テレパシー ー君の音が、俺を呼ぶー

冷たい風が、頬を撫でた。
それでも、何も感じなかった。
何かを全部、置いてきてしまったみたいだった。

春になるにはまだ少し早い帰り道。
街灯の明かりが、遠く感じる。

足元に落ちる影は頼りなくて、
自分のものなのに、他人みたいだった。

ーーどうして、
こうなったんだろう。

考えたくないのに、頭から離れない。

ぐちゃぐちゃの感情を抱えたまま、
ただ、前だけを見て歩く。

下を向いたら、
涙が止まらなくなりそうで。

奥歯を噛み締める。
喉の奥が熱くなって、視界が滲んだ。

泣きたくなんてなかった。

……もう、いい。

そう思った時だった。

ーー遠くから、音がした。

優しく弾かれるギターの音色、
それに重なるように響く、
低くて繊細でまっすぐな歌声。

「……っ」

辺りを見回しても、人影はない。

誰もいないはずなのに、
ーー確かに聴こえる。

知らないはずの声。
聴いたことのないメロディ。

それなのに、
胸の奥を直接触られたみたいに、痛い。

テレパシーみたいに直接心に響いてくる。

その音全てに強く引き込まれて、
足が止まった。

懐かしいような、
抱きしめられているような、
優しい音。

頬を伝う涙の温度と一緒に、
凍りついていた心の奥が、
ゆっくりほどけていく。

ーーこのまま、消えないでほしい。

そう、強く思った。

あの夜のことを、
忘れた日なんて一度もない。