三日ぶりに登校した私は、放課後の教室で一人、カバンを抱えて震えていた。
「……待って、小夜さん」
帰ろうとする私を呼び止めたのは、佐伯君だった。夕陽が差し込む教室はオレンジ色に染まり、二人の影を長く引き延ばしている。
「あの雨の日から、ずっと考えてた。……君が何を隠しているのか。俺に、何を言おうとしていたのか」
「……何も、隠してなんて………」
「嘘だ。小夜さんはいつも、俺と目を合わせない。でも、俺の言葉を一番近くで聞いてくれていたはずだ」
彼はゆっくりと私に近づき、自分のスマホを取り出した。
「俺には、大切な人がいる。顔も知らない、名前も知らない。でも、世界で一番、俺の心を救ってくれる『夜』っていう女の子だ」
心臓の音が耳の奥でうるさいほどに鳴り響く。私は首を横に振った。
「……知りません。そんな人、私には関係……っ」
「関係あるかないか、今から確かめる」
佐伯君が、画面をタップした。
「今から、夜ちゃんにメッセージを送るよ」
その瞬間。
私のカバンの中で、『ピコン』と、電子音が静まり返った教室に高く響き渡った。
空気が凍り付く。
私は反射的にカバンを抱きしめたが、もう遅かった。彼は、悲鳴を上げたくなるほど優しい目で、私を見つめていた。
「………やっぱり、君だったんだね」
私のスマホが、カバンの中で二度、三度と震える。
『やっと見つけた』
『隠れなくていいよ』
『会いたかった、小夜さん』
画面は見なくても分かった。minatoさんから届く、優しすぎる愛の言葉。
私は逃げ場を失い、崩れ落ちるようにその場に座り込んだ。分厚い眼鏡の奥から、こらえていた涙が溢れ出す。
「……嫌だ。見ないで………」
「小夜さん」
「……こんなの、夜ちゃんじゃない。私は、地味で、暗くて、嘘つきな小夜なのに……っ。minatoさんが好きなのは、可愛くメイクされた『夜』でしょう……⁉」
叫んだ私の手を、彼が温かく包み込んだ。
その手は、画面越しに欲しくてたまらなかった、本物のminatoさんの温度だった。
「違うよ。俺が惹かれたのは、画面の中の君じゃない。……その嘘をついてまで、必死に誰かとつながりたいと願った、君の本当の心なんだ」
夕暮れの教室で、私たちの「名前のない恋」は、残酷なほど鮮やかに暴かれた。
けれどそれは、嘘が終わるための、唯一の始まりでもあった。
「……待って、小夜さん」
帰ろうとする私を呼び止めたのは、佐伯君だった。夕陽が差し込む教室はオレンジ色に染まり、二人の影を長く引き延ばしている。
「あの雨の日から、ずっと考えてた。……君が何を隠しているのか。俺に、何を言おうとしていたのか」
「……何も、隠してなんて………」
「嘘だ。小夜さんはいつも、俺と目を合わせない。でも、俺の言葉を一番近くで聞いてくれていたはずだ」
彼はゆっくりと私に近づき、自分のスマホを取り出した。
「俺には、大切な人がいる。顔も知らない、名前も知らない。でも、世界で一番、俺の心を救ってくれる『夜』っていう女の子だ」
心臓の音が耳の奥でうるさいほどに鳴り響く。私は首を横に振った。
「……知りません。そんな人、私には関係……っ」
「関係あるかないか、今から確かめる」
佐伯君が、画面をタップした。
「今から、夜ちゃんにメッセージを送るよ」
その瞬間。
私のカバンの中で、『ピコン』と、電子音が静まり返った教室に高く響き渡った。
空気が凍り付く。
私は反射的にカバンを抱きしめたが、もう遅かった。彼は、悲鳴を上げたくなるほど優しい目で、私を見つめていた。
「………やっぱり、君だったんだね」
私のスマホが、カバンの中で二度、三度と震える。
『やっと見つけた』
『隠れなくていいよ』
『会いたかった、小夜さん』
画面は見なくても分かった。minatoさんから届く、優しすぎる愛の言葉。
私は逃げ場を失い、崩れ落ちるようにその場に座り込んだ。分厚い眼鏡の奥から、こらえていた涙が溢れ出す。
「……嫌だ。見ないで………」
「小夜さん」
「……こんなの、夜ちゃんじゃない。私は、地味で、暗くて、嘘つきな小夜なのに……っ。minatoさんが好きなのは、可愛くメイクされた『夜』でしょう……⁉」
叫んだ私の手を、彼が温かく包み込んだ。
その手は、画面越しに欲しくてたまらなかった、本物のminatoさんの温度だった。
「違うよ。俺が惹かれたのは、画面の中の君じゃない。……その嘘をついてまで、必死に誰かとつながりたいと願った、君の本当の心なんだ」
夕暮れの教室で、私たちの「名前のない恋」は、残酷なほど鮮やかに暴かれた。
けれどそれは、嘘が終わるための、唯一の始まりでもあった。

