばせながらも、ものすごく爽やかに走っている。

「うわ、かっこよ…」

思わず、声が漏れた。

「おい!春斗」

横から声がして、はっとする。
どうやら窓に手をついたまま、固まっていたらしい。

「お前、また慎也先輩見てんの?」

秋人は呆れたようにため息を吐いた。

「いや、別に」

そう答えておきながら、視線は勝手にグラウンドへ戻る。

走る度に揺れるシャツ。
汗で少し張り付いた髪。
色気すら感じてしまう。

「お前、全然別にじゃねえだろ」

秋人のツッコミも、ほとんど耳に入って来ない。

ーー気づいた時には、立ち上がっていた。

「おい、どこ行くんだよ」

「……汗かいてるから」

「は?」

「飲み物、届けてくる!」

それだけ言って、教室を飛び出した。
廊下を出てすぐの自販機でスポーツドリンクを買って、グラウンドに向かった。

グラウンドに出て、すぐに先輩の姿を探す。
ちょうど試合の合間だったのか、ベンチの近くでタオルを首にかけている先輩を見つけた。

先輩の周りには、取り巻きの女子含め、沢山の人がいる。ーーでも、そんなの関係ない。

「あのっ!先輩」

人だかりをかき分けて先輩の目の前に立って、声をかけた。

「またお前かよ」

先輩は王子様スマイルのまま、口元だけで呟いた。
ーー俺の事、覚えてた!?

「あの、これ、どうぞ」

すかさずスポーツドリンクを差し出す。

「……」

ーーえ、無視?
と思ったところで、耳元に声が落ちる。

「いらねーよ……持って帰れ」

ーーえぇ??
先輩は王子様スマイルを崩さないまま、俺の横を通過して行った。
先輩の背中が遠くなっていく。

さすがにそれ以上は何も言えず、肩を落として教室に戻る。

「おかえり、撃沈男」

秋人がお腹を抱えて笑いながら待ち構えていた。

「うるせー」

俺は、うなだれるように机に突っ伏した。

「だからやめとけって言ったろ。てか、それ俺もらってやろうか?喉乾いてるし」

「は?やだ」

「なんでだよ」

ーーだって、これは!!

「先輩のために、買ったんだよ」

やけになって、自分で一気に飲み干した。
秋人はそんな俺を見て、呆れたように言った。

「…いや、お前、重っ!」

そんなことわかってるわ!
秋人の言葉に心の中でツッコんだ。