ーーガラッ
正面玄関の引き戸が開く音がすると、
僕はその度に耳を済ませる。
この足音は、きっと。
「ハル〜!」
ーー今日もおやつの時間だ。
最近はご飯じゃなくて、
おやつをくれる、あの子たち。
「あっ朔、今日は俺があげる日」
「はー?昨日も紬があげてたろ」
こんなやりとりもいつもの事。
並んで座って、
同じ方を見て、
たまに、目を合わせて笑う。
最初は、
こんなふうに近くにいることもなかったのに。
人の気持ちは、よく分からない。
ひび割れた地面の上。
冷たい風と、
やわらかい光が落ちるあの場所で
ーーあの子たちに出会った。
あの子たちは、
最初からどこか似ていた。
触れそうで、触れない距離。
でも、本当はずっと、
同じところを見ているような目をしていた。
昨日、少し不思議な夢を見た。
知らない場所。
騒がしい音。
たくさんの人の匂い。
その中に、
あの子がいた。
大きな、ふわふわしたものに包まれて、
苦しそうにしてた。
そしてそのまま、
ふらり、と揺れてーー
倒れた。
そこに駆け寄る、もう一人のあの子。
迷いがない足取りで、まっすぐに。
しゃがみこんで、
必死に声をかけていた。
「大丈夫ですか」
って、何度も何度も。
そして安全なところまで、
一生懸命運んでた。
やがて、
倒れたあの子が目を開ける。
でも、きっと覚えていない。
助けてくれた人の腕も、声も。
夢は、そこで途切れた。
目を開けると、
駄菓子の匂いと、
窓から差し込む暖かい光があった。
そして——
目の前には、
並んで座る、あの子たち。
昨日見た夢と同じ、二人。
あの子たちは、
きっと知らない。
あの日のことも、
その意味も。
ーー僕だけが知っていること。
窓の隙間から、
やわらかい風が吹いて、
春の匂いがした。
ふと、自分の名前を思い出す。
僕はこの季節に生まれた。
あの子たちの"はじまり"
そして、
僕の"はじまり"
ーーハル
僕はこの名前が好きだ。
「にゃあ」
差し出された手に、
自然と体を寄せる。
優しく撫でられるこの時間も、
大好きだ。
あの子たちはきっと、
これからも同じように笑っていく。
ーーーー
ーーガラッ
「ハルー!今日は、昨日より豪華なおやつ持ってきたよ」
「あっおい、それは俺があげるやつだ」
「だめ!朔はこっち!」
「ちょっ、おい」
「にゃあ」
「ハルは、本当かわいいね」
「だろ?こいつは、俺にも懐いてるし」
ーー春は、まだ続いている。
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最後まで読んでくださって本当にありがとうございました。
また別のお話でお会いできたら嬉しいです。
現在、新作『テレパシー ー君の声だけ、頭から離れないー』を更新中です。

