***
黒白に出会ってから、授業が終わるとまっすぐ駐車場へ向かうようになった。
最初は確認するだけのつもりだった。
でも気づけば、それが一日の区切りになっていた。
植え込みの影に黒と白が見えるとほっとして、いなければ少しだけ胸がざわついた。
それだけでいいと思っていた。
——先に誰かが来ていた日までは。
「……あれ?」
地面に、見覚えのない空き缶。
少し湿った餌の跡。
黒白は満足そうに前足を舐めている。
安心と同時に、胸の奥が静かにざわついた。
俺以外にも、この猫を気にしている人がいる?
周囲を見ても誰もいない。
夕方の駐車場は静かで、車の影だけが伸びている。
一瞬、誰かに見られているような気がしたけど、すぐにそんなわけないと思い直す。
……気のせい?
いや、そんなはずない。
その日から、痕跡は続いた。
「共有できたら、いいのに……」
でも、知らない誰かを待って、顔を合わせるなんて。
……俺には、できない。
「……でも」
書くことなら、できる。
思い立ったように、駄菓子屋へ走った。
「今日は、猫缶三つかい?」
おばあちゃんが俺を見て笑った。
「……あと、ノートって、ありますか?」
猫缶と一緒に、小さなリングノートを買った。
そして、ペンを持つ手を少し震わせながら、黒白の様子を書き記した。
────
《◯月◯日 18:20
黒白、完食。元気そう。
昨日より少し目やにあり。要観察。》
────
「これだけじゃ……だめか」
少し迷って、下に付け足した。
────
《もし餌をあげている方がいたら、量や時間、猫の様子などを書いていただけると助かります。
食べすぎ防止と体調管理のために、共有できたら嬉しいです。》
────
「……よし」
名前は書かなかった。
ただ、その端に小さく、
《〇〇高校、二年》とだけ記した。
餌やりの時間と、駐車場の場所を考えると、きっと同じ高校の誰かだろう。
そんな気がしたから。
ノートを閉じて植え込みの影にそっと置くと、黒白が不思議そうにこちらを見ていた。
「……頼んだぞ」
小さく呟くと、黒白は小さく口をあけて、目を細めた。
誰かが読むかもしれない。
返事があるかもしれない。
それが少しだけ怖かったけど、楽しみだった。
夕焼けが、ノートの白い表紙を淡く染めていた。
黒白に出会ってから、授業が終わるとまっすぐ駐車場へ向かうようになった。
最初は確認するだけのつもりだった。
でも気づけば、それが一日の区切りになっていた。
植え込みの影に黒と白が見えるとほっとして、いなければ少しだけ胸がざわついた。
それだけでいいと思っていた。
——先に誰かが来ていた日までは。
「……あれ?」
地面に、見覚えのない空き缶。
少し湿った餌の跡。
黒白は満足そうに前足を舐めている。
安心と同時に、胸の奥が静かにざわついた。
俺以外にも、この猫を気にしている人がいる?
周囲を見ても誰もいない。
夕方の駐車場は静かで、車の影だけが伸びている。
一瞬、誰かに見られているような気がしたけど、すぐにそんなわけないと思い直す。
……気のせい?
いや、そんなはずない。
その日から、痕跡は続いた。
「共有できたら、いいのに……」
でも、知らない誰かを待って、顔を合わせるなんて。
……俺には、できない。
「……でも」
書くことなら、できる。
思い立ったように、駄菓子屋へ走った。
「今日は、猫缶三つかい?」
おばあちゃんが俺を見て笑った。
「……あと、ノートって、ありますか?」
猫缶と一緒に、小さなリングノートを買った。
そして、ペンを持つ手を少し震わせながら、黒白の様子を書き記した。
────
《◯月◯日 18:20
黒白、完食。元気そう。
昨日より少し目やにあり。要観察。》
────
「これだけじゃ……だめか」
少し迷って、下に付け足した。
────
《もし餌をあげている方がいたら、量や時間、猫の様子などを書いていただけると助かります。
食べすぎ防止と体調管理のために、共有できたら嬉しいです。》
────
「……よし」
名前は書かなかった。
ただ、その端に小さく、
《〇〇高校、二年》とだけ記した。
餌やりの時間と、駐車場の場所を考えると、きっと同じ高校の誰かだろう。
そんな気がしたから。
ノートを閉じて植え込みの影にそっと置くと、黒白が不思議そうにこちらを見ていた。
「……頼んだぞ」
小さく呟くと、黒白は小さく口をあけて、目を細めた。
誰かが読むかもしれない。
返事があるかもしれない。
それが少しだけ怖かったけど、楽しみだった。
夕焼けが、ノートの白い表紙を淡く染めていた。


