テレパシー ー君の音が、俺を呼ぶー

軽音部の部室は、
思っていたよりも騒がしかった。

ドアを開けた瞬間、
一気に流れ込んでくる音と声に、
思わず足を止めた。

ギターの音、
誰かの笑い声、
チューニングの音が混ざり合って、
まとまりのない空間。

でも、それが何故か心地よく感じた。

「お、春!やっと来た!」

陽向がギターを片手に手を振っている。

「こっちこっち」

手招きする陽向に向かって、
そのまま部室に、足を踏み入れた。

「陽向、この子が噂の春くん?」
「かわいい〜!」
「よろしくなっ!」

一気に視線が集まってきて、
ほんの少し肩に力が入った。

「よ、よろしく…お願いします。」

声が小さくなったのが、
自分でもわかった。

「そんな緊張しなくて大丈夫!」
「すぐ慣れるって」

「とりあえず、初めの数日はどの楽器やりたいか見て回って。それから決めてこ!まずは、雰囲気に慣れてね」


ーー楽器、か。

自分が楽器を弾くなんて、
正直想像がつかない。

部屋の隅に置かれた椅子に座り、
周りを見渡す。

楽しそうに話している人、
音合わせをしている人。

その中に自分がいる事に、
まだどこか現実味がなかった。

「なあ春、ちょっと聴いてくれよ」

隣に座った陽向がギターをかまえた。

「俺の弾き語り」

そう言って、
ぽろんっと軽く弦を鳴らした。

続けて、
ゆっくりとメロディが重なっていく。

陽向の音色は、
決して下手ではない。
むしろ、上手いんだと思う。

ーーなのに、何も触れてこない。

あの日のあの夜に、
胸の奥を直接触られたような感覚。
聴こえてきた音色。

頭の中に残ってる音と、
重なる事はなかった。

「どう?」

演奏を終えた陽向に、
期待の眼差しを向けられる。

「陽向すごいよ、上手い。」

「だろー?」

満足そうな陽向を見てほっとした。

音楽に触れるたび、
どこか期待して、
そして違うと思ってしまう。

そんな自分の心を見透かされる訳にはいかなかった。