「佐伯、次の試合も頼むぞ!」
「おう、任せとけって」
放課後のグラウンドに、仲間の威勢のいい声が響く。俺はいつものように笑って答える。それが「佐伯湊」という人間に期待されている役割だと知っているから。期待に応えるのは得意だ。明るくて、運動ができて、誰にでも優しい、そんな「完璧な僕」の仮面は、いつの間にか顔に張り付いて剥がれなくなっていた。
でも、本当の俺は、もっとずっと暗くて、臆病だ。
そんな自分を唯一さらけ出せるのが、フォロワーの少ないこのアカウント。そして、ここで出会った『夜』ちゃんという女の子だった。
夜帰宅し、部屋の明かりを消してベッドに潜り込む。スマホの眩しい光だけが、今の本当の居場所だ。
minato:『今日、図書室で勇気を出して話しかけてみたんだ。……でも、やっぱりあの子、俺の前だとすごく縮こまっちゃうんだよね』
書き込んでから、ふと自嘲気味に笑う。
図書室で見た、隣の席の小夜さん。
分厚い眼鏡とマスクで顔を隠し、震える声で道案内をしてくれた彼女。
俺が近づくと、彼女はいつも怯えたように視線を逸らす。それがなんだか、たまらなく寂しい。
ピコン、と夜ちゃんから返信が来る。
夜:『minatoさんは眩しすぎるから、その子は自分と比べて、怖くなっちゃうのかもしれませんね』
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。
夜ちゃんは、どうしてこんなに俺の核心を突くんだろう。
俺が欲しかったのは「眩しい」と崇められることじゃない。この「眩しさ」の陰に隠れた、情けない自分を見つけてほしかった。
minato:『夜ちゃんは、俺のことを眩しいなんて言わないで、こうして同じ目線で話してくれる。……正直、最近は画面の中の君に会うことだけが楽しみなんだ』
これは本音だ。
学校で大勢に囲まれている時よりも、たった一人、顔を知らない夜ちゃんと文字を交わしている時の方が、俺は自由になれる。
ふと、小夜さんのことを思い出す。
彼女ももし、夜ちゃんのように本当の自分を隠してどこかで息をしているのなら、俺はそれを見つけてあげたい。……なんて、柄にもないことを考える。
「……会いたいな、夜ちゃん」
独り言が暗闇に溶ける。
スマホ越しの彼女は、俺が一番欲しい言葉をくれる、宇宙でたった一人の理解者。
けれど、俺はまだ気づいていない。
俺が恋い焦がれているその「夜」が、明日の朝、一番遠い隣の席で、また怯えたようにうつむいていることを。
「おう、任せとけって」
放課後のグラウンドに、仲間の威勢のいい声が響く。俺はいつものように笑って答える。それが「佐伯湊」という人間に期待されている役割だと知っているから。期待に応えるのは得意だ。明るくて、運動ができて、誰にでも優しい、そんな「完璧な僕」の仮面は、いつの間にか顔に張り付いて剥がれなくなっていた。
でも、本当の俺は、もっとずっと暗くて、臆病だ。
そんな自分を唯一さらけ出せるのが、フォロワーの少ないこのアカウント。そして、ここで出会った『夜』ちゃんという女の子だった。
夜帰宅し、部屋の明かりを消してベッドに潜り込む。スマホの眩しい光だけが、今の本当の居場所だ。
minato:『今日、図書室で勇気を出して話しかけてみたんだ。……でも、やっぱりあの子、俺の前だとすごく縮こまっちゃうんだよね』
書き込んでから、ふと自嘲気味に笑う。
図書室で見た、隣の席の小夜さん。
分厚い眼鏡とマスクで顔を隠し、震える声で道案内をしてくれた彼女。
俺が近づくと、彼女はいつも怯えたように視線を逸らす。それがなんだか、たまらなく寂しい。
ピコン、と夜ちゃんから返信が来る。
夜:『minatoさんは眩しすぎるから、その子は自分と比べて、怖くなっちゃうのかもしれませんね』
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。
夜ちゃんは、どうしてこんなに俺の核心を突くんだろう。
俺が欲しかったのは「眩しい」と崇められることじゃない。この「眩しさ」の陰に隠れた、情けない自分を見つけてほしかった。
minato:『夜ちゃんは、俺のことを眩しいなんて言わないで、こうして同じ目線で話してくれる。……正直、最近は画面の中の君に会うことだけが楽しみなんだ』
これは本音だ。
学校で大勢に囲まれている時よりも、たった一人、顔を知らない夜ちゃんと文字を交わしている時の方が、俺は自由になれる。
ふと、小夜さんのことを思い出す。
彼女ももし、夜ちゃんのように本当の自分を隠してどこかで息をしているのなら、俺はそれを見つけてあげたい。……なんて、柄にもないことを考える。
「……会いたいな、夜ちゃん」
独り言が暗闇に溶ける。
スマホ越しの彼女は、俺が一番欲しい言葉をくれる、宇宙でたった一人の理解者。
けれど、俺はまだ気づいていない。
俺が恋い焦がれているその「夜」が、明日の朝、一番遠い隣の席で、また怯えたようにうつむいていることを。

