翌朝、学校へ向かう足取りは鉛のように重かった。
教室に入り、自分の席に座る。隣の席――佐伯君の椅子は、まだ空いている。
カバンの中で、スマホは沈黙したままだ。ブロックしたのだから、彼からの通知が来るはずもない。
「……おはよう、小夜さん」
低く、少し掠れた声。
顔を上げると、そこにはいつもの完璧な笑顔を消した、痛々しいほど真剣な表情の佐伯君が立っていた。
私は逃げるように立ち上がり、教室を飛び出した。
「待って、小夜さん!」
背後から走る音が追いかけてくる。
階段を駆け上がり、人目のない屋上へと続く踊り場で、ついに腕を掴まれた。
「離して……っ!お願い、佐伯君……もう放っておいて!」
「放っておけるわけないだろ!……君を傷つけたくて言ったんじゃないんだ」
彼は荒い息をつきながら、私の目を見つめた。
「ブロックされたのを見て、怖くなったんだ。……もう二度と、君の言葉に触れられないんだと思ったら、目の前が真っ暗になったんだ」
「嘘だよ……。あなたは、クラスの皆に好かれてて、あんなにキラキラしてて……。私なんかと繋がらなくたって、居場所なんていくらでもあるじゃない!」
私の叫びに、彼は力なく首を振った。
「……そんなの、全部偽物だよ。みんなが見ているのは、俺が作った『佐伯湊』だ。でも、夜ちゃん……君だけは、俺が誰にも言えなかった情けない本音を、ずっと隣で聞いてくれてた」
彼は掴んでいた手の力を少し緩め、今度は優しく私の指先を包み込んだ。
「学校での君は、確かに地味で目立たないかもしれない。でも、俺にとっては、誰よりも一生懸命で、誰よりも優しい女の子だ。……眼鏡を外した君が綺麗だったから好きになったんじゃない。俺がずっと恋をしていたのは、誰にも見えない場所で、俺のために泣いてくれた『君』なんだよ」
視界が、涙でぐちゃぐちゃに歪む。
スマホの画面越しにずっと欲しかった言葉が、今、目の前の彼の唇から、確かな熱を持って届けられる。
「……信じて、いいの………?」
「信じてほしい。……これからは、画面の中じゃなくて、ここで。……隣の席で、君の本当の名前を呼ばせてほしい。
彼はゆっくりと、私の眼鏡を外した。
ぼやけた視界の中で、彼の真っ直ぐな瞳だけが、私を捉えて離さなかった。
教室に入り、自分の席に座る。隣の席――佐伯君の椅子は、まだ空いている。
カバンの中で、スマホは沈黙したままだ。ブロックしたのだから、彼からの通知が来るはずもない。
「……おはよう、小夜さん」
低く、少し掠れた声。
顔を上げると、そこにはいつもの完璧な笑顔を消した、痛々しいほど真剣な表情の佐伯君が立っていた。
私は逃げるように立ち上がり、教室を飛び出した。
「待って、小夜さん!」
背後から走る音が追いかけてくる。
階段を駆け上がり、人目のない屋上へと続く踊り場で、ついに腕を掴まれた。
「離して……っ!お願い、佐伯君……もう放っておいて!」
「放っておけるわけないだろ!……君を傷つけたくて言ったんじゃないんだ」
彼は荒い息をつきながら、私の目を見つめた。
「ブロックされたのを見て、怖くなったんだ。……もう二度と、君の言葉に触れられないんだと思ったら、目の前が真っ暗になったんだ」
「嘘だよ……。あなたは、クラスの皆に好かれてて、あんなにキラキラしてて……。私なんかと繋がらなくたって、居場所なんていくらでもあるじゃない!」
私の叫びに、彼は力なく首を振った。
「……そんなの、全部偽物だよ。みんなが見ているのは、俺が作った『佐伯湊』だ。でも、夜ちゃん……君だけは、俺が誰にも言えなかった情けない本音を、ずっと隣で聞いてくれてた」
彼は掴んでいた手の力を少し緩め、今度は優しく私の指先を包み込んだ。
「学校での君は、確かに地味で目立たないかもしれない。でも、俺にとっては、誰よりも一生懸命で、誰よりも優しい女の子だ。……眼鏡を外した君が綺麗だったから好きになったんじゃない。俺がずっと恋をしていたのは、誰にも見えない場所で、俺のために泣いてくれた『君』なんだよ」
視界が、涙でぐちゃぐちゃに歪む。
スマホの画面越しにずっと欲しかった言葉が、今、目の前の彼の唇から、確かな熱を持って届けられる。
「……信じて、いいの………?」
「信じてほしい。……これからは、画面の中じゃなくて、ここで。……隣の席で、君の本当の名前を呼ばせてほしい。
彼はゆっくりと、私の眼鏡を外した。
ぼやけた視界の中で、彼の真っ直ぐな瞳だけが、私を捉えて離さなかった。

