一番遠い隣の席で、君と名前のない恋を綴る

あれから数年が経ち、私たちは大学生になった。

夕暮れのカフェ。私は窓際の席で、ノートパソコンを開きながら彼を待っていた。
今の私は、もう分厚い眼鏡もマスクも必要ない。自分に似合うメイクを知り、背筋を伸ばして歩けるようになった。けれど、あの頃の『地味な小夜』も、私を形作る大切な一部として、今も胸の中で静かに息づいている。

「ごめん、待った?」

聞き慣れた、心地いい声。
顔を上げると、そこには少し大人びた表情の湊君がいた。
彼は私の向かいに座ると、当然のように私の手を机の上で握りしめた。
「何見てたの?……あ、これ、昨日アップしたやつだ」
彼が画面を覗き込んだスマホの画面には、あの日からずっと大切に使い続けているSNSのアカウントがあった。
かつては『嘘の自分』を投稿していたその場所は、今、まったく違う色で溢れている。

昨日、二人で海へ行った時の写真。
夕日をバックに、湊君が私の肩を抱いて笑っている。
そこにはもう、加工フィルターも、顔を隠すための計算された角度も必要ない。

『ずっと欲しかった光の中に、今、大好きな人と一緒にいます』

そんな短い言葉を添えてアップした写真には、当時のフォロワーさんたちから「本当の幸せを見つけたんだね」「おめでとう」と温かいコメントが届いていた。

「このアカウント、消さなくて本当に良かった」
「うん。……今はもう、誰にも隠す必要もないもんね」

湊君は嬉しそうに笑って、私のスマホを操作し始めた。
「ほら、今の二人も撮ろうよ。……次は『美味しいラテと、世界で一番可愛い彼女』ってタイトルで登校しなきゃ」
「ちょっと、恥ずかしいよ……っ!」

赤くなる私を構わず、彼は器用に自撮りのシャッターを切った。
画面の中で重なり合う二人の笑顔は、あの頃、暗闇の中で怯えていた私たちが一番憧れていた姿そのものだった。

かつて孤独を埋めるための場所だった『夜』は、今、二人で歩毎日を刻む、眩しいアルバムへと変わっていた。

嘘つきだったあの頃の私に、伝えたい。
大丈夫。あなたの『夜』は、こんなに温かな朝に繋がっているから。