明けない夜も、君のそばにいる。

「あら、ごめんなさーい。手が滑ってしまって」
 遥流(はる)さまの妃になった私へも、嫌がらせはあった。
 ……もちろん、遥流(はる)さまほどは酷くない。
 白神に伝わったら、マズイからだろう。
 だったら、最初からしないでほしい。
「大丈夫?菜花(さな)さん」
「……うん、少しかかっただけだから」
 今も、使用人に水を掛けられた。
 ……少量だけど。
 これくらいなら、別に構わない。
 白神にいたときも、何度も経験したから。
「そう?なら良いけど……」
「すぐに乾くから、大丈夫だと思う」
「分かったわ。じゃあ、バルコニーに行きましょう。景色が綺麗なの」
 月璃(るり)さんには、白神でのことは、全く話していない。
 話そうとは思わない。
 せっかく黒宮に来たのだから、もう白神のことは忘れたい。
 ……でも、自分でも分かっている。
 "あの封印"は、確実に甘くなっている。
 このままいくと、封印は解けてしまうだろう。
 白神に戻っても、もう遅いかもしれない。
 母がかけてくれた"魔法"が、いつか解けてしまうことは分かっていた。
「どうしたの?」
 分かっている。
 ……私は、数百年に一度生まれる特別な子だった。
 花を咲かせることができた。
 ものを浮かせることができた。
 雨を降らせることができた。
 それに気づいた母は、その力を封印した。
 その力は、皇帝の立場を揺るがすものになる可能性があるから。
 ずっと昔に、白神の血に流れる"特別な何か"はなくなってしまった。
 多分、誰かが封印した。
 でも、それでも、完全に封印することはできなかった。
 ……数百年に一度、白神から生まれる子どもの中に、特別な力を持つ子が生まれる――。
「ううん。なんでもないよ」
 とても強い力の持ち主でも、完全に封印することができないほどの、力の持ち主。
 そういう人が、生まれる。
 ……もし、抑えきれなくなったら、どうしよう……。
 母に、特別な力があったわけではない。
 ただ、封印することはできたそうだ。
 ……期限付きだけど。
 でも、母は、私にその期限を伝える前に、この世を去ってしまった。
 白神の地を離れると、その封印の力は弱くなる……。
 私には、そのことだけを伝えて。