夢でキスした先輩は、俺にだけ毒を吐く王子様。

***

ぼんやりしたまま時間はすぎて、気づけば放課後を告げるチャイムが鳴った。

はっとするように立ち上がって、ドーナツ屋に急いだ。

裏口を開けると、先にいたのは先輩ではなく、眩しいくらいの笑顔の本間さん。

「あれ?春斗くん、おはよ」

「あ、おはようございます」

「今日も来たんだ」

「……はい」

軽く頭を下げる俺を見て、ふっと笑う本間さん。

「真面目だねえ」

そう言って近づいてくる距離は、パーソナルスペースを軽く越えている。

「そんなに慎也と一緒にいたい?」

「……え」

それはそうだけど……この人、もしかしてめちゃくちゃ軽い?

「困ってる顔、かわいいね」

整った顔が覗き込むように俺を見てくる。さすがに一瞬ドキッとした。

でも、やっぱり軽い。
どうやって逃げるかーー

「なにしてんの、お前ら」

割り込んできた声に顔を上げると、先輩が眉を寄せて立っていた。

「あ、慎也、ごめんごめん」

軽く手を挙げて離れてく本間さんが続けた。

「いじめてないよ?」

「そういう問題じゃねえ」

呆れたように吐き捨てて、俺の方を見た。

「お前もさっさと昨日の続きやれ」

「は、はい!」

慌てて返事をして、シンクの前に急ぐ。

昨日の続きのたくさんの洗い物。

「なんか、昨日より少し増えてないか?」

でも実際、頭の中は、そんなこと気にならないくらい、別のことでいっぱいだ。
ーー今朝の夢。そして昼休み。

「……はあ」

手を動かしながら、ぼんやり考える。
そもそも。先輩との始まりは最初の夢。
存在すら知らないのに、いきなりキスして。

しかも、俺にとっては、あれがファーストキスだった。ーーだからこんなに気になるのか?
それとも、先輩だから?

「……でも、先輩は?」

先輩にとって俺は、キモイ雑用?
夢で見たときのように……誰かと、キス、したことあるのかな。

ーー気になる。
めちゃくちゃ気になる。

"「質問は一日ひとつにしろ」"

ふと、先輩の言葉が浮かぶ。
そうだ。今日は、まだなにも聞いてない。聞くしか、ない。

さっきまで山積みだった食器が、気づけば綺麗に片付いていた。

「お前、やっと終わったか」

「うわっ、先輩いつから!?」

「まあ、昨日よりはマシだな」

「……っありがとうございます」

突然現れた先輩に驚きながらも、片付いたことが素直に嬉しい。

「次回からは別の仕事回すから、覚悟しとけ」

そう言ってロッカールームに歩き出す先輩の背中を追いかけた。

着替えを終えて外に出ると、夜の空気が少しひんやりしていた。

「じゃ、次は四日後」

そう言ってさっさと帰ろうとする先輩。

「せ、先輩!」

とっさに呼び止めていた。
足を止めて、振り返る先輩の視線に怖気付いて言葉が出ない。

今聞かないと次は四日後になってしまう。

目の前には、怪訝そうに眉をひそめる先輩。

「……一緒に、帰りませんか?」

ーー俺、なんでこんなこと言った?
言った瞬間、盛大に後悔した。

固まったままの俺に、先輩が口を開いた。

「……は?」