二列目、窓側、君のとなり〜猫とノートと、君の声〜

「席替えするぞー」

そう言って教室に入ってきた担任の言葉に、教室がざわめく。

ガヤガヤと色んな言葉が飛び交う中、
紬は言葉を失っていた。

あの日から朔とは、会話もないまま過ごしていた。

でも。

二列目、窓側。

この席だけは、
隣に朔を感じられる唯一の席だった。

ふと、隣を見る。

朔は黒板を見つめたまま、
目が合うことはない。

この席から見る横顔が、
逃げてばかりだった俺の毎日に安心をくれてた。

……それを、
俺はずっと当たり前だと思ってた。

「さっ…朔」

気付いたら声をかけていた。

ゆっくりこちらに顔を向ける朔の目は、少し驚いているように見えた。

朔とこんなふうに、目を合わせたのは何日ぶりだろう。

何か話さなきゃと思えば思うほど、
ーーー言葉が出ない。

「前の席も、悪くなかったな」

先に沈黙を破ったのは、朔だった。
いつもの優しい目。

”「たまには前も悪くないな」”

初めてこの席になった時の、あの日の会話を思い出した。

「俺、色々困らせてごめん」

違う。

困ってなんかない。

「……っ…」

そう伝えたいのに、言葉が出ない。
言葉を発したら、涙が溢れそうだった。

「新しい席でも」

「ちゃんと、息するんだぞ」

そう言って朔は、俺の頭にぽんっと手を置いて席を立った。

俺は、真ん中の一番前。
朔は、窓側の一番後ろ。

隣に、もう朔は居ない。
振り向いても、目が合う距離じゃない。

ーー遠い。