九月。夏休みが明けても蒸し暑さは続いて、久しぶりの顔合わせで賑わう教室内は熱気に包まれていた。
「あっつ…九月はまだ夏だろ」
ぼやきながら死んだように机に突っ伏す俺のことは気にならないのか、隣の席にドサッと音を立ててエナメルバックを置いたのは部活の自主練を終えて教室に入ってきた親友の松原だった。
「瀬戸、おはよう」
「はよ。こんな暑いのに自主練とか真面目だな」
「大会で足引っ張るわけに行かないからな」
「そーかよ」
蒸し暑さなんて感じられない爽やかさの返答に心が折れた俺は適当な相槌で会話を終えた。ふとスマホの画面を見ればチャイムが鳴るまであと五分。
「校内は携帯使用禁止だぞ」
夏休みの前にも聞いたような台詞に思わず体を起こした。
——「…校内はスマホ禁止だよ」
耳馴染みの良い声が頭の中で再生されて顔が赤くなるのを感じた。あの日、図書室のカウンターの内側で眠っていたあの寝顔を俺は写真に収めようとした。けれどソレは叶わなかった。あの人は、図書委員だろうか。もし図書委員になったらあの人にもう一度会うことはできるだろうか。
「松。あのさ俺決めた」
「何を?」
「図書委員になる」
「…ハァ?暑さでおかしくなったか?キャラじゃないだろ図書委員とか」
「好きな人できたんだよ」
「で?なんで図書委員?」
「その人が図書委員っぽかったから?」
「お前、そういうとこあるよな。図書委員にお前の好きそうなやつなんていなかった気がするけど」
「いたんだよ美人が!」
「いや、面食いかよ」
心底残念なものを見るかのような目で俺を見てくる松原を無視して、俺は必ず図書委員になって名前も知らないあの人に近づいてみせるんだと息巻いていた。
「そういや瀬戸。お前生徒証見つかったの?」
「げっ…それがまだなんだよなぁ」
「見つかってないなら再発行しろよ?」
「金かかるし手続きめんどいしでダルいんだよなぁ」
「どこでなくしたのかもわからないんだろ?もう見つからないと思うぞ」
「だよなぁ」
部活用のタオルで汗を拭いながら心配そうに俺を見る松原の面倒見の良さに感心したところでチャイムが鳴った。
「ホームルーム始めるぞ。席につけ」
担任の無駄にでかい声が響く。静かになった教室を見渡した担任は持っていた名簿を教卓に置いて、気だるげに口を開いた。
「今日から新学期だが、気を引き締めるように。今日はまず委員会を決めるぞ。…で、まずは図書委員だが、希望者はいるか?いないなら――」
「はい!!!!!」
突然立ち上がった俺にクラス中の視線が集まった。立ち上がった勢いでガタン、と派手な音を立てて椅子が倒れる。松原が小さな声で「本気だったのかよ」と呟いた。
「…やる気があって素晴らしいが、瀬戸。お前本なんて読まねぇだろ」
「今日から読みます!夏目漱石から読みます!」
「そうか。じゃあ、よろしく頼む」
クラス中がクスクスと笑う中、担任が不思議そうな顔をしながらそう言った。次の委員会を決める話し合いに進んでも、俺の心臓はうるさいくらいに鳴っている。あの人に会えるかもしれないという高揚感で生徒証の件なんてすっかり忘れていた。
「あっつ…九月はまだ夏だろ」
ぼやきながら死んだように机に突っ伏す俺のことは気にならないのか、隣の席にドサッと音を立ててエナメルバックを置いたのは部活の自主練を終えて教室に入ってきた親友の松原だった。
「瀬戸、おはよう」
「はよ。こんな暑いのに自主練とか真面目だな」
「大会で足引っ張るわけに行かないからな」
「そーかよ」
蒸し暑さなんて感じられない爽やかさの返答に心が折れた俺は適当な相槌で会話を終えた。ふとスマホの画面を見ればチャイムが鳴るまであと五分。
「校内は携帯使用禁止だぞ」
夏休みの前にも聞いたような台詞に思わず体を起こした。
——「…校内はスマホ禁止だよ」
耳馴染みの良い声が頭の中で再生されて顔が赤くなるのを感じた。あの日、図書室のカウンターの内側で眠っていたあの寝顔を俺は写真に収めようとした。けれどソレは叶わなかった。あの人は、図書委員だろうか。もし図書委員になったらあの人にもう一度会うことはできるだろうか。
「松。あのさ俺決めた」
「何を?」
「図書委員になる」
「…ハァ?暑さでおかしくなったか?キャラじゃないだろ図書委員とか」
「好きな人できたんだよ」
「で?なんで図書委員?」
「その人が図書委員っぽかったから?」
「お前、そういうとこあるよな。図書委員にお前の好きそうなやつなんていなかった気がするけど」
「いたんだよ美人が!」
「いや、面食いかよ」
心底残念なものを見るかのような目で俺を見てくる松原を無視して、俺は必ず図書委員になって名前も知らないあの人に近づいてみせるんだと息巻いていた。
「そういや瀬戸。お前生徒証見つかったの?」
「げっ…それがまだなんだよなぁ」
「見つかってないなら再発行しろよ?」
「金かかるし手続きめんどいしでダルいんだよなぁ」
「どこでなくしたのかもわからないんだろ?もう見つからないと思うぞ」
「だよなぁ」
部活用のタオルで汗を拭いながら心配そうに俺を見る松原の面倒見の良さに感心したところでチャイムが鳴った。
「ホームルーム始めるぞ。席につけ」
担任の無駄にでかい声が響く。静かになった教室を見渡した担任は持っていた名簿を教卓に置いて、気だるげに口を開いた。
「今日から新学期だが、気を引き締めるように。今日はまず委員会を決めるぞ。…で、まずは図書委員だが、希望者はいるか?いないなら――」
「はい!!!!!」
突然立ち上がった俺にクラス中の視線が集まった。立ち上がった勢いでガタン、と派手な音を立てて椅子が倒れる。松原が小さな声で「本気だったのかよ」と呟いた。
「…やる気があって素晴らしいが、瀬戸。お前本なんて読まねぇだろ」
「今日から読みます!夏目漱石から読みます!」
「そうか。じゃあ、よろしく頼む」
クラス中がクスクスと笑う中、担任が不思議そうな顔をしながらそう言った。次の委員会を決める話し合いに進んでも、俺の心臓はうるさいくらいに鳴っている。あの人に会えるかもしれないという高揚感で生徒証の件なんてすっかり忘れていた。

