「春!それ…お前のギター?」
興味津々な陽向の言葉に、
はっと我に返る。
"もう使わねえから"
"抱きしめるけどいい?"
ーーあれから奏の事ばかり考えていて、部活中もぼーっとしてばかりだった。
目を輝かせながら、
ギターを覗き込んでくる陽向。
「春もついに自分のギターかよ!」
「…うん、まあ」
「ちょ、ちょっと見せて!…いい?」
「うん、いいよ」
ギターを手渡すと、陽向は声を上げた。
「うっわ、めっちゃいいやつじゃんこれ!!ちょ、弾いてくれ!」
陽向からギターを受け取って、
軽く弾いた。
「やべーー、やっぱめっちゃ良い音だわ」
大興奮する陽向を横目に、
俺の胸の奥はざわついていた。
ーー奏から託されたギター。
なんて、言えるはずなかった。
「てかさ」
何か思い出したように、陽向が顔を上げた。
「最近お前、奏と一緒に練習してるって噂聞いたんだけど。まじ?」
一瞬、言葉に詰まった。
「…うん…まあ」
曖昧に濁すと、
陽向はニヤッと笑った。
「まじだったのか。あいつ軽音部来てくれそう?」
陽向の言葉に、
少しだけ視線を落とす。
「……それは、無理だと思う」
「え、なんでなんで?」
「……わかんないけど」
それ以上は、上手く言葉にできなかった。
昨日の奏の言葉が、
頭の中で何度も繰り返される。
「そっかー…」
陽向は少しだけ残念そうに言った。
でも、すぐに切り替えるように笑った。
「まあでも、今の春の音めちゃくちゃ良くなってるし、問題ねえか」
「…そうかなあ」
胸の奥の引っかかりが消えないまま、頷く事しかできなかった。
ーー練習が終わり片付けを終えて、部室の外に出る。
廊下のひやりとした空気が頬に触れた、ーーその時だった。
「…あの、ちょっといい?」
ふいに名前を呼ばれ、足を止めた。
そこには、見覚えのある女子が立っている。
ーーこの人。
前に奏といる時に、奏に話しかけていた。
でも、彼女が俺に何の用だろう。
「ちょっと、話いい?」
逃げる理由もない、頷くしかなかった。
「……そのギター」
視線が俺の持っているギターケースに向く。
「…奏のだよね?」
ーーこれが奏のギターだってこと、なんで知っているんだろう。
しばらく考え込んでいると、
少しだけ強い口調で言葉が落ちた。
「あのさ、もう、奏のこと巻き込まないであげて」
「……え?」
理解が追いつかなくて、思わず聞き返していた。
「奏はもう、音楽やめてるの。わかってるよね?」
淡々とした声だけど、
その中に苛立ちのようなものが混ざっていた。
「そ、それはわかってる…けど…」
「じゃあ、理由くらい聞いてるでしょ?」
俺の言葉を遮るように落ちた彼女の言葉に、返す言葉がなくなった。
ーー知らない。
何も。
「まさか、…知らないの?奏のこと、ちゃんと知らないくせに、中途半端に関わらないでほしいんだよね」
見透かしたように続く彼女の言葉に、
胸の奥のざわつきが増していく。
「……な、何があったの?」
自然に、口からこぼれた。
彼女は一瞬だけ黙ったあと、小さく息を吐いて口を開いた。
「…聞いてないんだ」
そう小さく呟くように言って、続ける。
「……右手。もう、ちゃんと弾けないの」
ーーえ?
今、なんて?
時間が、一瞬止まった気がした。
「だから、やめたの。…もう余計なことしないであげて」
それだけ言い残して去っていった。
ーー気づいた時には、走っていた。
頭の中が真っ白で、何も整理できない。
"「……右手。もう、ちゃんと弾けないの」"
さっきの言葉がただ繰り返される。
そんなの知らなかった。
聞けなかった。
踏み込むのが怖かった。
だからーー知ろうとしなかった。
息が上がっても、足は止まらなかった。
***
いつもの場所に着くと、壁にもたれて空を見上げる奏がいる。
「…遅え」
いつも通りの言葉、いつも通りの表情。
なのに。
彼女から話を聞いてしまった今、その姿を見るのが苦しかった。
「……奏」
「ん?」
優しく微笑む奏を見て、
ーーこのままじゃだめだ。
そう、思った。
「軽音部……来てくれない?」
一度飲み込んだ言葉を、もう一度口にした。
「……俺が行かなくても、お前もう大丈夫だろ」
奏は少し目を細めて、軽く流すような口調で答えた。
「……そうじゃなくて」
言葉に詰まる。
ーーでも。
「奏じゃなきゃ、だめなんだ」
俺のその言葉に、空気が少しだけ変わった。
「…そんなことねえだろ。てか、俺はもう、音楽やめたから」
奏の言葉に、胸が締め付けられる。
「…なんで?」
俺にも話して欲しいと思った。
知りたいと思った。
でも。
「……関係ねえだろ」
奏の声のトーンは落ちて、俺から視線を逸らした。
「関係あるよ。俺は、知りたい」
「…ほっといてくれ」
そんな事、できるはずなかった。
「ほっとけないよ」
俺の言葉に、
奏の眉がわずかに寄った。
「…やめろって言ってんだろ」
やめることなんてできない。
だってーー
「…俺は、奏の音に救われた」
そう言って、一歩近づいた俺を遮るように奏が言った。
「……なんでそこまで、俺にこだわるんだよ」
その声は少しだけ、掠れていた。
「…悪いけど、今日は帰るわ」
そう言って背を向けて歩き出した。
ーー待って。
このままじゃ、だめだ。
「…待ってよ!!」
気づいたら、手を伸ばしていた。
「俺、もう失いたくない」
視界が滲んで、声が震える。
言葉が喉に詰まる。
でも、それでも伝えたい。
「ちゃんと聞いて」
「…俺、奏が好きなんだ」
伝えた瞬間、涙が溢れて、
世界が静かになった気がした。
興味津々な陽向の言葉に、
はっと我に返る。
"もう使わねえから"
"抱きしめるけどいい?"
ーーあれから奏の事ばかり考えていて、部活中もぼーっとしてばかりだった。
目を輝かせながら、
ギターを覗き込んでくる陽向。
「春もついに自分のギターかよ!」
「…うん、まあ」
「ちょ、ちょっと見せて!…いい?」
「うん、いいよ」
ギターを手渡すと、陽向は声を上げた。
「うっわ、めっちゃいいやつじゃんこれ!!ちょ、弾いてくれ!」
陽向からギターを受け取って、
軽く弾いた。
「やべーー、やっぱめっちゃ良い音だわ」
大興奮する陽向を横目に、
俺の胸の奥はざわついていた。
ーー奏から託されたギター。
なんて、言えるはずなかった。
「てかさ」
何か思い出したように、陽向が顔を上げた。
「最近お前、奏と一緒に練習してるって噂聞いたんだけど。まじ?」
一瞬、言葉に詰まった。
「…うん…まあ」
曖昧に濁すと、
陽向はニヤッと笑った。
「まじだったのか。あいつ軽音部来てくれそう?」
陽向の言葉に、
少しだけ視線を落とす。
「……それは、無理だと思う」
「え、なんでなんで?」
「……わかんないけど」
それ以上は、上手く言葉にできなかった。
昨日の奏の言葉が、
頭の中で何度も繰り返される。
「そっかー…」
陽向は少しだけ残念そうに言った。
でも、すぐに切り替えるように笑った。
「まあでも、今の春の音めちゃくちゃ良くなってるし、問題ねえか」
「…そうかなあ」
胸の奥の引っかかりが消えないまま、頷く事しかできなかった。
ーー練習が終わり片付けを終えて、部室の外に出る。
廊下のひやりとした空気が頬に触れた、ーーその時だった。
「…あの、ちょっといい?」
ふいに名前を呼ばれ、足を止めた。
そこには、見覚えのある女子が立っている。
ーーこの人。
前に奏といる時に、奏に話しかけていた。
でも、彼女が俺に何の用だろう。
「ちょっと、話いい?」
逃げる理由もない、頷くしかなかった。
「……そのギター」
視線が俺の持っているギターケースに向く。
「…奏のだよね?」
ーーこれが奏のギターだってこと、なんで知っているんだろう。
しばらく考え込んでいると、
少しだけ強い口調で言葉が落ちた。
「あのさ、もう、奏のこと巻き込まないであげて」
「……え?」
理解が追いつかなくて、思わず聞き返していた。
「奏はもう、音楽やめてるの。わかってるよね?」
淡々とした声だけど、
その中に苛立ちのようなものが混ざっていた。
「そ、それはわかってる…けど…」
「じゃあ、理由くらい聞いてるでしょ?」
俺の言葉を遮るように落ちた彼女の言葉に、返す言葉がなくなった。
ーー知らない。
何も。
「まさか、…知らないの?奏のこと、ちゃんと知らないくせに、中途半端に関わらないでほしいんだよね」
見透かしたように続く彼女の言葉に、
胸の奥のざわつきが増していく。
「……な、何があったの?」
自然に、口からこぼれた。
彼女は一瞬だけ黙ったあと、小さく息を吐いて口を開いた。
「…聞いてないんだ」
そう小さく呟くように言って、続ける。
「……右手。もう、ちゃんと弾けないの」
ーーえ?
今、なんて?
時間が、一瞬止まった気がした。
「だから、やめたの。…もう余計なことしないであげて」
それだけ言い残して去っていった。
ーー気づいた時には、走っていた。
頭の中が真っ白で、何も整理できない。
"「……右手。もう、ちゃんと弾けないの」"
さっきの言葉がただ繰り返される。
そんなの知らなかった。
聞けなかった。
踏み込むのが怖かった。
だからーー知ろうとしなかった。
息が上がっても、足は止まらなかった。
***
いつもの場所に着くと、壁にもたれて空を見上げる奏がいる。
「…遅え」
いつも通りの言葉、いつも通りの表情。
なのに。
彼女から話を聞いてしまった今、その姿を見るのが苦しかった。
「……奏」
「ん?」
優しく微笑む奏を見て、
ーーこのままじゃだめだ。
そう、思った。
「軽音部……来てくれない?」
一度飲み込んだ言葉を、もう一度口にした。
「……俺が行かなくても、お前もう大丈夫だろ」
奏は少し目を細めて、軽く流すような口調で答えた。
「……そうじゃなくて」
言葉に詰まる。
ーーでも。
「奏じゃなきゃ、だめなんだ」
俺のその言葉に、空気が少しだけ変わった。
「…そんなことねえだろ。てか、俺はもう、音楽やめたから」
奏の言葉に、胸が締め付けられる。
「…なんで?」
俺にも話して欲しいと思った。
知りたいと思った。
でも。
「……関係ねえだろ」
奏の声のトーンは落ちて、俺から視線を逸らした。
「関係あるよ。俺は、知りたい」
「…ほっといてくれ」
そんな事、できるはずなかった。
「ほっとけないよ」
俺の言葉に、
奏の眉がわずかに寄った。
「…やめろって言ってんだろ」
やめることなんてできない。
だってーー
「…俺は、奏の音に救われた」
そう言って、一歩近づいた俺を遮るように奏が言った。
「……なんでそこまで、俺にこだわるんだよ」
その声は少しだけ、掠れていた。
「…悪いけど、今日は帰るわ」
そう言って背を向けて歩き出した。
ーー待って。
このままじゃ、だめだ。
「…待ってよ!!」
気づいたら、手を伸ばしていた。
「俺、もう失いたくない」
視界が滲んで、声が震える。
言葉が喉に詰まる。
でも、それでも伝えたい。
「ちゃんと聞いて」
「…俺、奏が好きなんだ」
伝えた瞬間、涙が溢れて、
世界が静かになった気がした。


