夢でキスした先輩は、俺にだけ毒を吐く王子様。

「……はあ」

家に帰った途端、一気に力が抜けた。
そのままベッドに倒れ込みたくなる気持ちを抑え、先輩にもらった紙袋に視線を落とす。

キャラメル味を手に取って、一口かじった。

「……やっぱ、うまい」

ーーん?
口の中に甘さが広がったその奥に、ほんの少しだけ、キャラメルのほろ苦さ。
なのに、それが嫌じゃなくて、むしろクセになるこの感じ。

「……なんか……先輩じゃん」

誰にともなく呟いて、引き出しを開けて毛糸を取り出した。

王子様みたいな笑顔と、俺にだけ見せる、あの意地悪な顔。
どっちの先輩にも似合う色。
いくつか候補は上がっていたものの、正直どれもしっくりは来ていなかった。

ーーキャラメル色だ。

机の上に食べかけのドーナツと、キャラメル色の毛糸を並べて写真を撮った。
いつもなら少し考えるはずなのに、今日は迷わず、投稿ボタンを押していた。

そのまま先輩のトーク画面を開く。
メッセージ、何て送ろうか?
【明日よろしくお願いいたします】
ーーいや、硬い。
【ドーナツ美味しかったです】
ーー普通すぎる。
しばらく悩んだ末。
【ドーナツ、ありがとうございました】
それだけ打って送信ボタンを押した。
すぐに既読になったものの、返事は来ない。

メモ欄には、まだ"?"ばかりの質問が並んでいる。

「……明日は、なにを聞こうかな」
そんな事を考えながら、眠りに落ちた。

***

_____

「……っ」

唇が熱い。
触れている場所だけがじわじわと熱を持って、思考がまとまらない。

近すぎて顔ははっきり見えない。
でも、この触れ方、この空気ーー

「……せ…んぱい…」

名前を呼ぶとさらに深く触れてきて息ができない。なのに、離れたくない。

無意識に、先輩の服の裾を掴んだ。
ゆっくりと唇を離して、俺を見る先輩。

「……したいの?」

自分の意思では動くことができない俺は、無意識に頷く。そんな俺を見て、くすっと小さく笑う。

「ほんと、わかりやすいな。……来いよ」

引き寄せられるよりも先に、自分から腕をのばして、気づいた時には先輩の首にしがみついている。

「そんなに俺がいい?」

耳元で囁かれて、背中がぞくっと震えた。
すぐに、首筋に落ちるキス。

逃げようとした瞬間、さらに強く引き寄せられる。

「やめてって言われても、やめねえから」

視線がぶつかる。

「続き、するんだろ?」

再び、唇が触れかけた時ーー
____

「はっ!?また?」

ベッドから飛び起きて、周りを見渡す。
見慣れた天井。
ゆっくりと意識が現実に引き戻されていくと同時に、さっき見た夢の感覚が一気に押し寄せてきた。

あの日見た夢、しかもーー続き。

「……こんなこと、あるか?」

最初に見た先輩は、王子様だった。
なのに、さっきの夢は、

「いつもの先輩だった……」

俺にだけ毒を吐く、あの顔。
しかも、最初に夢を見た時は、まだ先輩の存在すら知らなかった。

「……なんで、繋がってんだ」

偶然で片付けるには、出来すぎてるだろ。
ーーなのに。
胸の奥に残ったのは、違和感よりもずっと強い熱だった。

頭の中に浮かぶのは、夢の中で見た先輩ばかりでーーあんなの見せられたら。

「ますます忘れられなくなるだろ……」