明けない夜も、君のそばにいる。

「……準備は良いですか?」
「はい」
「ああ」
 辺りは、少しずつ暗くなっていた。
 もう、夕方だ。
 もうすぐ、死ぬ。
 それは、私が……私たちが決めたことだ。
 目をつむる。
 真っ赤に燃え上がる炎をイメージする。
「わあ!」
 目の前で、炎が勢いよく燃え上がっている。
 ……これで良い。
「すごい……」
「これが、白神に代々伝わっている、特別な力……」
 感動している二人の横で、私は、ずっと炎をイメージしていた。
 もっと大きく……もっと大きく……。
 誰にも、消せないくらいの大きさに……。
「や、館が……黒宮館が燃えている……!」
 館の外にいた護衛が、館の炎に気づく。
 でも、もう遅い。
 もう、誰にも消せないくらいの大きさになっていた。
「……私は、花の間に行きます。……王と正妃さまは、鳳凰の間に行ってください。……では、さよなら」
 館を囲むように燃えている炎。
 埜瑛(のえ)王女は、一人で花の間に向かっている。
 他の王族たちや、有力な貴族には、水晶の間にいてもらっている。
 海衣(かい)さんには、黒宮館の地下室に。
 ……遥流(はる)さまの命令で。
 きっと、みんな分かっている。
 最期のときが近づいていると。
「行きましょう、遥流(はる)さま」
 護衛たちが、急いで消火しているようだけど、意味はない。
 消すことはできない。
 鳳凰の間にたどり着く。
 ああ、これで、最期か。
 そのとき、ふと思い出した。

『"ひ"に気をつけろ。愛は幸せを呼ぶが、時に不幸を運ぶ』

 "ひ"に気をつけろ、って、そういうことだったのね。
 私が……"火"の中で死ぬから。
 ……不幸を運ぶ、って、どういうことだろう?
 なにが、不幸なんだろう。
 私が、死ぬこと?
 遥流(はる)さまが、死ぬこと?
 黒宮王国が、消えること?
 私には、分からない。
 ……私が決めたことだ。
 悔いはない。
 さよなら、芹惺(せい)
 さよなら、澪音(みと)
 さよなら、父上。
「……菜花(さな)さま!」
梨恋(りこ)……」
「……私は、あの世でも、菜花(さな)さまに仕えます!」
「私も!」
成律(なつ)……」
 二人には、何も言ってなかったな……。
 と、申し訳なく思う。
「一足先に、あの世に行っていますね」
 そう言って笑った二人は、鳳凰の間を去っていく。
「……最後に、菜花(さな)さまの特別な力をもう一度見れて良かった……」
 鳳凰の間は、二人だけになった。
 もうすぐ、ここも火の海になるだろう。
「……今まで、ありがとう、菜花(さな)
「こちらこそです。ありがとうございました」
「…………真っ暗な夜の中にいた俺を救ってくれたのは、菜花(さな)だったよ」
遥流(はる)さま……」
 私たちが出会ったとき、君は闇の中にいた。
 私は、闇から逃げ出していた。
「……もうこれで、俺たちの"夜"は明けない。……明けない夜でも、俺は菜花(さな)のそばにいるから」
「……私も。ずっとそばにいます」
 明けない夜も、君のそばにいる。
 そう誓った瞬間、鳳凰の間で、炎が燃え上がった。
 ……これが、最期。
「……幸せだった。色々あったけど、菜花(さな)と会えて」
「私も、遥流(はる)さまと出会えて、幸せでした」
 待っていてね、母上、月璃(るり)さん。
 私も今、そちらに向かいます。