放課後、空は予報になかった鈍色の雲に覆われ、激しい夕立がアスファルトを叩き始めた。
「……どうしよう」
校門の軒下、私は途方に暮れていた。傘を忘れ、バス停まで走る勇気もない。眼鏡が雨粒で曇れば、私の視界は完全に閉ざされていしまう。
「小夜さん?傘、持ってないの?」
心臓が跳ねる。横に立っていたのは、紺色の大きな傘を広げた佐伯君だった。
「……あ、……はい」
「バス停まででしょ?入んなよ、送るよ」
「えっ、でも……」
「いいから、風邪ひくよ」
強引に腕をひかれ、私は彼の傘の中に招き入れられた。
狭い傘の下。肩が触れ合うほどの距離。彼の体温と、雨の匂いが混ざり合って、意識が遠のきそうになる。
一歩踏み出すたび、彼との歩幅を合わせることに必死だった。
「小夜さんって、いつも何考えてるか分かんないけど……時々、切ない顔するよね」
不意に投げかけられた言葉に、息が止まった。
「……そんなこと………」
「今もそう。……俺、そんなに怖い?」
彼は少し足を止め、覗き込むように私を見た。その真っ直ぐな瞳が、私の眼鏡の奥を射抜こうとする。
「怖く、ないです。……ただ、私が、…変だから……」
その時、強い風が吹き抜けた。
不意を突かれた私の手からカバンが滑り落ちそうになり、慌てて抑えようとした拍子に、マスクの紐が耳から外れた。
「あ――」
白い布が、雨風に煽られて地面へ落ちる。
隠していた顔が、生々しい空気の中に晒された。
私は反射的に両手で顔を覆い、うつむいた。眼鏡も少しずれて、私の視界はめちゃくちゃだ。
「……小夜、さん?」
彼の声が、どこか震えているように聞こえた。
最悪だ。見られた。こんな、地味で、おどおどして、必死に自分を守ろうとしている無様な素顔を。
「ごめんなさい……っ!」
私は落ちたマスクを拾うことも忘れ、雨の中へ飛び出した。
背後で佐伯君が何かを叫んでいたけれど、雨音にかき消されて聞こえない。
ずぶ濡れになって家に帰り、震える手でスマホを開く。
涙で滲む画面に、miantoさんへ向けた言葉を綴った。
夜:『今日、大切な人に見られたくない姿を見られてしまいました。もう、二度と学校に行けないかもしれません』
雨音だけが響く部屋で、私は膝を抱えて震えていた。
隣の席にいたのは、優しすぎる佐伯君。
でも、私が今すぐ抱きしめてほしいのは、顔も知らないmiantoさんだった。
「……どうしよう」
校門の軒下、私は途方に暮れていた。傘を忘れ、バス停まで走る勇気もない。眼鏡が雨粒で曇れば、私の視界は完全に閉ざされていしまう。
「小夜さん?傘、持ってないの?」
心臓が跳ねる。横に立っていたのは、紺色の大きな傘を広げた佐伯君だった。
「……あ、……はい」
「バス停まででしょ?入んなよ、送るよ」
「えっ、でも……」
「いいから、風邪ひくよ」
強引に腕をひかれ、私は彼の傘の中に招き入れられた。
狭い傘の下。肩が触れ合うほどの距離。彼の体温と、雨の匂いが混ざり合って、意識が遠のきそうになる。
一歩踏み出すたび、彼との歩幅を合わせることに必死だった。
「小夜さんって、いつも何考えてるか分かんないけど……時々、切ない顔するよね」
不意に投げかけられた言葉に、息が止まった。
「……そんなこと………」
「今もそう。……俺、そんなに怖い?」
彼は少し足を止め、覗き込むように私を見た。その真っ直ぐな瞳が、私の眼鏡の奥を射抜こうとする。
「怖く、ないです。……ただ、私が、…変だから……」
その時、強い風が吹き抜けた。
不意を突かれた私の手からカバンが滑り落ちそうになり、慌てて抑えようとした拍子に、マスクの紐が耳から外れた。
「あ――」
白い布が、雨風に煽られて地面へ落ちる。
隠していた顔が、生々しい空気の中に晒された。
私は反射的に両手で顔を覆い、うつむいた。眼鏡も少しずれて、私の視界はめちゃくちゃだ。
「……小夜、さん?」
彼の声が、どこか震えているように聞こえた。
最悪だ。見られた。こんな、地味で、おどおどして、必死に自分を守ろうとしている無様な素顔を。
「ごめんなさい……っ!」
私は落ちたマスクを拾うことも忘れ、雨の中へ飛び出した。
背後で佐伯君が何かを叫んでいたけれど、雨音にかき消されて聞こえない。
ずぶ濡れになって家に帰り、震える手でスマホを開く。
涙で滲む画面に、miantoさんへ向けた言葉を綴った。
夜:『今日、大切な人に見られたくない姿を見られてしまいました。もう、二度と学校に行けないかもしれません』
雨音だけが響く部屋で、私は膝を抱えて震えていた。
隣の席にいたのは、優しすぎる佐伯君。
でも、私が今すぐ抱きしめてほしいのは、顔も知らないmiantoさんだった。

