テレパシー ー君の声だけ、頭から離れないー

どれくらい時間が経っただろう。
さっきまでまだ少し明るかった空が、
いつの間にか暗くなっていた。

「…落ち着いたか?」

「……うん」

奏は、俺が落ち着くまで、
ただ、黙って隣にいてくれた。

気づけば、涙は止まっていた。

「よし、じゃあもう遅いし、帰るか。家まで送ってく」

そう言って歩き出す奏の背中を、
慌てて追いかける。

「だ、大丈夫。一人で帰れるから」

ーー知られたくない。

俺にはもう家族がいないってこと。

胸の奥が、ずんと痛んだ。

「まだなんか気にしてんのか?」

考えてたことを見透かされたみたいで、
言葉に詰まった。

「……何もないよ」

強がりしか出てこない。

「なら、送ってく」

それ以上は何も言わずに、
歩き出す奏。

いつも一人で歩いている家までの道。

何度も通っている道なのに、
初めての道を歩いているみたいだった。

ーー家の前に着いても、中々言い出せないでいた。

祖母が残した大きな一軒家。

なのに、灯りはどこにも付いていない。

いきなり俯いて黙り込む俺を察したかのように、奏が口を開く。

「すげえ立派な家だな」

返す言葉に迷って、
少しの沈黙の後、小さく答える。

「…でも、家族はいないから」

奏は、ただ黙って俺を見ている。

「両親もいないし…ばあちゃんももういないから」

言い終えたあと、
視線を落としたまま動けなかった。

…言わなきゃよかった。

そう思った時。

「…そっか」

それだけ言って、
何も聞かずに、ただ俺を見ていた。

否定でも同情でもない優しい声音に、
少しだけ救われた気がした。

ーーそして。

「じゃあ、ちょうどいいな」

「明日からも毎日練習な」

「……え?」

思わず顔を上げた。

「部活終わり、毎日ギター教えてやる」

「…は!?…え?」

当たり前のようにそう言って、
俺の頭にぽんっと手を置いた。

ーーそれって。

一緒にいてくれるってこと?

それも毎日?

「……いいの?」

思わず、口に出ていた。

「は?今更だろ」

「どうせ一人なんだろ」

ぶっきらぼうなのに、
優しさが滲んでいる奏の言葉。

胸の奥が、じんわりと熱くなった。

「……ありがとう」

「明日からも、ちゃんと来いよ」

そう言って背を向けて歩き出した奏の背中が見えなくなって、ふと思った。

また失うかもしれない。

それでも。

ーー離れたくない。

そう、思った。