一番遠い隣の席で、君と名前のない恋を綴る

翌日、私は熱を出して学校を休んだ。
雨に濡れたせいか、それとも素顔を見られたショックのせいか、自分でも分からない。
ベッドの中でスマホを見つめると、minatoさんから昨夜の返信が届いていた。

minato:『見られたくない姿って、どんな姿?俺は、夜ちゃんがどんな状態でも嫌いになったりしないよ。・・・・・ねえ、本当の君を、少しだけ僕に教えてくれないかな』

その言葉に、心臓が痛いほど脈打つ。
いつも通りの優しい言葉。でも、どこか探るような、切実な響きが混じっている気がした。
一方、学校のアドレスには、佐伯君から短いメールが届いていた。
『昨日はごめん。風邪、引いてない?………また、話せたら嬉しい』
私はスマホを伏せた。
佐伯君は、雨の中で一瞬だけ見えた私の顔を見て、何を思ったのだろう。幻滅しただろうか。それとも、気持ち悪いと思っただろうか。
夜になり、熱に浮かされる頭で、私はmiantoさんにメッセージを送った。自分でも気づかないうちに、本音が溢れ出していた。

夜:『私は、あなたが思っているような綺麗な女の子じゃないんです。ずっと嘘をついて、自分を隠して……。本当の私は、暗くて、臆病で、誰にも愛されないような人間なんです』

すぐに既読が付く。返信は、これまでにないほど長文だった。

minato:『もし、その「暗くて臆病な自分」が、いつも俺の隣で必死に頑張っている子だとしたら?俺は、その子が隠している顔も、震えている声も、全部愛おしいと思うよ。……夜ちゃん。君は今、泣いてない?』

息が止まった。
「隣で頑張っている子」。
その言葉は、あまりにも具体的で、あまりにも今の状況と重なりすぎていた。
(まさか………)
怖くなって、私はスマホの電源を切った。
miantoさんが、佐伯君だなんて。そんなはず、ない。あってはいけない。
もしそれが本当なら、私は彼に、何重もの嘘をつき続けていたことになる。

暗闇の中で、私は声を殺して泣いた。
minatoさんに恋をしていたはずなのに、その正体が佐伯君かもしれないと予感した瞬間、私は彼を失う恐怖に飲み込まれてしまった。
嘘で塗り固めた「夜」と、何もない「小夜」。
どちらも本当の私なのに、どちらの私も、もう彼の前には立てそうになかった。