二列目、窓側、君のとなり〜猫とノートと、君の声〜

気付けば、あの場所に来ていた。

いつもの駐車場。
ひび割れたアスファルト。
植え込みの端。

黒白と過ごした場所。

全ての始まりで、
全てが変わった場所。


「黒白に…会いに行かない?」

驚いた顔でこちらを見る朔。

「…黒白に?会えるのか?」

「…うん。行こう!」


ーーそう言って歩き出す。

駄菓子屋に向かって歩きながら、
朔に全てを話した。

玲央のこと。
おばあちゃんのこと。
そして、黒白のこと。


ーー木の引き戸をそっと開ける。

「いらっしゃい」

いつもの声。

でも今日は、隣に朔がいる。

それだけで、
景色が少し違って見える。

「あら、珍しいね」

おばあちゃんが優しく笑う。

「…お邪魔します」

朔が少し照れたように、挨拶をする。

初めて見た朔の顔に、
胸の奥がくすぐったくなる。

「今日も、奥の部屋にいるよ」

おばあちゃんの後ろ、
奥の部屋に上がったとほぼ同時に声がした。

「にゃあ」

黒と白の毛並みがこちらに近付いてくる。

「黒白」

しゃがみこむと、
いつものように擦り寄ってきた。

「……こいつ、相変わらずだな」

そう言って笑うと、朔は黒白の背中を優しく撫でた。

黒白は目を細めて、小さく喉を鳴らした。

「この子、すっかり懐いてるねぇ」

後ろからゆっくりと、
おばあちゃんが歩いてきた。

「玲央に、この子の名前聞いたかい?」

「「……え?」」

思わず朔と声が重なる。

「この子の名前って…」

「黒白…じゃないんですか?」

そう言うと、
おばあちゃんはくすっと笑った。

「それはあんた達が呼んでる名前だろ」

少しだけ間を置いてから、
やわらかく言った。

「この子、”ハル”って言うんだよ」

「……ハル」

思わず、声に出す。
その響きが、
胸の奥にすっと落ちる。

「春にうまれた子だからねぇ」

「ちょうどこれくらいの時期だったのよ」

おばあちゃんの言葉に、
朔と目が合った。

ーー春。

クラスが変わって、
俺と朔が始まった季節。

「……ハル」

もう一度呼ぶと、
黒白は嬉しそうに鳴いた。

「……なあ」

隣で朔が小さく呟く。

「……もしかしてさ、こいつは」

「俺達のこと、最初からわかってたのかな」

その言葉に、
胸がぎゅっと締め付けられた。

偶然だと思っていた。

でもーー

「きっと…そうかもしれないね」

「いい名前だな」

朔がそう言って、
ほんの少しだけ笑った。

その横顔を見てーー
胸がじんわりと熱くなった。

黒白は目を細めて、
小さく喉を鳴らしている。
まるで、
ーー最初から知っていたみたいに。

ずっと…
朔の隣にいれますように。

心の奥で、願った。

そう思えた今が、
たまらなく幸せだった。