その人は誰もいない図書室で眠っていた。カーテンの隙間から入り込む日差しが整った寝顔を照らす。貸出カウンターの内側で目を閉じるその人はさながら眠り姫のようだった。
なんとなく、廊下の蒸し暑さから逃れるために入った図書室で気づけばその寝顔をじっくりと見つめていた。夏休みを前に浮足立った校内の雰囲気も、うざったいほどの蒸し暑さも何処かに行ってしまったような静けさの中でドクドクと胸が音を立てるのを感じる。カウンターの向こうで寝息に合わせて体やまつ毛が揺れている。
触れてみたい。もっとずっと見ていたい。
名前も学年も知らないのに心からそう思った。怪我で部活をやめて以来ほとんど起伏のなかった感情が一気にあふれ出して、俺は無意識のうちにスマホのカメラを構えていた。
白くて艶のある肌。細くて長いまつ毛。光を集めるような黒い髪。目の前の光景がカメラの中で輝いていた。あとはシャッターボタンを押すだけ。あと数ミリ、あと一秒にも満たないその瞬間。
「…校内はスマホ禁止だよ」
静けさの中に溶け込むような柔らかい声でボタンを押す指が止まった。
カメラから目を外したとき、眠たげな瞳がまっすぐに俺を見ていた。
なんとなく、廊下の蒸し暑さから逃れるために入った図書室で気づけばその寝顔をじっくりと見つめていた。夏休みを前に浮足立った校内の雰囲気も、うざったいほどの蒸し暑さも何処かに行ってしまったような静けさの中でドクドクと胸が音を立てるのを感じる。カウンターの向こうで寝息に合わせて体やまつ毛が揺れている。
触れてみたい。もっとずっと見ていたい。
名前も学年も知らないのに心からそう思った。怪我で部活をやめて以来ほとんど起伏のなかった感情が一気にあふれ出して、俺は無意識のうちにスマホのカメラを構えていた。
白くて艶のある肌。細くて長いまつ毛。光を集めるような黒い髪。目の前の光景がカメラの中で輝いていた。あとはシャッターボタンを押すだけ。あと数ミリ、あと一秒にも満たないその瞬間。
「…校内はスマホ禁止だよ」
静けさの中に溶け込むような柔らかい声でボタンを押す指が止まった。
カメラから目を外したとき、眠たげな瞳がまっすぐに俺を見ていた。

