軽音部の雰囲気にも慣れ始め、
いつも通り練習しているときだった。
「そういえばさ」
ギターを軽く鳴らしながら、
陽向が何気なく口を開いた。
「奏、誘ってみた?」
何気なく聞かれたその一言に、
指が止まった。
「……あー、うん」
「どうだった?」
周りにいた部員達の視線が
一斉にこちらを向く。
「……まだ、わかんない」
「は?なにそれ、どういうこと?」
陽向は不思議そうに、苦笑いした。
「……もうちょっとだけ、頑張ってみる」
それだけ言って、視線を逸らした。
「まあ春に任せる。でも、難しそうなら、あんま踏み込むのやめとけ」
やめる気なんて、ない。
頭の中に、
奏とのやり取りが浮かんできた。
迷いは、なかった。
ーーーー
「……おい」
ーーその日の練習が終わり、
ギターを片付けていた時、
背後から低い声が落ちてきた。
顔を上げると、奏が立っている。
奏が突然現れて、
部室が驚きの声でざわつく。
「……来いよ」
それだけ言うと、
周りを気にする様子もなく、
そのまま歩き出す。
「ちょっ、春、どういうことだ?」
「俺、行ってくる」
驚いた様子の陽向に、それだけ返して、奏の背中を追いかけた。
校舎の裏側、
人通りの少ない場所で、
奏は足を止めた。
「……遅え」
「あ、ご、ごめん……」
「飲み物買って来い。俺の分も」
「え?」
一瞬だけ呆気に取られた。
でも。
「……わかった」
再び、走り出していた。
ーー自販機の前で、少しだけ迷う。
何を買えばいいのか。
コーヒー?
甘いのか、ブラックか。
そもそも、
何が好きなのかもわからない。
「……これ、かな」
小さく呟いて、
甘いコーヒーとブラックコーヒーを両方買った。
急いで戻ると、奏はさっきと同じ場所で、壁にもたれていた。
「…はい」
ニ本とも差し出す。
「ん、さんきゅ」
奏は甘い方を選んだ。
「…そっちなんだ」
「うっせえよ、別にいいだろ」
指先がほんの少し触れただけで、
妙に意識してしまう。
「てかさ、お前、なんでギター持ってきてんの?」
「…あ」
…そうだ。
必死で追いかけて来たから、
自分でも気づかないうちにギターを持ってきていた。
「やっぱ、お前変なやつ」
そう言って笑った。
「なんで、軽音入った?」
「…探してる音があるから」
「は?」
「……なんでもない」
「ふーん」
興味があるのか、ないのか、
それ以上聞いては来なかった。
「……で、お前楽器ギターなんだろ?」
「うん」
「弾いてみろよ」
あまりに突然の奏の言葉に、
一瞬、思考が止まった、
「え、ここで?」
「他にどこあんだよ」
戸惑う俺を気にも止めず、
当たり前のようにそう言った。
「…わ、わかった」
ギターを持つ手が震えてることに、自分でもわかった。
慣れない手つきでコードを抑える。
ぽろん、と鳴った音は、
自分でもわかるくらいに拙い。
覚えたコードを順番に鳴らした。
奏は何も言わずに、
ただ、じっとこちらを見ていた。
「……下手だな」
「でも、なんか引っかかる」
小さく、そう呟いた。
そして奏はふっと笑った。
その笑顔があまりにも綺麗で、
鼓動が速くなった。
ーー前にも、
こんな距離があった気がした。
でも。
すぐに頭を振った。
思い出したくないーー。
「……おい」
奏に呼ばれてはっと我に返る。
「お前、聞いてんのか」
「あ、…ごめん」
「ま、今日のところはこれでいい」
奏はすっと立ち上がって、
俺の方に体を向けた。
何か企んでるようにニヤッと笑う奏。
「早く返さねえと、部室、鍵かかるよ?」
そう言って、
俺にギターを渡した。
慌てて時計を確認すると、
あと五分ほどで部室に鍵がかかる時間だった。
「…あっ!すぐ返さないと!…また、明日ね」
ーーそう言って部室に向かって、
走り出した時。
「春」
……え?今、名前。
ぴたりと、足が止まった。
確かに奏に、名前を呼ばれた。
立ち尽くす俺に、奏は続けた。
「……気が向いたらな」
「…え?」
「軽音部」
それだけ残して、
背を向けて歩き出す奏。
一瞬、呼吸を忘れた。
奏の背中が見えなくなるまで、
胸の奥が、ずっと落ち着かなかった。
いつも通り練習しているときだった。
「そういえばさ」
ギターを軽く鳴らしながら、
陽向が何気なく口を開いた。
「奏、誘ってみた?」
何気なく聞かれたその一言に、
指が止まった。
「……あー、うん」
「どうだった?」
周りにいた部員達の視線が
一斉にこちらを向く。
「……まだ、わかんない」
「は?なにそれ、どういうこと?」
陽向は不思議そうに、苦笑いした。
「……もうちょっとだけ、頑張ってみる」
それだけ言って、視線を逸らした。
「まあ春に任せる。でも、難しそうなら、あんま踏み込むのやめとけ」
やめる気なんて、ない。
頭の中に、
奏とのやり取りが浮かんできた。
迷いは、なかった。
ーーーー
「……おい」
ーーその日の練習が終わり、
ギターを片付けていた時、
背後から低い声が落ちてきた。
顔を上げると、奏が立っている。
奏が突然現れて、
部室が驚きの声でざわつく。
「……来いよ」
それだけ言うと、
周りを気にする様子もなく、
そのまま歩き出す。
「ちょっ、春、どういうことだ?」
「俺、行ってくる」
驚いた様子の陽向に、それだけ返して、奏の背中を追いかけた。
校舎の裏側、
人通りの少ない場所で、
奏は足を止めた。
「……遅え」
「あ、ご、ごめん……」
「飲み物買って来い。俺の分も」
「え?」
一瞬だけ呆気に取られた。
でも。
「……わかった」
再び、走り出していた。
ーー自販機の前で、少しだけ迷う。
何を買えばいいのか。
コーヒー?
甘いのか、ブラックか。
そもそも、
何が好きなのかもわからない。
「……これ、かな」
小さく呟いて、
甘いコーヒーとブラックコーヒーを両方買った。
急いで戻ると、奏はさっきと同じ場所で、壁にもたれていた。
「…はい」
ニ本とも差し出す。
「ん、さんきゅ」
奏は甘い方を選んだ。
「…そっちなんだ」
「うっせえよ、別にいいだろ」
指先がほんの少し触れただけで、
妙に意識してしまう。
「てかさ、お前、なんでギター持ってきてんの?」
「…あ」
…そうだ。
必死で追いかけて来たから、
自分でも気づかないうちにギターを持ってきていた。
「やっぱ、お前変なやつ」
そう言って笑った。
「なんで、軽音入った?」
「…探してる音があるから」
「は?」
「……なんでもない」
「ふーん」
興味があるのか、ないのか、
それ以上聞いては来なかった。
「……で、お前楽器ギターなんだろ?」
「うん」
「弾いてみろよ」
あまりに突然の奏の言葉に、
一瞬、思考が止まった、
「え、ここで?」
「他にどこあんだよ」
戸惑う俺を気にも止めず、
当たり前のようにそう言った。
「…わ、わかった」
ギターを持つ手が震えてることに、自分でもわかった。
慣れない手つきでコードを抑える。
ぽろん、と鳴った音は、
自分でもわかるくらいに拙い。
覚えたコードを順番に鳴らした。
奏は何も言わずに、
ただ、じっとこちらを見ていた。
「……下手だな」
「でも、なんか引っかかる」
小さく、そう呟いた。
そして奏はふっと笑った。
その笑顔があまりにも綺麗で、
鼓動が速くなった。
ーー前にも、
こんな距離があった気がした。
でも。
すぐに頭を振った。
思い出したくないーー。
「……おい」
奏に呼ばれてはっと我に返る。
「お前、聞いてんのか」
「あ、…ごめん」
「ま、今日のところはこれでいい」
奏はすっと立ち上がって、
俺の方に体を向けた。
何か企んでるようにニヤッと笑う奏。
「早く返さねえと、部室、鍵かかるよ?」
そう言って、
俺にギターを渡した。
慌てて時計を確認すると、
あと五分ほどで部室に鍵がかかる時間だった。
「…あっ!すぐ返さないと!…また、明日ね」
ーーそう言って部室に向かって、
走り出した時。
「春」
……え?今、名前。
ぴたりと、足が止まった。
確かに奏に、名前を呼ばれた。
立ち尽くす俺に、奏は続けた。
「……気が向いたらな」
「…え?」
「軽音部」
それだけ残して、
背を向けて歩き出す奏。
一瞬、呼吸を忘れた。
奏の背中が見えなくなるまで、
胸の奥が、ずっと落ち着かなかった。


