夢でキスした先輩は、俺にだけ毒を吐く王子様。

固まったままの俺を、じっと見る先輩。

「……無理」

普段なら「ばか」とか「キモイ」とか、もっと雑に突き放してくるはずなのに。

たった一言。

それだけで、今までとは違う"拒絶"に聞こえた。

「……そ、うですよね」

笑おうとしたのに、上手く口角が上がらない。

「慎也〜、なんで先行ってるの?」

この空気を断ち切るみたいに、店から本間さんが出てきた。

「別に、一緒に行く必要ねえだろ」

「ほんと慎也は冷たいなあ……あ、春斗くん。お疲れ様」

「あ、お疲れ様です」

軽く頭を下げると、本間さんはにこっと笑った。

そのままの流れで自然に二人で歩き出した。

ーーえ?どういうこと?

小さくなっていく二人の背中を、ただ、見送ることしか出来なかった。

本間さんと、先輩って。
どんな関係なんだ。

***

「……はあ」

帰宅してすぐ、制服のままベッドに倒れ込むと、無意識にため息をこぼしていた。

「よしっ……」

なんとか起き上がって、引き出しから毛糸を取り出す。
ぐちゃぐちゃの思考を誤魔化すように、ゆっくり編み始めた。

"「……無理」"

ーーあれ、まじな拒絶だったよな。

それに。

毒を吐くのは、いつも冷たいのは、俺にだけだと思ってた。
結局、聞こうと思った質問すら出来なかった。

「ほんと、情けな……」

キャラメル色の糸が少しずつ、形になっていく。
甘くて、苦い。……ほんと。

「先輩……みたいだな」

次の雑用は、よりによって四日も先。

これ以上のことは、なにも考えたくなくて、
ただ編み続けた。