──今まで僕のことを愛してくれる人なんていなかった。みんな僕のこと嫌っては暴力を振るってくる。毎日乱雑に扱われて嫌な目にしか合わなかった。最終的には、お文が僕のことを助けてくれた。
「酷いことをしますね…。あなたをこの檻から助けてあげます。ですので私と行きませんか?」
最初に会ったお文は少し寂しげでいつも人生に疲れているような雰囲気をしていた。その後気づいたことだが、お文は幽霊らしい。だから僕と話せるのか。
そしてお文と共にいつ終わるかも分からないこの長い時間を過ごすことにした。
年月が経ったある日、二人で一つの墓地を通りかかった。その日はいつもと同じだったのにお文が人間と話しているところを見かけた。
それまでずっと一緒に歩いていたが、僕の身長が低いせいかお文と距離が空いてしまったのだ。
二人の話に聞き耳を立てるとその男の名は蛍と言う。
その日は何やらイチャイチャとして話を終えた。男が去ってからはお文の表情は柔らかくなって照れているようにも思える。
一体何があったんだ。と呆れて男の話をしなかった。
その後は何度か蛍が墓地に通って話す日々が続いた。
「蛍くんの友達に"東"という者がいます。蛍くんもその者を信用しているらしいです。ですので紹介してもいいですか?」
どうせまた嫌われるだけ…。
だが今思った言葉はなぜか分からないが自分の意志に否定された。
──紹介してほしい。
その言葉に少し驚いた表情をしていたが、すぐその表情をやめた。
「分かりました。あなたがそうおっしゃるのであれば…」
その後、お文は蛍と交渉をして、東という少年のいる病院と病室を教えてくれた。
「東は、南弱町の病院の…」
あっさりと答えるということはある程度蛍はお文を信用しているのだろう。会って短いのに他の人の情報を教えられるのは、蛍が単純なのか、お文を好きなのか…。
僕はずっと見てきたが多分、後者だ。
「では、明日は私と一緒に行きましょう」
心の中では、会いたい。会うべきだ。とずっと考えている。
そして、翌日の昼頃だろうか、日も真上に行ったとき、お文に触れている間は、意識しない限り人間には見ることができない。
「ここ…ですね。準備は良いですか?」
僕は首を縦に振ってサインを出した。
コンコン。
優しく微かに寂しさを帯びた音が扉の向こうで響いた。
「東さんですか? 蛍くんの友達でお文と申します。入ってもよろしいでしょうか?」
その後は、東くんも僕を欲しいと言ってくれた。そして僕のことを嫌うでも暴力を振るうのではなく僕を愛してくれた。そんな東くんが大好き。
「空くんかわいい!」
少し冷えてきて毛布で暖を取る僕たち。そこで毛布に包みながら東くんはいつも甘い言葉を囁いてくれた。その甘い言葉はいつもまっすぐで僕の心に響いてくる。
僕も好きだよ。
そう答えたいのに答えられない。僕はぬいぐるみだし話せない。でも思うことはできる。だって僕は…。
"空虚の霊人形"
昔の僕を知っている人は僕をそう呼ぶ。僕を持つ者は呪われて死ぬだろう。いつもそう噂されてきた。しかし、僕はそんなことをしていない。厳密に言えば、呪ってはいる。
だが条件がある。
それは僕を愛さなかった者、僕を貶した者、危害を加えた者。要は僕を大切にしなかった者は呪われる。
酷いでしょ?僕ってこんなにかわいいのに…。でもいいんだ。今はお文が紹介してくれた東くんがいる。僕は誓ったの。この人だけを愛そうと。今はそれだけでいい。
でも東くんは重い病を患わっている。名前は一度聞いたことがあるが、現代の言葉は漢字並びがごちゃごちゃしてよくわからなかった。
「…ごほっ…かはっ……」
大丈夫?! 東くん!?
東くんはいつも誰もいないところでこうやって咳をする。いつも心配になるが助けることも話しかけることもできない。いや……助けることはできる。だけど、お文にもダメって言われたこと。でも、僕の好きな人が大変な目に合っているのに…。
「空虚の霊人形さん。いいですか?あなたの能力は相手を助けますが、その代償はあなた自身に返ってくるのです。その能力は使わないようにしてください」
思い人との身代わり人形。
この能力で東くんを助けられる。僕は長く生きた。だからもういいの。愛してくれる人を助けるのはお返し。もう話せなくなる、愛せなくなるけどいいの。僕を考えて愛してくれたその一瞬が嬉しいの。今まで愛してくれた人なんか一人もいなかった。だからこそ…この思いがあるから助けたい。
もう余命宣告をされているって聞いたから今すぐに…。
確か宣告された日が一か月後って言っていたから、もうあと三週間くらいしかない。
──なんとかして東くんの病気を無くしたい。もう長くない人生を少しでも東くんに渡したい。
「最近、空くんが痛んできちゃった…。大丈夫?」
濡れたタオルで優しく汚れた箇所を拭いてくれる。そのタオルは冷たいはずなのに暖かさを帯びている。まるで抱擁されているように。
この優しさにずっと覆われていたい。この願いが叶うことはもうないけど……。
病室には寒く、薄暗い影が僕らに絡みつく。鬱陶しいと思うのではなく、その影の侵入を許してしまう。
段々と汚れが取れていくにつれて僕らの距離は少しずつ置かれて行ってしまう。
東くんは気づいていないようだが確実に。東くんの重い鎖は全部を僕に頂戴。もう一度、病院の外に出て自由に歩けるようになるまで…。
「最近、病気の症状も減って外に出てもいいかもね」
「…そうですか。ありがとうございます」
東くんは日に日に悲しげになっていた。僕はきちんと病気と寿命を交換しているのにどうしてだろう。
やっぱり僕だけが肩代わりするのは難しいのかな。
「そんなことはないですよ」
今、病室には僕と…お文の二人。
「でも、東くん疲れている! やっぱり…」
「いいえ、東さんの病気とあなたの寿命は交換されています。しかし東さんは多分ここを離れるのが嫌なのでしょう」
「嫌ってどういうこと?」
「そのままの意味で人間には最低限、生活しなければならない時間があります。例えば今後東さんは働かなければならないのです」
そっか。働けば僕とも一緒にいる時間が減ってしまう。だから…。
僕は消えるからその後のこと考えていなかった。
「しかし病気があれば、このまま死にます」
「それは嫌だ‼」
「では、今のままがいいでしょう。心が揺らいでも意志は曲げないでください。あなたは昔からそういう人ですよね」
「うん…。ありがと‼」
ガラガラッ。
「あれ、お文さんどうしたんですか?」
きょとんとした顔で東がお文に駆け寄る。
「久しぶりにくう…いや、空くんを見に来ただけです。もう済みましたので、ありがとうございました」
「あ、はーい! またね‼」
「えぇ、また会える日を…」
そのまま悲しげに病室を去っていく。その姿は僕の死を察してなのか、東くんの気持ちに同情しているのか僕には分からない。少なくともお文は気にかけてくれたと思う。
「そうだ‼ 空くんあのね…」
言葉が波のように止まることを知らず口が動く。かけがえのない時間、そう今のような時間が続けばどれだけ嬉しく心喜ぶだろう。
もうこの体が無くなっても君を見ていたい。
朝日が窓を介して、夜のせいで冷たく悲しみに満ちたベッドを生温く溶かす。
「んぅ、おはよう」
眠気を押し切って体を持ち上げ、横にいるはずの空に話しかける。しかし、そこに空の姿はない。あるとするならば、灰のようなごく小さな粒が山盛りになった”何か”が静かに存在した。
「空くん!?」
気づいたときにはそう叫んで灰を手ですくっていた。
しかし咄嗟に感じたことはこの灰たちは空くんだと言うこと。
「…空くん、どうして」
灰は持ち上げられた手の平の数々の小さな隙間から垂れていく。無意識に顔の近くに持ってきたせいで、懐かしくも悲しく優しい香りが鼻にまとわりつく。
「空くん…」
名呼びながら、思いに浸っているとドアから一人の声が聞こえてきた。
「東さん、お文です。入ってもよろしいでしょうか」
本来の僕ならば、嫌だと拒んでいたかもしれない。しかし、相手がお文だったからなのか今の状況を受け入れられなかったのか分からないが、「…いいよ」と悲しみを帯びて伝えた。
「逝ったのですか。空虚の霊人形さんは」
悲しげと分かっていたように言うお文に少し怒りを芽生えながら、空くんだったものに目線を向ける。
「くうきょのれいにんぎょう・・・そっか、空くんの本当の名前か」
「えぇ、しかし東さんがつけた”空”は気に入っていたと思いますよ」
お文の言葉は、慰めというより事実を申しているようで、先ほどの苛立ちと共に僕の涙へと変化していった。
「そうですか…」
僕の中には後悔よりも感謝と大切なものを失ってしまった絶望が混合してもう何なのか分からなくなってきた。
瞬間に、心の奥から涙がお見上げ、咽び泣てしまう。
「東さん、後悔は決してしてはいけません。空虚の霊人形さんは、あなたに後悔をしてほしくてこのような行動に出たわけではないです。あなたに生きて欲しい。僕の分まで生きて欲しい。と考えているのです。ですので、あなたはこれから前を向いて生きてください。空くんが望んだように」
語るように話すお文の言葉が心に響く。
「…そうですね。わかりました」
病室から忘れ去られた朝日を再び黙視し、天を仰ぐ。
そこには、いないはずの空くんが見えたような気がした。
──ありがとう空くん。僕はずっと空くんが好きで一生思い続けるよ。そこで待っててね。
今だけは、近くに空くんがいて抱きしめてくれているように体が暖かく感じる。周りを見渡せばお文はおらず多分、空くんと僕だけの世界。ずっとこの時間が続けばいいのに時間はそれを許さない。でも空くんの思いを無下にはしたくない。
だからこの健全な身体を大切にして、人生を謳歌する。それが今の目標であり、空くんとの新たな約束だと思う。
僕の愛している君へ。
いつかまた会おうね。
「酷いことをしますね…。あなたをこの檻から助けてあげます。ですので私と行きませんか?」
最初に会ったお文は少し寂しげでいつも人生に疲れているような雰囲気をしていた。その後気づいたことだが、お文は幽霊らしい。だから僕と話せるのか。
そしてお文と共にいつ終わるかも分からないこの長い時間を過ごすことにした。
年月が経ったある日、二人で一つの墓地を通りかかった。その日はいつもと同じだったのにお文が人間と話しているところを見かけた。
それまでずっと一緒に歩いていたが、僕の身長が低いせいかお文と距離が空いてしまったのだ。
二人の話に聞き耳を立てるとその男の名は蛍と言う。
その日は何やらイチャイチャとして話を終えた。男が去ってからはお文の表情は柔らかくなって照れているようにも思える。
一体何があったんだ。と呆れて男の話をしなかった。
その後は何度か蛍が墓地に通って話す日々が続いた。
「蛍くんの友達に"東"という者がいます。蛍くんもその者を信用しているらしいです。ですので紹介してもいいですか?」
どうせまた嫌われるだけ…。
だが今思った言葉はなぜか分からないが自分の意志に否定された。
──紹介してほしい。
その言葉に少し驚いた表情をしていたが、すぐその表情をやめた。
「分かりました。あなたがそうおっしゃるのであれば…」
その後、お文は蛍と交渉をして、東という少年のいる病院と病室を教えてくれた。
「東は、南弱町の病院の…」
あっさりと答えるということはある程度蛍はお文を信用しているのだろう。会って短いのに他の人の情報を教えられるのは、蛍が単純なのか、お文を好きなのか…。
僕はずっと見てきたが多分、後者だ。
「では、明日は私と一緒に行きましょう」
心の中では、会いたい。会うべきだ。とずっと考えている。
そして、翌日の昼頃だろうか、日も真上に行ったとき、お文に触れている間は、意識しない限り人間には見ることができない。
「ここ…ですね。準備は良いですか?」
僕は首を縦に振ってサインを出した。
コンコン。
優しく微かに寂しさを帯びた音が扉の向こうで響いた。
「東さんですか? 蛍くんの友達でお文と申します。入ってもよろしいでしょうか?」
その後は、東くんも僕を欲しいと言ってくれた。そして僕のことを嫌うでも暴力を振るうのではなく僕を愛してくれた。そんな東くんが大好き。
「空くんかわいい!」
少し冷えてきて毛布で暖を取る僕たち。そこで毛布に包みながら東くんはいつも甘い言葉を囁いてくれた。その甘い言葉はいつもまっすぐで僕の心に響いてくる。
僕も好きだよ。
そう答えたいのに答えられない。僕はぬいぐるみだし話せない。でも思うことはできる。だって僕は…。
"空虚の霊人形"
昔の僕を知っている人は僕をそう呼ぶ。僕を持つ者は呪われて死ぬだろう。いつもそう噂されてきた。しかし、僕はそんなことをしていない。厳密に言えば、呪ってはいる。
だが条件がある。
それは僕を愛さなかった者、僕を貶した者、危害を加えた者。要は僕を大切にしなかった者は呪われる。
酷いでしょ?僕ってこんなにかわいいのに…。でもいいんだ。今はお文が紹介してくれた東くんがいる。僕は誓ったの。この人だけを愛そうと。今はそれだけでいい。
でも東くんは重い病を患わっている。名前は一度聞いたことがあるが、現代の言葉は漢字並びがごちゃごちゃしてよくわからなかった。
「…ごほっ…かはっ……」
大丈夫?! 東くん!?
東くんはいつも誰もいないところでこうやって咳をする。いつも心配になるが助けることも話しかけることもできない。いや……助けることはできる。だけど、お文にもダメって言われたこと。でも、僕の好きな人が大変な目に合っているのに…。
「空虚の霊人形さん。いいですか?あなたの能力は相手を助けますが、その代償はあなた自身に返ってくるのです。その能力は使わないようにしてください」
思い人との身代わり人形。
この能力で東くんを助けられる。僕は長く生きた。だからもういいの。愛してくれる人を助けるのはお返し。もう話せなくなる、愛せなくなるけどいいの。僕を考えて愛してくれたその一瞬が嬉しいの。今まで愛してくれた人なんか一人もいなかった。だからこそ…この思いがあるから助けたい。
もう余命宣告をされているって聞いたから今すぐに…。
確か宣告された日が一か月後って言っていたから、もうあと三週間くらいしかない。
──なんとかして東くんの病気を無くしたい。もう長くない人生を少しでも東くんに渡したい。
「最近、空くんが痛んできちゃった…。大丈夫?」
濡れたタオルで優しく汚れた箇所を拭いてくれる。そのタオルは冷たいはずなのに暖かさを帯びている。まるで抱擁されているように。
この優しさにずっと覆われていたい。この願いが叶うことはもうないけど……。
病室には寒く、薄暗い影が僕らに絡みつく。鬱陶しいと思うのではなく、その影の侵入を許してしまう。
段々と汚れが取れていくにつれて僕らの距離は少しずつ置かれて行ってしまう。
東くんは気づいていないようだが確実に。東くんの重い鎖は全部を僕に頂戴。もう一度、病院の外に出て自由に歩けるようになるまで…。
「最近、病気の症状も減って外に出てもいいかもね」
「…そうですか。ありがとうございます」
東くんは日に日に悲しげになっていた。僕はきちんと病気と寿命を交換しているのにどうしてだろう。
やっぱり僕だけが肩代わりするのは難しいのかな。
「そんなことはないですよ」
今、病室には僕と…お文の二人。
「でも、東くん疲れている! やっぱり…」
「いいえ、東さんの病気とあなたの寿命は交換されています。しかし東さんは多分ここを離れるのが嫌なのでしょう」
「嫌ってどういうこと?」
「そのままの意味で人間には最低限、生活しなければならない時間があります。例えば今後東さんは働かなければならないのです」
そっか。働けば僕とも一緒にいる時間が減ってしまう。だから…。
僕は消えるからその後のこと考えていなかった。
「しかし病気があれば、このまま死にます」
「それは嫌だ‼」
「では、今のままがいいでしょう。心が揺らいでも意志は曲げないでください。あなたは昔からそういう人ですよね」
「うん…。ありがと‼」
ガラガラッ。
「あれ、お文さんどうしたんですか?」
きょとんとした顔で東がお文に駆け寄る。
「久しぶりにくう…いや、空くんを見に来ただけです。もう済みましたので、ありがとうございました」
「あ、はーい! またね‼」
「えぇ、また会える日を…」
そのまま悲しげに病室を去っていく。その姿は僕の死を察してなのか、東くんの気持ちに同情しているのか僕には分からない。少なくともお文は気にかけてくれたと思う。
「そうだ‼ 空くんあのね…」
言葉が波のように止まることを知らず口が動く。かけがえのない時間、そう今のような時間が続けばどれだけ嬉しく心喜ぶだろう。
もうこの体が無くなっても君を見ていたい。
朝日が窓を介して、夜のせいで冷たく悲しみに満ちたベッドを生温く溶かす。
「んぅ、おはよう」
眠気を押し切って体を持ち上げ、横にいるはずの空に話しかける。しかし、そこに空の姿はない。あるとするならば、灰のようなごく小さな粒が山盛りになった”何か”が静かに存在した。
「空くん!?」
気づいたときにはそう叫んで灰を手ですくっていた。
しかし咄嗟に感じたことはこの灰たちは空くんだと言うこと。
「…空くん、どうして」
灰は持ち上げられた手の平の数々の小さな隙間から垂れていく。無意識に顔の近くに持ってきたせいで、懐かしくも悲しく優しい香りが鼻にまとわりつく。
「空くん…」
名呼びながら、思いに浸っているとドアから一人の声が聞こえてきた。
「東さん、お文です。入ってもよろしいでしょうか」
本来の僕ならば、嫌だと拒んでいたかもしれない。しかし、相手がお文だったからなのか今の状況を受け入れられなかったのか分からないが、「…いいよ」と悲しみを帯びて伝えた。
「逝ったのですか。空虚の霊人形さんは」
悲しげと分かっていたように言うお文に少し怒りを芽生えながら、空くんだったものに目線を向ける。
「くうきょのれいにんぎょう・・・そっか、空くんの本当の名前か」
「えぇ、しかし東さんがつけた”空”は気に入っていたと思いますよ」
お文の言葉は、慰めというより事実を申しているようで、先ほどの苛立ちと共に僕の涙へと変化していった。
「そうですか…」
僕の中には後悔よりも感謝と大切なものを失ってしまった絶望が混合してもう何なのか分からなくなってきた。
瞬間に、心の奥から涙がお見上げ、咽び泣てしまう。
「東さん、後悔は決してしてはいけません。空虚の霊人形さんは、あなたに後悔をしてほしくてこのような行動に出たわけではないです。あなたに生きて欲しい。僕の分まで生きて欲しい。と考えているのです。ですので、あなたはこれから前を向いて生きてください。空くんが望んだように」
語るように話すお文の言葉が心に響く。
「…そうですね。わかりました」
病室から忘れ去られた朝日を再び黙視し、天を仰ぐ。
そこには、いないはずの空くんが見えたような気がした。
──ありがとう空くん。僕はずっと空くんが好きで一生思い続けるよ。そこで待っててね。
今だけは、近くに空くんがいて抱きしめてくれているように体が暖かく感じる。周りを見渡せばお文はおらず多分、空くんと僕だけの世界。ずっとこの時間が続けばいいのに時間はそれを許さない。でも空くんの思いを無下にはしたくない。
だからこの健全な身体を大切にして、人生を謳歌する。それが今の目標であり、空くんとの新たな約束だと思う。
僕の愛している君へ。
いつかまた会おうね。



