テレパシー ー君の声だけ、頭から離れないー


***

ざわざわとした観客席の音が、
壁越しに響いてくる。

ーーイベント当日。

奏に思いは伝えた。
昨日は一日みっちり練習をした。
…心残りは、ない。

ーーなのに。

指先が震えていた。

ギターを持つ手に、じんわりと汗が滲む。

何度も深呼吸したのに、
呼吸は整わないままだった。

出番が近づけば近づくほど、
体が強ばってくるのがわかる。

その度に隣を見るけどーー奏は、いない。

来ない、かもしれない。

奏の事を考えるたびに、胸の奥が締め付けられていた。

「春」

名前を呼ばれて顔を上げると、
心配そうにのぞき込む陽向。

「お前、顔やばいぞ。真っ青」

「だ……大丈夫」

そう呟いた声は、自分が思っていたよりもはるかに小さかった。

そんな俺を見て、陽向は軽く笑った。

「まあ、緊張すんのは当たり前か」

そう言って、ぽんっと俺の肩を叩いて続けた。

「でもさっ」

「お前の音、ちゃんと届くから」

「今までやってきたこと、全部出してこいよ」

その言葉に、張り詰めていた心が、
少しだけほどけた気がした。

「…陽向」

ーー俺を軽音部に誘ってくれて。

ーー奏と繋がるきっかけをくれて。

「ありがとう」

陽向は、照れくさそうにふっと笑った。

「俺、観客席で見てるから」

そう言って、舞台袖を離れていった。

一人になった途端に、
再び緊張が押し寄せてきて、
指先が震え出す。

ギターを握る手にも、
力が入らなくなってきた。

その時だった。

震えていた俺の手を、
包むように誰かが握った。

ゆっくりと顔を上げた、その先にいたのはーー

「……っ、奏…」

名前を呼んだ瞬間に、視界が滲む。

涙は止まらずに溢れてきた。

「なんで泣いてんだよ」

奏は、優しく微笑んで、
俺の涙をそっと拭った。

「お前ほんと、泣きすぎ」

奏の声が、
あまりにもいつも通りで、
不安が一気にほどけた。

「…そんな顔すんなって言っただろ」

そう言って俺の頭をくしゃっと撫でた。

その言葉に胸がいっぱいで、
言葉が出ないまま、ただ、頷いた。

「…ほら、行くぞ、春」

「隣、空いてんだろ」

そう言って奏は舞台に向かって歩き出す。

「うん!」

その背中を追いかけた。