***
「遅え」
「…ごめん」
そう言いながら、
甘いコーヒーを差し出す。
「ん、さんきゅ」
受け取った奏は、少しだけ口角を上げる。
ーーこのやり取りも、もうすっかり日常になっていた。
あの日から、本当に毎日こうして一緒に過ごしてくれている。
そんな日々が当たり前に続いている事が、少しだけ怖かった。
隣に座ってギターを弾く。
視界の端に映る奏。
何気ない仕草。
ーー最近、気づくことも増えた。
奏の癖とか、
どうでもいいようなことまで。
ーー奏は、俺をどう思っているんだろう。
俺は、きっとーー
「…弾かねえの?」
奏の声に、はっとして我に返る。
視線が合いそうになって、慌てて逸らした。
「あ、弾く」
ギターケースからギターを取り出そうとした、その時。
「……ちょい、待ってて」
「え?」
奏はそれだけ言って、
そのままどこかへ歩いて行った。
理由もわからないまま何もせずに待っている数分は、そわそわして落ち着かなかった。
足音と一緒に、何かがぶつかる鈍い音が近づいてきて顔を上げると、
ギターケースを持った奏が帰ってきた。
そして、持って来たギターケースを俺に手渡す。
「これ、お前にやるよ」
思わず固まる。
「え?」
理解が追いつかないまま、奏の顔を見る。
「これ、俺が昔使ってたギター」
「もう使わねえから、お前に使って欲しい」
"もう使わねえから"
ーーその一言が、妙に引っかかった。
「な、なんで…俺に?」
思わず聞き返していた。
「お前自分のギター持ってねえだろ」
そう言ってケースを押し付けてくる。
渡されたケースをそっと開くと、
中には少し傷のついたギターが入っていた。
ーー奏が使っていたギター。
大事にされていたのが、伝わってくる。
「…ありがとう」
自然と言葉にしていた。
素直に嬉しかった。
でもーー
同時に、胸がざわつく。
"もう使わねえから"
ーーそれって、
もう弾かないってこと?
「ほら、弾いてみろよ」
奏の声に促されて、
新しいギターを手に取る。
今まで使っていたギターより、
少しだけ重い。
でも、すっと手に馴染む感覚。
軽く弦を鳴らしただけで、
今までとは全然違う響きが広がった。
「す、すごい」
思わず漏れた声に、奏は小さく笑った。
「イベントの曲、弾いてみ?」
「…うん」
弾きなれているはずなのに、
何故か鼓動が速くなる。
呼吸を整え、コードを押さえた。
ーーこの音。
自分が弾いてると思えないくらい、綺麗な音だった。
あの夜の音とは少し違う。
でも。
確実に、繋がった。
胸がじんわりと熱くなって、
視界が滲んで来る。
それでも、最後まで弾き続けた。
弾き終えた時、
ぽたり、と涙が落ちた。
「……っ」
ーー奏に弾いてほしい。
ーー歌って欲しい。
そう思っているのに、
言葉が喉の奥で止まったまま動かない。
涙だけが溢れてくる。
「……え?どした?」
驚いた表情で俺を見つめる奏。
「…っ、あまりにも…綺麗だから」
でも、それだけじゃない。
自分でも言葉にできなかった。
そんな俺を見て、ふっと笑う奏。
「お前、ほんとすぐ泣くよな」
そう言って、俺の涙をぬぐった。
視線が絡む。
俺の頬に触れたまま、奏が言った。
「そんな顔してると俺、抱きしめるけど、いい?」
低く落ちた声に、
心臓が大きく鳴った。
ーーえ?
それって、どういう意味?
固まったまま動けない俺を見て、
「嫌ならもう泣くな、な?」
そう言って俺の頭を、優しく撫でた。
嫌じゃない…。
奏は、ほんとに俺をどう思っているんだろうーー。
わからないのに、離れたくないと思ってしまう。
「遅え」
「…ごめん」
そう言いながら、
甘いコーヒーを差し出す。
「ん、さんきゅ」
受け取った奏は、少しだけ口角を上げる。
ーーこのやり取りも、もうすっかり日常になっていた。
あの日から、本当に毎日こうして一緒に過ごしてくれている。
そんな日々が当たり前に続いている事が、少しだけ怖かった。
隣に座ってギターを弾く。
視界の端に映る奏。
何気ない仕草。
ーー最近、気づくことも増えた。
奏の癖とか、
どうでもいいようなことまで。
ーー奏は、俺をどう思っているんだろう。
俺は、きっとーー
「…弾かねえの?」
奏の声に、はっとして我に返る。
視線が合いそうになって、慌てて逸らした。
「あ、弾く」
ギターケースからギターを取り出そうとした、その時。
「……ちょい、待ってて」
「え?」
奏はそれだけ言って、
そのままどこかへ歩いて行った。
理由もわからないまま何もせずに待っている数分は、そわそわして落ち着かなかった。
足音と一緒に、何かがぶつかる鈍い音が近づいてきて顔を上げると、
ギターケースを持った奏が帰ってきた。
そして、持って来たギターケースを俺に手渡す。
「これ、お前にやるよ」
思わず固まる。
「え?」
理解が追いつかないまま、奏の顔を見る。
「これ、俺が昔使ってたギター」
「もう使わねえから、お前に使って欲しい」
"もう使わねえから"
ーーその一言が、妙に引っかかった。
「な、なんで…俺に?」
思わず聞き返していた。
「お前自分のギター持ってねえだろ」
そう言ってケースを押し付けてくる。
渡されたケースをそっと開くと、
中には少し傷のついたギターが入っていた。
ーー奏が使っていたギター。
大事にされていたのが、伝わってくる。
「…ありがとう」
自然と言葉にしていた。
素直に嬉しかった。
でもーー
同時に、胸がざわつく。
"もう使わねえから"
ーーそれって、
もう弾かないってこと?
「ほら、弾いてみろよ」
奏の声に促されて、
新しいギターを手に取る。
今まで使っていたギターより、
少しだけ重い。
でも、すっと手に馴染む感覚。
軽く弦を鳴らしただけで、
今までとは全然違う響きが広がった。
「す、すごい」
思わず漏れた声に、奏は小さく笑った。
「イベントの曲、弾いてみ?」
「…うん」
弾きなれているはずなのに、
何故か鼓動が速くなる。
呼吸を整え、コードを押さえた。
ーーこの音。
自分が弾いてると思えないくらい、綺麗な音だった。
あの夜の音とは少し違う。
でも。
確実に、繋がった。
胸がじんわりと熱くなって、
視界が滲んで来る。
それでも、最後まで弾き続けた。
弾き終えた時、
ぽたり、と涙が落ちた。
「……っ」
ーー奏に弾いてほしい。
ーー歌って欲しい。
そう思っているのに、
言葉が喉の奥で止まったまま動かない。
涙だけが溢れてくる。
「……え?どした?」
驚いた表情で俺を見つめる奏。
「…っ、あまりにも…綺麗だから」
でも、それだけじゃない。
自分でも言葉にできなかった。
そんな俺を見て、ふっと笑う奏。
「お前、ほんとすぐ泣くよな」
そう言って、俺の涙をぬぐった。
視線が絡む。
俺の頬に触れたまま、奏が言った。
「そんな顔してると俺、抱きしめるけど、いい?」
低く落ちた声に、
心臓が大きく鳴った。
ーーえ?
それって、どういう意味?
固まったまま動けない俺を見て、
「嫌ならもう泣くな、な?」
そう言って俺の頭を、優しく撫でた。
嫌じゃない…。
奏は、ほんとに俺をどう思っているんだろうーー。
わからないのに、離れたくないと思ってしまう。


