二列目、窓側、君のとなり〜猫とノートと、君の声〜

ーー放課後は、朔と二人でハルに会いに行くのが日課になっていた。

駄菓子屋を出て、いつもと同じ帰り道。

「紬、今日はバイト休みだろ?」

「あ、うん。朔もでしょ?」

「おう!だからさ、もう少し一緒にいたいんだけど、ダメか?」

……ダメなわけ、ない。

「うん…俺もまだ一緒にいたい」

そのまま歩き出して、
自然と足が向いたのはーー

いつもの駐車場だった。

ひび割れたアスファルト。
植え込みの端。
ハルを見つけた場所。
全部始まった場所。

ここに来ると…

「色々思い出すな」

ぽつりと声が漏れる。

隣で朔が小さくクスッと笑った。

「紬、最初全然話さなかったな」

「朔が無愛想だったからじゃないの?」

「は?それは俺のセリフ」

何気ないやり取りが、
すごく心地いい。

ふっと笑い合って、
そのまま会話が途切れた。

ただ一緒に夕焼けを見つめる、
沈黙の時間。

隣に居る朔の気配が、
いつもよりもずっと近くに感じた。

ふと、視線がぶつかる。

逸らすことができないまま、
風の音だけが聞こえてくる。

ーーゆっくりと、
朔の顔が近づくにつれて、
鼓動が速くなっていく。

……キス。

そう思った瞬間。

あと、ほんの少しの距離で、
朔がぴたり、と止まった。

「……えっ?」

思わず声が漏れた。

理解が追いつていない俺を見て、
小さく笑う朔。

「……期待した?」

すっと距離が離れて、
じわじわと、胸の奥が冷えていく。

さっきまですぐそこにあったはずの距離が、嘘みたいに遠くなった気がした。

……なんなの。

「今の…なに?」

気付いたら、声が出ていた。

朔はただ黙って、
少しだけ眉を動かした。

込み上げてくる不安を、止めることが出来なかった。

「俺たちって…なに?」

「好きって言ったし、この前はキスも…した」

だんだん声が強くなっていく。
止めようとしても、言葉は止まらない。

「今だって…俺は、朔と…」

「俺たちって付き合ってるの?
…朔にとって、俺ってなに?」

「俺だけ…
こんなに好きみたいじゃん…」

「……っ」

言い終えた頃には、涙が溢れていた。

「……はぁ」

朔は大きくため息をついて、
頭を抱えてしゃがみこんだ。

「俺だってさ…余裕ねぇんだわ」

低く落ちた声でそう言うと、
立ち上がって俺の涙を優しく拭った。

「これ以上、近づいたら多分止めれねぇんだよ」

「…だから、ちょっとくらい余裕あるフリしないとって、必死なわけ」

朔のその言葉に、
さっきまで冷えかけていた温度が
少しづつ戻ってくる。

ーーでも。
なんだよ、それ。

「……朔の、バカ…ちゃんと言ってよ」

「俺、不安になるから」

小さく呟くと、
朔は俺の頭を優しく撫でた。

「…ごめんな」

優しい声に顔をあげた。
言葉が出てこなくて、
ただ見つめることしか出来なかった。

そんな俺を見て、

「ほら、また顔赤い」

イタズラに笑ったその目は、
すごく優しかった。

「もう…不安になるな」

「付き合ってるに決まってるだろ」

そう言って、
ーー俺の唇にそっと唇を重ねた。

さっきとは違う、
一瞬だけど、ちゃんと触れるキス。

心臓がぎゅっと、
優しく音を立てた。

「これ以上は、まじで止まんねーから」

そう言って俺の頭に、ぽんっと手を置いた。

そして、
そのまま手を引かれる。

「そろそろ、帰るか」

「……うん」

繋がれた手は、
さっきよりも強くて。

本当はもっと朔に触れてほしいと、
強く思った。

次は…きっと。

そんな気持ちで、
朔の手をぎゅっと握り返した。


ーーー

クラス替えまで、あと一ヶ月。

不安は、消えたわけじゃない。

でも。

この手がある限り、きっと大丈夫。

ーーそう、思えた。

この先がどうなるかなんて、
まだ分からない。

ただーー
次の春も、朔の隣にいたい。