「……俺、奏が好きなんだ」
ーー泣きながら、
それでもまっすぐ、俺を見ていた。
あの時の春の顔も、声も、
全て、焼き付いている。
何度も、何度も、
同じところで引っかかって、
消えないーー。
本当は、嬉しかった。
自分でも驚くくらいに、
胸の奥が、じんと熱くなった。
あの夜ーー
最後に弾き語りをした日のことを思い出した。
あの時の音に、救われたと春は言った。
でも俺はもう、
音楽をやめた。
ーーやめたんじゃない。
やめるしか、なくなった。
右手に力を入れる。
ほんの少しの違和感。
でもそれは、確実にそこにあって、
思うように動かない瞬間がある。
あの頃のように、
思い通りの音はもう、出せない。
そんな状態でーー
誰かを、音で救えるわけなんてない。
春の期待に応えられない自分を見せるくらいなら。
「……俺は、やめとけ」
この言葉を選んだのは、
まちがいなんかじゃない。
そう言い聞かせた。
……なのに。
「毎日、練習するぞって言ったじゃん」
「一緒にいるって、言ったじゃん…!」
ーー信じてくれていたのに。
裏切るようなことをしてしまった。
あの時の顔が、頭から離れない。
「……ごめんな」
誰にも聞こえないような声で、吐き出した。
これでいいんだ。
これ以上、踏み込ませたら、
きっとーー
その場を離れるしか、なかった。
その日から、
いつもの場所には行かなかった。
……行けなかった。
あそこに行けば、春がいる気がした。
会ってしまったら、
全部、崩れる気がしたから。
ーーそれから、二ヶ月が経った。
あの日以来、春とは一度も顔も合わせていない。
なのに。
ふとした瞬間に思い出すのは、
あいつのことばかりだった。
あの泣き顔も、
不器用なギターも、
まっすぐな言葉も。
小さくため息をついて、
空を見上げる。
晴れてるのに、どこか落ち着かない。
その時だった。
「奏」
背後から呼び止められゆっくり振り返った先に、立っていたのはーー
「…陽向?」
音楽をやめて以来、話をする機会もなく、疎遠になっていた。
真剣な顔で俺を見つめながら、陽向はゆっくり口を開いた。
「あいつ…春となんかあった?」
ーー春。
その名前に、思わず目を逸らした。
「いや…別に」
「別に、じゃねえだろ」
何も言わない俺に、
陽向の言葉は止まらなかった。
「春、明らかにおかしいぞ」
「笑ってんのに、全然笑ってねえし」
「音だけで無理やり立ってるみたいな顔してる」
陽向の言葉が、次々に刺さってくる。
俺は…何も言えない。
逃げるように歩き出した。
「春が持ってるの、あれお前のギターなんだろ?」
「あいつ、ずっとお前のギターで練習してる」
陽向の言葉が、背中にぶつかる。
「イベント近いのにさ、歌、全然歌わねえんだよ」
「あいつと、ちゃんと話せよ」
呼び止めるようなその言葉に、
足を止めることなく歩き続けた。
何も言い返すことができなかった。
頭の中がぐちゃぐちゃだった。
"「……俺、奏が好きなんだ」"
まっすぐに伝えてくれた言葉。
ーーこのまま終わらせたら、きっと後悔する。
「…はあ」
深く息を吐いた。
俺は、どうしたい?
俺は、春のこと……
ーー会いたい。
その気持ちを、
否定することはやっぱり出来ない。
足の向きを変えて、
向かう先は決まっている。
夕焼けに染まりかけた空を見上げる。
……あの日と、
少し似ている気がした。
だからなのかもしれない。
「…今日、来る気がするんだよな」
根拠なんてないのに、そう思った。
壁にもたれて、空を見上げる。
ここから見える空が、一番好きだった。
遠くから、
慌ただしい足音が近づいてくる。
その音の方に、
ゆっくりと視線を向ける。
ーー息を切らしながら、
こちらに向かって走ってきた影。
「…春」
ーー泣きながら、
それでもまっすぐ、俺を見ていた。
あの時の春の顔も、声も、
全て、焼き付いている。
何度も、何度も、
同じところで引っかかって、
消えないーー。
本当は、嬉しかった。
自分でも驚くくらいに、
胸の奥が、じんと熱くなった。
あの夜ーー
最後に弾き語りをした日のことを思い出した。
あの時の音に、救われたと春は言った。
でも俺はもう、
音楽をやめた。
ーーやめたんじゃない。
やめるしか、なくなった。
右手に力を入れる。
ほんの少しの違和感。
でもそれは、確実にそこにあって、
思うように動かない瞬間がある。
あの頃のように、
思い通りの音はもう、出せない。
そんな状態でーー
誰かを、音で救えるわけなんてない。
春の期待に応えられない自分を見せるくらいなら。
「……俺は、やめとけ」
この言葉を選んだのは、
まちがいなんかじゃない。
そう言い聞かせた。
……なのに。
「毎日、練習するぞって言ったじゃん」
「一緒にいるって、言ったじゃん…!」
ーー信じてくれていたのに。
裏切るようなことをしてしまった。
あの時の顔が、頭から離れない。
「……ごめんな」
誰にも聞こえないような声で、吐き出した。
これでいいんだ。
これ以上、踏み込ませたら、
きっとーー
その場を離れるしか、なかった。
その日から、
いつもの場所には行かなかった。
……行けなかった。
あそこに行けば、春がいる気がした。
会ってしまったら、
全部、崩れる気がしたから。
ーーそれから、二ヶ月が経った。
あの日以来、春とは一度も顔も合わせていない。
なのに。
ふとした瞬間に思い出すのは、
あいつのことばかりだった。
あの泣き顔も、
不器用なギターも、
まっすぐな言葉も。
小さくため息をついて、
空を見上げる。
晴れてるのに、どこか落ち着かない。
その時だった。
「奏」
背後から呼び止められゆっくり振り返った先に、立っていたのはーー
「…陽向?」
音楽をやめて以来、話をする機会もなく、疎遠になっていた。
真剣な顔で俺を見つめながら、陽向はゆっくり口を開いた。
「あいつ…春となんかあった?」
ーー春。
その名前に、思わず目を逸らした。
「いや…別に」
「別に、じゃねえだろ」
何も言わない俺に、
陽向の言葉は止まらなかった。
「春、明らかにおかしいぞ」
「笑ってんのに、全然笑ってねえし」
「音だけで無理やり立ってるみたいな顔してる」
陽向の言葉が、次々に刺さってくる。
俺は…何も言えない。
逃げるように歩き出した。
「春が持ってるの、あれお前のギターなんだろ?」
「あいつ、ずっとお前のギターで練習してる」
陽向の言葉が、背中にぶつかる。
「イベント近いのにさ、歌、全然歌わねえんだよ」
「あいつと、ちゃんと話せよ」
呼び止めるようなその言葉に、
足を止めることなく歩き続けた。
何も言い返すことができなかった。
頭の中がぐちゃぐちゃだった。
"「……俺、奏が好きなんだ」"
まっすぐに伝えてくれた言葉。
ーーこのまま終わらせたら、きっと後悔する。
「…はあ」
深く息を吐いた。
俺は、どうしたい?
俺は、春のこと……
ーー会いたい。
その気持ちを、
否定することはやっぱり出来ない。
足の向きを変えて、
向かう先は決まっている。
夕焼けに染まりかけた空を見上げる。
……あの日と、
少し似ている気がした。
だからなのかもしれない。
「…今日、来る気がするんだよな」
根拠なんてないのに、そう思った。
壁にもたれて、空を見上げる。
ここから見える空が、一番好きだった。
遠くから、
慌ただしい足音が近づいてくる。
その音の方に、
ゆっくりと視線を向ける。
ーー息を切らしながら、
こちらに向かって走ってきた影。
「…春」


