「席替えするぞー」
担任の言葉に、ざわめく教室。
ガヤガヤと色んな声が飛び交う中、
俺は一瞬、心臓が止まったみたいに息を止めた。
”前に座れば当てられにくい"
少し前の朔の言葉が頭をよぎる。
移動の紙が回ってきて、祈るみたいな気持ちで紙を開いた。
二列目、窓側。
まさか……前?
二年になってから二度目の席替え。
前になったのは初めてだった。
クラス中で一斉に席移動がはじまり、俺も少し同様しながら新しい座席に鞄を置こうとした時、
隣の席の椅子の脚が引かれる音がした。
「よろしく、橘」
聞き覚えのある、低い声。
一瞬、呼吸を忘れた。
ゆっくり顔をあげると、隣に朔がいた。
「……は?」
思わず微かに声が漏れる。
朔は気にせず椅子に座った。
「橘、くじ運いいな」
そう言って目を細めながら、ははっと笑った。
黒板が近い。
先生が近い。
……そして隣には、朔。
色んな意味で逃げ場が無い。
「……お、お前、後ろじゃなかった?」
朔は過去二回俺より後ろの席だった。
「いつもはそうだけど、たまには前も悪くないな」
少しいたずらっぽく微笑む朔と目が合う。
一瞬、逃げたいと思った。
でも逸らす前に、朔が言った。
「言っただろ」
ほんの少しだけ肩を寄せてくる。
「前の方がいいって。……俺のおかげだな。」
さらっと、冗談ぽく微笑んだ。
あの日の朔の言葉再び蘇ってきて、鼓動が早くなった。
偶然だって分かってるのに、
そう思えない自分がいる。
そしてまた、猫ノートに書き込まれていた、
《あんたも。》が、何故か一瞬、重なった。
「べ……別に、お前が言ったからとかじゃなくて、ぐ、偶然だろ」
強がるみたいに言うと、朔は小さく笑った。
「だよな、知ってる」
余裕みたいな笑い。
黒白が昨日俺に見せた目と、どこか似ている気がした。
慣れない席は、いつも緊張するはずなのに、
隣にいる朔の気配に、なぜか少しだけ呼吸が整う。
ーー逃げられないのに、怖くない。
