一番遠い隣の席で、君と名前のない恋を綴る

教室を飛び出し、夜の道をがむしゃらに走った。
肺が焼けるように熱い。けれど、それ以上に胸の奥が、これまでの人生で一番ひどく痛んでいた。
(……どうして、佐伯君なの。どうして、私なの)
家に着くやいなや、私は部屋に鍵をかけ、暗闇の中でスマホを握りしめた。
画面には、まだminatoさん――佐伯君からのメッセージが残っている。
『君の本当の心を愛している』
その言葉が、今の私には鋭いナイフのように感じられた。
彼は眩しすぎる。そして、あまりにも優しすぎる。
あんなに完璧な彼が、クラスの隅で息を潜めている私を「愛おしい」なんて思うはずがない。それはきっと、彼が抱いている「夜」という幻想の続きでしかないのだ。
彼は知らない。私がどんなに醜い気持ちで、あの華やかな自撮りをアップしていたか。
「……こんなの、愛される資格なんてないよ」
私は設定画面を開き、アカウント削除のボタンに指をかけた。
でも。
これまでのやり取りを読み返すと、指がどうしても動かなかった。

初めて「おやすみ」を言い合った夜のこと。
辛かった部活の話を聞いて、一緒に怒ってくれたこと。
この何万文字もの記録は、私の人生で唯一、誰かと心を通わせた証だった。
「消せない……っ、消せるわけないよ………」
結局、私は削除ボタンを押せなかった。
代わりに、私はmiantoさんを……佐伯君を、ブロックした。
大好きな人を、自分の手で拒絶する。
彼の言葉が届かないように、私の声も彼に届かないように。
スマホを床に投げ出し、私は布団を被って震えた。
明日、学校に行けば、また「隣の席」に彼がいる。
でも、もう「夜」として彼に甘えることはできない。

私は彼に恋をしていた。
そして、その恋を、自分自身の弱さで殺してしまった。