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ざわざわとした観客席の音が、
壁越しに響いてくる。
ーーイベント当日。
奏に思いは伝えた。
昨日は一日みっちり練習をした。
…心残りは、ない。
ーーなのに。
指先が震えていた。
ギターを持つ手に、じんわりと汗が滲む。
何度も深呼吸したのに、
呼吸は整わないままだった。
出番が近づけば近づくほど、
体が強ばってくるのがわかる。
その度に隣を見るけどーー奏は、いない。
来ない、かもしれない。
奏の事を考えるたびに、胸の奥が締め付けられていた。
「春」
名前を呼ばれて顔を上げると、
心配そうにのぞき込む陽向。
「お前、顔やばいぞ。真っ青」
「だ……大丈夫」
そう呟いた声は、自分が思っていたよりもはるかに小さかった。
そんな俺を見て、陽向は軽く笑った。
「まあ、緊張すんのは当たり前か」
そう言って、ぽんっと俺の肩を叩いて続けた。
「でもさっ」
「お前の音、ちゃんと届くから」
「今までやってきたこと、全部出してこいよ」
その言葉に、張り詰めていた心が、
少しだけほどけた気がした。
「…陽向」
ーー俺を軽音部に誘ってくれて。
ーー奏と繋がるきっかけをくれて。
「ありがとう」
陽向は、照れくさそうにふっと笑った。
「俺、観客席で見てるから」
そう言って、舞台袖を離れていった。
一人になった途端に、
再び緊張が押し寄せてきて、
指先が震え出す。
ギターを握る手にも、
力が入らなくなってきた。
その時だった。
震えていた俺の手を、
包むように誰かが握った。
ゆっくりと顔を上げた、その先にいたのはーー
「……っ、奏…」
名前を呼んだ瞬間に、視界が滲む。
涙は止まらずに溢れてきた。
「なんで泣いてんだよ」
奏は、優しく微笑んで、
俺の涙をそっと拭った。
「お前ほんと、泣きすぎ」
奏の声が、
あまりにもいつも通りで、
不安が一気にほどけた。
「…そんな顔すんなって言っただろ」
そう言って俺の頭をくしゃっと撫でた。
その言葉に胸がいっぱいで、
言葉が出ないまま、ただ、頷いた。
「…ほら、行くぞ、春」
「隣、空いてんだろ」
そう言って奏は舞台に向かって歩き出す。
「うん!」
その背中を追いかけた。


