テレパシー ー君の音が、俺を呼ぶー

「なぁ春、何聴いてんの?」

隣から顔を覗き込まれて、
イヤホンを片方外した。

ーー四月
新しい制服にも、まだ慣れない頃。

隣の席になった陽向は、一番最初に出来た友達だ。

「ん?適当。おすすめ流れてきたやつ」

画面を軽く見せると、「へぇ」と興味無さそうに相槌を打って、陽向はすぐに前を向いた。

ーー鈴音 春 。

単純に、春に生まれたから、春。

なのに、
俺はこの季節が嫌いだった。

「春ってさ、いつも音楽聴いてるよな」

「まあ、そこそこ」

「てかさ、部活どうすんの?決めた?」

ーー部活

入学してからずっと、頭の片隅にあったのは軽音部だった。

でも。

演奏をするのが好きだからとか、
そういう純粋な理由ではない。

ただーー聴きたい。

あの日の音をもう一度、

それだけで、
ここまで来てしまった。

そもそも俺は、
楽器を触ったことすらない。

志望動機を聞かれても、
毎日片っ端から音楽を聞き漁っているということくらいしかない。

理由だって、上手く言葉にできない。

それでも。
もう一度、あの日のあの音色に、
辿り着きたい。

それだけだった。

「おいっ!春!なんだよ、ぼーっとして」

陽向の言葉で、はっと我に返る。

「あ、ごめん…」

「部活だよ、部活!」

「まだ決めてない」

「じゃあさ、俺と一緒にしない?」

陽向はニヤッと笑った。

「俺、ギター仲間の先輩に誘われてさ。軽音部入るんだよね。春も来いよ」

軽い調子で言う陽向。
少しだけ考える。

「……いいよ」

答えを出すまでに、
そう時間はかからなかった。

「え、まじ?」

「別にいいかなって。暇だし。
って言っても俺、楽器の演奏とかなんもできないけど…」

「全然余裕!一緒にやればいいって!」

そう言うと、
陽向は満足そうに笑ってガッツポーズした。

「よっしゃ、じゃあ決まりな!」

楽しそうに笑う陽向。

その声の向こうで、
あの日の音が、また蘇る。

「そうそう!そういえばさ!」

陽向が思い出したように口を開く。

「軽音部、もう一人誘いたいやついるんだよな。誘ってもきっと断られるんだろうけど…」

「断られる?」

「ああ。中学一緒だったんだけど、めちゃくちゃ上手かったんだよ。ギターも歌も、レベチ。スカウト来てたって噂も聞いたくらい」

「じゃあ普通に入るんじゃ…」

俺の言葉に、
陽向は少し声を落とした。

「それがさ、急にやめたんだよ。ぱったり」

「……なんで?」

「理由は俺も知らない。それからもう、人が変わったみたいになってさ」

陽向がふいに顔を上げた。

「ほら、あいつ」

つられるように視線を向けると、
廊下に繋がるドアの向こうに、
人に囲まれて笑っている男がいた。

笑っているのに、目は笑っていない。

単純に顔が整っているとかではなく、
ただ、目を引くような、
そこにいるだけで空気が違って見えた。

周りに人がいるのに、
一人で立っているかのような、
そんな存在感だった。

ーー綺麗。

一瞬時間が止まったように、
視線を逸らすことが出来なかった。

気になる、とまではいかないけど、
何か引っかかるような、そんな感覚。

「……名前は?」

気づけば、聞いていた。

「名前?ああ、奏だよ。沢田 奏」

「沢田 奏…」

その名前が、妙に胸に引っかかった。