この恋の続きは頭痛のあとで

やばい、変な態度を取ってしまった。
振り返ってもありえない、なんだあの態度は。
時間を戻せるなら発言を取り消したい、だってあれは…

“なんだそれ、ヤキモチか?”

図星だぁ~~~~~…っ!
言われてドキッとしたどころじゃない、ドカンッてでっかいハンマーで叩かれたみたいな衝撃波だった。
わかってたけど、認めたくなくて。
気付かないフリをしてたんだ、でもたぶんもう限界だ…

好きなんだ、九重先輩のこと。

いや~~~っ、だとしてもない!ありえない!!
何言ってるんだ、俺は…!?

「藍士、大丈夫か?」

教室だってことも忘れて頭を抱えてブンブンと振ってた。マジで普通だったらありえない、頭痛の大敵だ。

「元気か?」
「…うん、元気」

でも頭痛はしてなくて体的には元気だ、今問題なのはそこじゃないから。そこじゃなくて…

「で、呼んでるけど?九重先輩が」

ガタッと勢いよく立ち上がってしまった、今のはドキッて心臓が声を出したのが行動に出ちゃったパターン。

「言って!早く!もっと!!」
「言おうかと思ったけどそれどころじゃなさそーだったじゃん」
「気遣ってくれてありがとう!」

ドアの方を見たら九重先輩が立っていてすぐに廊下に出た。
目立つんだよ、この人目立つからあんま教室来ないでほしい…あと今はどんな顔したらいいかわからなくて。

「な、なんですか…?」

びくびくしながら九重先輩の顔色を伺うように廊下をのぞいた。
もしかして怒ってる?怒りに来てる?
俺が変な態度取ったからー…っ

「タオル」

タオル…?って、なに…
あーっ!忘れてた!借りたタオルそのまま持ち帰って…っ

「すみません明日持って来ます!!」

昨日はそれどころじゃなくて持ち帰ってしまった、タオルを返しに行ったはずなのにタオルのことなんか忘れて。

「すみません」
「……。」
「…。」

がばっと頭を下げたはいいけど何も返事が来なくて、じっと見られてる視線だけは感じてた。壁に寄りかかりながら腕を組んでじーっと見てくる視線が痛い。
これだけじゃダメだったのか?謝るだけじゃ…

「…あの、まだ他に何かありましたか?」

ゆーっくり顔を上げる、ドクンドクン胸が鳴って飛び出そうになる。
そんな怒らせたのか?いや、あの態度はよくなかったしタオルまで持ち帰って落ち度しかないけどそんなに怒らなくても…と思いながら九重先輩の顔を見れば一切逸らさず俺の顔を見てた。

「どんな顔してんのかなって見に来ただけ」

………え?どんな顔してんのかなって…

「?」

あっ、あれか!
あぁぁぁ~~~…っ、あれだっ!
待って恥ずかしい、すげぇ恥ずかしい!!
バレてるから九重先輩には、もうバレてて…っ
めっちゃくちゃ喋りづらい、あわてふためく俺の顔を見て九重先輩はふって笑ってるし。それがまた顔を熱くさせる。

「授業始まる、タオルはいつでもいい」

それだけ言い残して去って行った、顔を赤らめる俺を見てもう一度笑って。

「…っ」

な、何も言えない。何を言っても間違える気しかしない。
てか九重先輩はどう思ってんの?俺のあの発言を聞いて、どう思った…?

九重先輩は俺のこと、どう思ってんの?

「とか普通に聞けるわけない」

そんな恥ずかしいこと面と向かって言えるわけない、ただでさえ今何も言えないのにそんな直球に聞けるわけねぇよ。
九重先輩と話すのも気まずいし、植物室に行くのも…
でもタオルは返さなきゃな、洗ってあるし明日それは返さないと。
どうやって返そう?会いづら過ぎる~…

「あ、ちょっと君!」

トイレに行こうかなって廊下を歩いてたら呼び止められた、というか前の方から呼ばれたけどそれって俺?
俺しかいないから俺なんだろうけど、誰だ…
目を凝らしてみると男の先生がおーいと俺に手を振っていた、とりあえず駆け寄ってくる先生を待つように立ち止まってみたけど誰なのか見覚えが…あ、先生!陸上部の先生だ!!

「九重の友達!」
「えっ」

それはよくわからないけど、でも否定するのもあれだなと思ってなんとなくそれっぽい顔をしといた。わざわざ呼び止めたから何か言いたいことでもあるのかなって。

「九重から聞いた?」
「何をですか?」
「部活、復帰したこと!」
「あ、はい!聞きました!」

こないだの曇りがちの表情から今日はにこやかで口角も上がっていた。声もワントーン高いように思えて先生的にもやっぱ嬉しいのかなって、そんな気持ちが伝わってくる。
九重先輩のこと気にしてたし、最近は部活だけじゃなくて授業も出てるっぽいし、それはよかったなって俺も…

「君のおかげかと思って」
「え?」

ハタッと先生の方を見てしまった。たぶん、そんな大それたことはしてない。

「ありがとう」

だからお礼なんて言われるあれもないんだけど。あまりに先生が仏のように笑うから、愛想笑いで返してしまった。

「よかったよ、戻って来てくれて」

ひとつ、気になることがあったから。
九重先輩には言えなかったけど…走るだけじゃないって言った手前それでいいのかなって、思ってた。

「これで少しは、変わっていくかな」

だって九重先輩は陸上部。
競技はいろいろあるし、準備とか用意とかもあるだろうけどそれは本当に…

「いいんですか?」
「え?」
「走れなくてもいいんですか?」
「……。」
「いや、あのっ…走れない九重先輩がどうのとかじゃなくて!嫌な思いとかあの…っ」

陸上部なのに、それでいいのかなってずっと思ってた。
もし俺の言葉で九重先輩が部活に復帰する気になったなら尚さら、何気なく言った俺のせいで九重先輩がまた傷付いたりしないかなって…
だから嬉しいけど、部活に復帰して嬉しいけど、不安もあって。
九重先輩には言えなかった、聞けなかったから…

「先生はいいと思うよ」

ほんの少し口角を上げて、穏やかな瞳で俺の顔を見てた。

「それは受け入れるしかないからね」

受け入れるしかない…?
先生からそんなこと言われると思わなくて、少しだけ目に力が入った。

「もちろんね、上手くいかないことも多くて悔しい思いもするとは思うんだ」

九重先輩が陸上部を諦めなかったのはなんでだろう、それはやっぱり走りたかったからじゃないかって思う。

「それでも戻って来てくれたこと嬉しいし、九重にとっても大きいと思う」

ちょっと出ればいい体育祭とは違って、毎日向き合ってる部活なんだ。それで辛くなったりとか、悲しい思いとか切なく感じたりとか、それで…

「だからよかったよ」

よかったのかな?
俺にはよくわからなくて、走れない俺にはわからない。
走りたくても走れない、その気持ちは俺にだってあるけど九重先輩の抱えてる思いは俺より遥かに大きくて。


****


「……。」

それはさておき、まずはタオルを返しに行かなくちゃってことで。
植物室に行く前からドキドキする胸をさすさすとなでなから息を整える、絶対取り乱さないあわあわしないキリッとした顔で…とてもタオルを返すだけとは思えない意気込みで植物室へ続く廊下を歩いた。
別に普通に返すだけだし、あのことは1回忘れてとりあえず忘れてタオルのことだけ考えて…

「!」

勝手に視線が持ってかれる、それはもはや癖でここを通る時は必ず見ていたから。
惹かれるように見ては思いを馳せるみたいに…だけど思わず立ち止まってしまった、どこにも見当たらなかったからあのポスターが。

「…っ」

ダッと駆け出した、走ったら頭痛がとか廊下は走っちゃいけないとかわかってたけどそんなこと関係なしに思いっきり足を踏み込んで廊下を駆け抜けた。
居てもたっても居られなくて、どうしても気になって聞きたくて、だって俺はまだ…っ

「九重先輩…!」

勢いよく植物室へ飛び込んだ。はぁはぁと息を切らして、体育祭の時よりも断然走ってた。

「緑化委員募集のポスター…っ、なくなってたんですけど!」

剥がされてた、いつもあったのに。
毎日確認してたのに、今日はなかった。
九重先輩はジョウロで水やりをしてた。焦る俺のことなんか見てなくて、ゆっくりゆっくり水をあげてた。

「ポスターもうなくて、あの…っ」
「募集してない」
「え…?」
「もういらない」

サラサラサラとジョウロから出る水は静かで、上がった息は煩わしくて。冷静に聞きたいのに、ドクンドクン締め付けてくる胸が邪魔して声が震える。

「な、なんでですか…?」

手に持ったタオルをぎゅっと握りしめた。
いつでもあると思ってた、いつだって言えると思ってた、でもいざ目の前にしたら何も言えなくて…

「あれ貼ってるとめんどくさいんだよ」

はぁーっと息を吐いた九重先輩が手を止めた。

「毎日、毎日、入りたいって奴が押しかけて来てめんどくせぇ」

かったるそうに目を細めて少し上を見た、うんざりしたような顔をして天を仰いだ。

「だったら募集やめるかって」

はぁっと不快なタメ息は九重先輩の気持ちが詰まってるみたいだった。
ひとこと言うだけだったのに、それだけだったのに…いつだって面と向かったら言えないことばかりで。

本当はずっと緑化委員会に入りたかったー…

「藍士以外」

スッと視線が向けられる。一瞬時間が止まったみたいな空間で、九重先輩と目を合わせた。

「いつ入るんだよ」

真っ直ぐ俺を見てる瞳はさっきまでとは違う、どこかやさしくてどこか困った様子で。
トクンッと胸が鳴る。胸が痛い、でも苦しいわけでも重たいわけでもない心地よくて気持ちいい。

「緑化委員会、入ってもいいですか?」

九重先輩が持っていたジョウロを置いた。ほんのり微笑んで、ふっと声を漏らして笑う。

“だって緑化委員募集してたのって1人じゃ寂しかったからですよね?”

「寂しいだろ、1人は」

どんな顔したらいいのかわかんなかったけど、どれだけ悩んでも思い通りになんかいかなくて。
今だって泣きそうな顔で九重先輩のタオル握りしめちゃってるし、それはやっぱり恥ずかしくてしょうがないけど…
九重先輩が笑ってるから、嬉しそうに笑ってるから。まぁ俺も笑っておこうかなって。

「じゃ、これ」
「なんですか?これ…」
「委員会入会希望届け」
「え、こんなのいるんですか?」
「書かないとうるさいんだよ」
「…勝手に始めた委員会ですもんね」

渡された紙を見れば名前とかクラスとははもちろん、理由もあった。
なんか部活みたいだな、先生たちの苦労が目に見えなくもない入会届って感じする。つーかなるべく規模大きくするなよ感もあるけど、いいのか?…まぁいいか。
それは俺の責任じゃないかと思ってガーデンテーブルの上に入会届を置いてシャーペンを持った。まずはクラスと名前と…

「生徒番号もいるんですね」
「めんどくせぇ」
「把握するにはいりますよね」

生徒番号なんてあんまり使わないから覚えてなくて、胸元のポケットから生徒手帳を取り出して確認しようと思った。
そもそも生徒手帳もあんまり使わなくて久しぶりだった、何気なく開いた瞬間ヒラッと1枚の紙切れが舞って即座に思い出したけど。

「何だ?」
「あ、それは…!」

やばい、俺より先に九重先輩のが気付いてしまった。
拾われたくなかった、見られなくなかった、まだ持ってるとかー…!

「“頑張れ”」

声に出して読まないでほしい!!!

「これ俺が書いた…」

バレた、まだ持ってたこと。
体育祭出場テストの時、九重先輩が水筒と一緒に下駄箱に入れてくれた手紙を…こっそり生徒手帳に挟んで持ってたとかっ
うわぁぁぁ~~~…っ!
心の中で叫んで頭を抱えた。
これは絶対に秘密にしようと思ってたのに、俺だけの秘密でおいとこうと思ってたのに…
だってまたバカにされて笑われるんじゃないかと思うとっ

「……。」
「…。」
「…。」
「あの…?」

何も言われないのも逆に辛かった。微動だにしないでじーっとメモを見つめてるから。
せめて何か言ってほしい、まだ持ってるのかとか字フェチとか何でもいいから言って…

「これ」
「はい!すみません!」
「何?」
「えっ、何って…九重先輩にもらったメモですけど」
「見りゃわかる」

今度は俺の顔をじーっと見てる、そんな見られたらだらだらと嫌な汗が流れてくるんだけど。
でも今何を聞かれてるのかわかっちゃって、九重先輩の顔を見たら何を考えてるのかわかっちゃって。

「これ持ってるとがんばれる気がするんです、…いろいろ」

九重先輩先輩の手からメモをスッと取って見る。
もう何度こうして見たかわからない、本当は。手に取っては見てを繰り返して、たまにふっと笑ってみたりとか…それだけでがんばろうって思えて。

「お守りみたいな…そんな感じ、です」

言いたくなかったけど、こんなこと恥ずかしくて言いたくなかったけど。
だって何言ってるんだって言われそうだし、すごい引いた目で見て…

―ビリッ

「え?」

突然、植物日誌を開いたと思ったら破り始めた。しかも超テキトーに端っこを切り離して入会届の上に置いた。
は、何これ…?

「藍士も」
「え?何をですか?」
「これ」
「いや、だから何を…」

俺の持ってたメモを指を差した。九重先輩の“頑張れ”の文字を、トンッと。

「なんでっ」
「そういえば見たことねぇな、藍士の字」
「俺別に上手くないんですよ!」

字には自信がない。いや、運動もないし勉強もさほどないけど。

「九重先輩の字だから成り立ってるんですよ!」

キレイで狂いがないから、俺が書いたとこでただの落書きに過ぎない。ノートの切れ端に書いたらなおさらただのゴミだよ、マジで。

「部活なんだよ、今から」

少しだけ目を伏せた、もの憂げに切れ端を見つめながら。
今、何を思ったんだろう。何を考えたんだろう。
いつも強引な九重先輩が、遠慮がちに口を開いたから。

“それは受け入れるしかないからね”

聞いていいの迷って。

“上手くいかないことも多くて悔しい思いもするとは思うんだ”

俺にはわからないことだから。
でも九重先輩のこと、わかりたいって思う。

九重先輩のことを知りたくてー…

「…部活、楽しいですか?」

目は見れなかった、だからまだ何も書いてない紙切れを見たまま。

「つらくないですか?」

それは本当によかったのかなって、俺が余計なこと言っちゃったんじゃないかって。

もし俺が九重先輩を苦しめてたりしたらー…

「あの頃も楽しいと思ってねぇし」
「へ?」

ケッは吐き捨てるように言われたから思わず変な声出しちゃったじゃないか。俺は超ドキドキしてたのに、言ってもいいかなってヒヤヒヤしてたのに。

「記録ばっか求めんのも疲れんだよ」

ほら来た、やっぱり。俺には言えないセリフなんだよ。そんなこと思ったことないし、思えないし。

「周りの期待とかそうゆうの背負って走るのが俺の価値だった」

ガーデンテーブルに腰掛けるようにもたれかかった、遠くを見るような瞳はもの寂しくて。

「今はそれがないだけだ」

誰かに期待されるってすごいことだと思う、だけど誰かに価値を決められるものでもないと思う。
九重先輩はそんな気持ちで走って来たんだ、ずっと。

じゃあ今は?今はどんな気持ちで走ってるんだろう…

「楽しい」

九重先輩がこっちを向いたから自然と顔を合わせることになった。

「好きに走れるからな」

ためらいのない瞳は前しか見ていなかった、俺の方が怯みそうになるぐらい。

「全く走れないわけじゃねぇし、“あの頃”みたいに走れないだけで」

そんな風に思えるようになるにはきっと、時間がかかったと思う。そんな簡単に思えないよ、いっぱい悩んで苦しんでやっと九重先輩が見つけた答えで。
やっぱり俺にはわからないことだよ、どうしたらそんな風に出来るのかなって。

「見てけよ」


頭の中で考えるばっかりで。


****


で、言われたからグラウンドに来てみた。
ギャラリーの女子がいっぱいいるんだけど、あれ絶対九重先輩目当てだよな?キャーキャー言ってるの絶対そうじゃないの!?

「あの、九重先輩…っ」

すげぇー居づらくてジャージに着替えた九重先輩を捕まえた。

「俺ここにいていいですか?場違いなような…」

チラッと女子たちの方を見て訴えるように、女子たちからしてもどーなの?って感じだしそれこそどんな顔で見ればいいのかわからない。
意味なくドキドキするし、そもそもグラウンドは俺にとってアウェイなんだよ。

「……。」
「え、九重先輩?」

目を細めて睨まれた。
あ、なんか久しぶりだ。この目つき、久しぶり。
いや、なんでそんな目で見られてんの?

「俺は藍士に見てほしいんだよ!」
「…っ」

わ、わぁぁーーーーーっ
ボンッと顔が赤くなる、マジで叫びそうになったとこを耐えた。
ハッキリ言われるとこっちが照れるし、しかもそんなイラッとした顔で言われてもっ

「わかったか!」
「…。」

かぁ~っと赤らめていく頬はすぐには収まりそうにない、強引に押し切られて返事も出来なかった。
いや、見たいけど見たい気持ちはあるんだけど…それより恥ずかしさが沸点超えてるんだってば!

「行く」
「あ、待って九重先輩…!」
「まだあんのかよっ」

でもそろそろ怒られかねないので…もう怒ってるけど、これ以上は何も言わないようにと思ったけど渡したいものがあったから。

「これ」
「なんだ?」

ノートの切れ端。九重先輩が植物日誌を破ったあれ、を半分に折ったやつ。

「メモ…?」
「あ、待ってください!今見ないでください!」

開こうとした九重先輩の手をぎゅっと押さえて止めた。

「あとで…あとから見てください、書いたんで」

絶対開かれないようにぐーっと力を入れて、九重先輩の手の中にしまい込んだ。

「…走り終わった後、見てください」

咄嗟に握ってしまった九重先輩の手が熱くて、でもそれ以上に自分の手が熱いからこのドキドキが伝わっちゃうかと思った。
顔を上げられなくて、ゆっくりと手を離した。

「じゃ…そこで見てます、から」

と、ぺこりと頭を下げてその場から離れた。女子たちの隣で見るのはやっぱりちょっと気になったから、少しだけ離れたところで。
でもここからでも見えるし、ちゃんと九重先輩が走ってる姿は…

「……。」

そんな顔して走るんだ。

へぇ、そんな顔して…いいなぁって思っちゃったんだ。
いい顔してるなぁって、偉そうかもしれないけどそんな九重先輩が見られてよかったなって思った。
金色の髪が揺れる、キラキラ眩しくて。
あの感じで真面目に部活やってるとかちょっと笑っちゃたりして。
だから次は、今度は…俺もがんばりたいなって、思った。

「おい、藍士!」
「はいいいっ」

思った、んだけどなぁ…

「これどうゆうつもりだよ!?」

今状況を言えば校舎裏のちょっとした木陰で九重先輩に壁ドンされてる、非常に理解しにくい状態です。

「どうゆうって、それは…っ」

なぜこんな状況かといえば部活が終わるまで待ってたら突然血相を変えた九重先輩がすごい勢いで走って向かって来たから、あまりの恐怖に逃げ出すも逃げられるはずなんかなく捕まって今これ。
ぐいぐいと壁に迫って来てさらに逃げ場はない。

「これはどうゆうつもりだって言ってんだよ!」

これでもかってぐらい吊り上げた眉と睨みを利かせた瞳に怯えていると九重先輩がさっきの紙切れを俺に見せて来た。

「“伝えたいことがあります”ってなんだよ!?」

いや、声!声大きい!!
さらにガンッと睨みつけて、たぶん傍から見たらカツアゲかなんか。これ以上動くことなんか出来ないけどめいっぱい壁に背中をくっ付けた。

「それは、あの…伝えたいことがあったので…そのまま、書きました」
「ふざけんなよっ!」
「すみません!」

しゃんっと背筋が伸びる、どこに怒られてるのかよくわかんないけどだいぶご立腹っぽい。何かを間違えたらしい、俺的には素直に書いたつもりだったんだけど何かよくなかったらしい。

「お前期待させやがって…っ」

さらに顔をゆがめて、ギリッと下唇を噛む。
ギリギリと迫ってマジでどんな状況なんだこれは。

「何を!?何の期待ですか!?」
「期待するだろーがっ!」
「いや、だから何っ」
「メモに宣言を書くな内容を書け!」
「すみませんっ」

やばい怖過ぎる、壁に穴が開くんじゃないかってぐらい手を押し付けくる。
何度謝ればいいんだろう、でもこの状況謝るくらいしか…
でもどうしてそう書いたかってちゃんと言おうと思ったからで、九重先輩の前で言おうと思ったから。

俺は九重先輩のことが…

「好きだ」

好きです、って言おうと思ったのに。

「え…?」

見上げた、さっきまで見れなかった目を見るように。
今、なんて言いました?好きって…

「って書いてあると思うだろーがっ」
「す、すみません…!」

あ、また謝ってしまった。
だってすごい怒りながら言ってくるんだもん、超目が怖いんだもん!

「こんなん渡されたら浮かれるに決まってるだろーがっ」

ぐいっとメモを前に出された。九重先輩が持つ手には力が入ってた。
てか待って、浮かれる?え、浮かれる…?

「九重先輩も浮かれるとかあるんですか?」
「浮かれまくったわ!あのタイミングと渡し方はそうだと思うだろ!?」

くいっと吊り上がった眉でギャンギャン吠えるみたいに、でもそれよりも俺の心臓の音は大きく響いてた。ドキドキが体中をめぐって、あまりに近い九重先輩との距離に上手く息が出来なくて。

「藍士が好きだ」

真っ直ぐ見られた九重先輩の瞳の中には俺しか映ってなかったから。

「九重先輩…っ!」

思わず抱き着いた、胸の中に飛び込むように。
少し顔を上げれば九重先輩がいて、九重先輩の息がかかる。
ゆっくり目を閉じた、ドキドキに支配されるまま目の前のキラキラが眩しくて。
今にも飛び出そうな心臓が息をするたび音を出す、ぐるぐると頭の中で回ってぎゅーっと頭が締め付けられ…

「頭がっ、やばいです…!」
「はぁ!?」


****


クラッと視界が消えたら最後、気付けばいつもの植物室に来てた。正確には運ばれてた。

「すみません」

これは本当にすみません以外ない。

「貧弱」
「…すみません」
「いいとこだっただろ」
「いいとこって何ですか!?」
「わかってるくせに」

ニヤッと笑いながら俺の前にティーカップを置いた。コティーポットから注がれたハーブティーの香りがふわふわと漂ってくる。

「…走ったから、全速力で…だから頭痛が、して」

しかも日陰とはいえ夏のグラウンドは見てるだけで熱い、よく見てたよ。見てたかったんだけど。それに…

「あと、ドキドキし過ぎて…っ」

かぁ~っとまた顔を赤くしてしまった、自分で言ってて恥ずかしい何言ってるんだって恥ずかしい。
ドキドキすると気持ちが高揚しちゃうから頭痛もしやすくてよくないのもわかってるけど…

「いいんじゃねぇの」
「え?」
「それが藍士だろ」

足を組んで座った九重先輩が一口ハーブティーを飲んだ。そんなこと言われたらもっと顔がやばいんだけど。
ささっと前髪を触ってわざと顔を隠して、下を見たまま出されたティーカップを手に持った。

「その方が助かるし」
「助かる?助かるってなんですか?」

ふわーっと香るハーブティーを、一口飲もうと口につける。

「生きてけないんだろ、俺がいないと」

ぶはっ、と思いっきり吹いてしまった。飲もうとしたハーブティー飛んでった。

「げっほ、ごっほ…っ」

変なとこ入ってた。
しかも違うし、そんなことは言ってないし!

「ハーブティーです!先輩の作るハーブティーが…っ」

って、言ったところで変わんないけど。
嬉しそうにニヤニヤしてるもん、九重先輩は。あわてる俺を見て楽しそうに。

「藍士だけだ、これ飲めるのは」

こぼしたハーブティーをタオルで拭いてると九重先輩が入れ直してくれた。ティーポットから注がれるハーブティーはスッキリ爽やかで。

「ヤキモチ妬くからな」
「それは…っ」

ニヤッとほくそ笑む顔がなんとも言えない。
確実にわざとだ、ニヤニヤしちゃってこの人本当に…!

「だからいい加減言えよ」

テーブルに肘をついて顎を乗せて、くすっと微笑みながら俺の方を見て。
面と向かって言うのは緊張する、上手く言えないし何を言ったらいいかわからないし。
でも、言わなきゃわからない。
というか、言いたい。もう逃げられないし。

「好きです、九重先輩のこと」