二列目、窓側、君のとなり〜猫とノートと、君の声〜

目を覚ますと、休憩室にいた。
扇風機の風が、汗ばんだ頬を冷やしていく。


「あれ……」

俺、倒れたんだ。

倒れた俺をここまで運んでくれた人がいたと、同僚が教えてくれた。

……あれは、夢だったのかな?

でも、確かに朔だったような、そんな気がして仕方がなかった。


結局そのまま上がらせて貰えることになり、いつもより少し早くバイト先を後にした。

外に出た瞬間、ふと思い出した。

…そういえば、ノート。

朝から、朔の事でいっぱいで、黒白にご飯はあげたものの、ノートをすっかり忘れていた。


《最近、避けられてる気がして寂しい》


これを書いたあと、
朔が来てあんなことになったから、消さずにそのままだった。

思い出した途端、いてもたってもいられなくなって、駐車場に向かって歩き出していた。

薄暗くなってきたせいか、黒白の姿はなく、ノートだけが置かれていた。

「黒白」

植木のしげみの中から、”にゃ”っと短く聞こえた声に安堵して、ノートを開いた。


震える指先で、おそるおそるページをめくる。

《最近、避けられてる気がして寂しい》

その何行か下に書かれている返事。

《近すぎて困ってるだけ》

「…え…?」

どくん。

胸の奥が、急に騒がしくなる。

あの腕の感触、声。

頭の中に浮かんでくるのはやっぱり朔だった。


少し迷ってからペンを握る。

《じゃあ、離れた方がいい?》

書き終えたあとで、自分の心臓の音に気付く。

顔も名前も知らない相手なのに、
こんなこと聞いていいのかな。

いつの間にか、黒白が足元にいた。

「……返事、くるかな」

鼓動の速さを誤魔化すように、
擦り寄ってきた黒白の背中を撫でた。

「朔…だったりして」

目を細める黒白を横目に、
小さく笑って、ノートを読み返した。

さっきまで薄暗かった駐車場は、
いつの間にか街灯がついて、少し明るくなっていた。